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110.ヒメ 薬草を探しに行く


 浅い微睡みの中、閉じた瞼の裏に優しい朝の光が映る・・・

 いつもと違う硬い布団の感触に、昨夜の記憶が脳裏にうっすらと思い浮かぶ・・・

 (そう、か・・・リリーサが泊まったから・・・居間でみんなで寝たんだっけ・・・)

 そう思った瞬間、わたしは危険を感じて、ガバッと体を横に転がした。


 目覚めた先には、同じように布団から転がって、うつ伏せになってこちらを見ているリリーサ。

 「ハァ、ハァ・・・」

 「ハァ、ハァ・・・」

 息を切らせて見つめ合う。

 「引き分けですね。」


 「何やってるのかな?」

 足元でファリナが呆れた顔でわたしたちを見ていた。

 「ヒメさんが起きてしまったので、ほっぺた引っ張れませんでした。」

 「こちらのセリフ。残念・・・あれ?」

 横を見ると、呆然と横たわり、天井を見つめるミヤ。どうしたんだろう。

 「いきなりヒメが寝返りを打つから、腕枕から落とされたうえに、ヒメが転がった衝撃で弾き飛ばされちゃって・・・かわいそうなミヤ・・・」

 「え?あ、その、ごめん・・・」

 「ヒメ様後から説教。」

 こちらを見ずに、視線は天井を見つめたままのミヤ。怒ってるよね、これ。でも、わたしが悪いんじゃないんだよ。

 「いいから説教。」

 はい・・・


 朝ご飯を食べ、リリーサがよく行くという、薬草が群生しているガルムザフトの黒の森へ向かう門を開くため、家を出て近くの森へ向かう。そう、薬草が生えている場所に行くの!

 「まぁ、毒でも何でも薬には変わりありませんからいいですけど、いい加減開き直った方が人生疲れませんよ。」

 うっさい、しみじみ言うな。わたしにも矜持がある。ヤっちゃう時は燃やすべし、と。

 「清廉潔白みたいなこと言ってますけど、ヒメさん、わたしにこの国の国王様暗殺して来いって依頼したんですよね。」

 グッ!痛いところを・・・

 「い、依頼はしてないよ。めんどくさかったらヤってもいいと言っただけだよ。」

 「そういえば、結局、正面から面と向かって消してしまった場合、暗殺と呼べるのかどうか、ここの領主様には教えてもらえませんでしたね。」

 そういえば、ロイドさんからはっきりとした答え聞いてなかったな。

 「正面だろうが後ろからだろうが、思いもよらない人からヤられたら、暗殺でいいんじゃないの。」

 「どうでもいいんですけどね。暗殺でも抹殺でもやることは変わらないし。」

 早朝、かわいらしい女の子が5人でにこやかに歩きながら話してる内容が暗殺だとは、道行くおじさんたちも思ってないだろうな。

 「ヒメさん、ファリナさん、ミヤさん、おはようございます。」

 後ろから声をかけられる。見ると、ルイザたち新人4人組。

 「にこやかに話していたってことはあれですね、また物騒な話ですね。」

 あれ、世間はそういう見解なのかい?いや、当たってるんだけど・・・

 「ヒメ様の人間性が世間に知れ渡りすぎ。」

 「あれ?それではわたしたちも類友と思われているんでしょうか。」

 リルフィーナ、何を今さら。

 「そちらの方は、この間の幼女パーティーとは違う方ですね。とっかえひっかえですか?」

 わたしの人間性が歪曲されまくってるんですけど!

 「自業自得すぎる。」

 「普段の行いを反省してほしいわよね。」

 ミヤとファリナがさらに抉ってくるんですけど。

 「刺されないように気をつけてくださいね。」

 笑いながら新人4人は、ギルドの方へ走っていく。あんたたちこそ燃やされないように気をつけなさいよ。


 「朝から疲れ切ってしまったんだけど・・・帰っていいかな・・・」

 「いつものことじゃないですか。」

 リリーサ、たまにしかないよ。

 「たまにはあるんですね。」

 あのね、リルフィーナ、人生15年もやってると、あるのよ。たまに。

 「わたしは14年間1度もありませんけど。」

 ケラケラと笑うリルフィーナ。そのうち同じ目に合わせてやる。


 「ここです。」

 エルリオーラ王国から見て北の国、ガルムザフト王国の北方。少し離れた向こうには、ギャラルーナ帝国の国境の城壁が見える。この世界で唯一、国境を壁で覆っている国。

 「町も壁で覆われてますよ。」

 リリーサのセリフを聞いてふと思う。ここまで強固にされると一度襲撃してみたいな。壁を壊しながら進んで、王城まで行けるかな。

 「ヒメが本気でやったら、王城どころか、隣の国まで行っちゃうからやめなさい。」

 「森に入ります。あまり国境近くへは行かないでくださいね。黒の森には城壁がないのですが、たまにギャラルーナの警備の兵がいて、難癖つけてきますから。」

 「難癖?」

 「国境を越えている、とか。まぁ、この国のハンターをからかっているんですけどね。」

 「え?じゃ、わたしたちみたいなかわいい女の子のハンターなんか何されれるかわかったもんじゃないじゃない。燃やしてもいいよね。」

 「ギャラルーナ帝国は、規律が厳しいので、女の人に不埒な事をしようとした兵は厳罰に処せられます。その点は安心です。」

 「信用できるの?」

 「今の皇帝が女帝なのです。国内外問わず女の人を守る法律が制定されています。」

 「女帝さんか。それでも、自国外の人まで守るなんてすごいね。」

 感心したけど、ふと疑問に思うことが・・・

 「この国って兵隊なんだ。騎士ではないんだね。」

 国境警備の兵隊って言ってたもんね。でも、国境に警備に出せるってことは、かなりの数の軍人さんがいるってことだよね。うちらの国の騎士じゃ、とてもじゃないけど数足りなさそう。あ、城壁があるから、そんなに数いなくても大丈夫なのか。

 「その辺は割と複雑で、ザックリ言いますと、普通の国で騎士と呼ばれているのが、帝国軍人と呼ばれています。で、ハンターに当たるのが、帝国軍補完軍人と呼ばれる人たちなのです。通称“補軍”といいまして、軍人扱いですけどハンターなのです。なので、ハンターの仕事をしつつ国境も警備してるのです。」

 なんか大変そうだね。

 「あれ?でもその立場だと、人間同士のイザコザにもハンターの人が呼ばれることにならない?逆に、魔人族がらみで正規の軍人は動かないよね。」

 「そのへんは帝国ですから。近隣の王国は仮想敵国扱いです。なので、他国と事を構える場合言われた通り全員出動です。まぁ、本気で攻め込むことはないでしょうし、もちろん、帝国だからって魔人族とは戦わない訳じゃありませんから、そんな余裕もないでしょうけどね。」

 軍の意味ないよね。


 「人間は愚かだからな。」

 「ミギャ!」

 最後尾を歩いていたわたしの耳元でいきなり声が聞こえる。と同時に腕がわたしの首に巻きついてきて、後ろから抱きしめられる。思わず悲鳴が出る。悲鳴っぽくない?いきなりなんだから、女の子っぽい声出す余裕なんかない。

 「誰!?」

 「何?」

 わたしの悲鳴に振り向くファリナたち。現状を見て、リリーサとリルフィーナは驚きの声をあげるけど、ファリナとミヤは愕然とした目をしてこちらを見ている。

 自称、魔人族の混血の女性、エアがわたしに抱きついていた。

 「斬る。」

 「切り刻む。」

 2人の顔が怒りに赤く染まる。

 「ヒメから離れなさい!」

 ファリナが剣を抜き、飛びかかってくる。ミヤがファリナの影に隠れるように後に続く。

 エアは腕に力を入れると、わたしをファリナの剣の正面に立つよう動かす。

 「え?」

 「な?」

 わたしビックリ、ファリナも慌てて剣の軌道をずらそうとするけど、バランスが崩れて地面に転がる。

 それを見たミヤが、横っ飛びで進路を変えて、エアの横に回り込む。けど、それに合わせてわたしをミヤの正面に引きずるエア。ミヤ、やむなく動きを止める。

 「あ、あぶなっ!殺す気!?」

 「ダメだぞ。こんなことくらいで死んじゃ。」

 エアがにこやかに言う。

 死ぬわ!斬られたら死ぬって!


 「誰ですか?」

 リリーサはそういえばエアに会うのは初めてだっけ。

 「私はエア。どこにでもいるしどこにもいない存在。」

 わたしを離して、エアがなんか無駄なポーズをつけて名乗りを上げる。

 「あー、頭が可哀想な人ですか。ヒメさんの知り合いってこういうのばっかりですよね。」

 「鏡見てから言って。」

 どこをどう見たら自分を棚に上げられるのよ。

 「で、誰ですか?」

 「前に話したでしょ。人魔と会った時に出てきた混血のお姉さん。」

 「あぁあの、壺を売りつけようとしたという。」

 「そんな話をした覚えはないけどね。」

 いつ誰がそんな話したのよ。

 「壺ってなんだ?」

 エアは気にしないで。


 「お前たちは好き勝手に動きすぎる。後をつける方の身になって動け。」

 堂々とストーカー宣言やめて。

 「何でつけまわすのよ?何が目的?」

 「言ったろう。どこかに隠居生活してもらいたいと。人里離れた場所にお城のような家を建てて、私と一緒に暮らそう。食べて寝ての自堕落な生活を保障するぞ。」

 「え?」

 食っちゃ寝ありなの。心が激しく動く。

 「「「ゴホン。」」」

 わざとらしい咳払いが聞こえる。わ、わかってるよ。素直に聞く気はないよ。多分・・・食っちゃ寝ありか・・・。

 「ゴ、ホ、ン!」

 「わかってるよ、ファリナ。そんなあからさまにしなくても・・・」

 なぜか振り向いた先のみんなの視線が冷たい。あれ、リルフィーナまで?

 「まぁ慌てることはない。いずれ問題が起きてからでも遅くないしな。」

 「問題って何よ?」

 「言ったであろう。異常な力を持つからには、人族からつまはじきにされるやもしれん、と。」

 言葉に詰まる。否定ができない。

 「言いましたよね。わたしたちがそばにいるって。」

 ファリナが抱きついてくる。

 冷ややかにそれを見つめるエア。

 「魔人族は単純だ。力の強い者が上に立つ。強い者は権力を持つと同時に弱い者を守る義務を生じる。だが、人族はどうだ。力がなくても権力が手に入る。そして、権力を手にした者は弱き者を虐げる。歪んでいるとは思わないか。だから、力を持つ者を恐れる。お前は人族の脅威となりうる。人族の世界で生きていけるとは思えん。」

 誰も反論できない。みんな悔しそうにエアを睨むだけ。ミヤ以外は。

 「ヒメ様を排除する世界ならミヤが滅ぼす。お前の心配などいらない。」

 今度はエアが呆然とミヤを見る。が、すぐにクスリと笑う。

 「なるほど、それも一手か。だが、私もある方の意志を受けている。意地は通させてもらう。」

 「好きにしろ。万が一お前の意地がヒメ様のためになるなら、手を貸すこともやぶさかでではない。」

 なんかかっこいい言い回しだけど、やぶさかではないって言いたいだけだよね。

 「その時はお願いする。」

 2人でわかりあってるようだけど、こっちは何を言ってるのか全然だからね。第一ある方って誰?あぁ、めんどくさい。


 「ところでどこに行く気なんだ?こんな国境線ギリギリのちょっとつつけばもめ事を起こせそうな場所で。あれか?ここで暴れて、180年ぶりの人族同士の戦争を起こそうって算段なのか。やるのか?やるならやるぞ。」

 何を?何をやるの?エア・・・

 「薬草を探しに来たんだよ。この辺でよく採れるんだって。」

 「あまり人が立ち入らないからな。珍しい草くらいあるやもしれん。」

 さっきから気になっていたんだけど、しゃべり方が古風だね。

 「私もさっきから気になっていたのだが・・・」

 わたしの後ろに回り込んでくると、いきなりわたしを抱きしめるように伸びてきた手が、胸をわしづかむ。

 「ギャァァァァー!」

 わたし、ワタワタ。

 「ちゃんと食べてるのか?栄養が足りていないのではないか?発育が悪そうだぞ。特に言いづらい部分が。」

 その言いづらい部分を揉むんじゃない!

 慌ててエアの手から逃げる。

 「殺す殺す殺す・・・」

 「甘い顔をしたらつけあがる。思い上がりは切り刻むしかない。」

 ファリナたちが剣に手を伸ばすけど、エアはまったく気にした素振りも見せずにわたしを見つめる。

 「だが、ちょっと待て。」

 次の瞬間、エアはわたしの後ろに立っていた。何?このミヤ並みのスピード。

 その手が再度わたしに伸びる。

 「ギャギャギャァァァ!!なんてとこ触るのよ!!!」

 わたし大暴れ、するけどエアの手が離れない。

 「な!?どこ触って・・・」

 あまりの出来事に一瞬動くのが遅れたファリナとミヤが今度こそ剣を抜いて斬りかかろうとするけど、わたしとエアを見た瞬間その動きが止まった。

 エアは、わたしのお腹の肉をつまんでいた。

 「プヨプヨ。足りないと思ったが、過多ではないか?ちゃんと食事の面倒みているのか?」

 「・・・なんというか・・・」

 「ごめんなさい・・・」

 2人は視線を外し、エアに謝る。

 謝るな、バカ!斬れ!斬りなさい!!こんな失礼な奴絶対燃やしてやる!!





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