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102.ヒメ ウルフを解体してもらう


 「またか。」

 ゴルグさんが渋い顔。

 「一体何匹パープルウルフ持ってるんだ?」

 いやー、今のところはわたしが3匹でリリーサが2匹かな。今1匹解体してもらったら、2人合わせても後4匹だから大丈夫。

 「残りはいいのか?」

 「解体しちゃうと、つい食べちゃうから。必要になった時に解体してもらいます。あ、でもレビウルフは普通のウルフと変わらないから食べても売ってもどっちでもいいから、解体しちゃっていいのかな。」

 どうしよう。レビウルフは魔獣だけど、魔法は使えないし、魔石も持ってない、はず。そう話に聞いている。見たことあるけど、狩ったのは初めて。今までは全部燃やしてたから。

 (初めてではないよ。今までだって戦闘後には足元に転がっていたから。パープルもレッドも。あとブラウンも。)

 そう考えたら、今まで宝の山を顧みないで生きてきたんだなぁ。

 (あの頃は持って帰っても、村長が喜ぶだけでわたしたちにはなんのメリットもなかっただろうからいいの。)

 それもそうか。あのころの籠の鳥状態のわたしたちじゃあね。

 「籠の鳥・・・というより・・・」

 「籠の虎だった。」

 「猛獣扱いだったよね、ヒメは。村人ですら面会はおろか基本接近厳禁だったし。」

 「村長ですら、ちょっとつついたら土下座ぐらいしそうな雰囲気だった。」

 わたしたち、だからね。しみじみとわたしを見ないで。


 わたしの分のレビウルフとパープルウルフを1匹ずつ解体してもらう。毛皮はわたしのものにしていいとリリーサが。

 「元が人魔からのもらい物ですからね。肉が食べられるだけで上等です。」


 そう言えば、ずっといろいろ気になっていたんだけど・・・

 「リリーサは、解体をゴルグさんに頼んでるけど、ここって専門だから料金高いよね。ギルドの解体に頼んだりしないの?」

 ギルドの解体料は、ほんとに技術料だけみたいだけど。

 「ギルドに頼むと、狩った獲物が全部ばれてしまいます。前にも言いましたけど、わたし勇者になるつもりはないので、あまり評価されてしまうのは困ります。それに、狩った獲物を売ってくれって言ってくるんですよね。わたしは自分のお店で売るって言ってるのに。特に最近のようなレア物は、ギルドに知られると面倒です。そのくせ、買値は二束三文です。なめてます。ゴルグさんはその点安心です。腕は確かだし、守秘義務も守ってくれます。」

 なるほどね。わたしたちは、商売するわけじゃないから買い取りの値段は気にしたことないもんなぁ。

 「昔からの知り合いなの?」

 「あの男が知り合いでした。」

 プンと横を向いてしまう。ズールスさんの知り合いか。

 「あ、それと、リリーサの引っ越しでそのままになっていたレッドウルフの毛皮はどうなったの?」

 「そうです。引っ越しの忙しさで忘れてました。今回のヒメさんの毛皮と一緒に乾燥させてしまいましょうか。ヒメさんは毛皮どうしますか?何でしたら、わたしが売りますよ。前に言った通り7対3でいいですよ。」

 「今回は持ってようかな。しばらくたって、使わない様なら頼むよ。」

 「わかりました。持っていて困るものでもないですしね。」

 「収納があればね。普通は邪魔なんだけど。」

 ファリナが呆れたように言う。

 「だが、毛皮を乾燥させている時間はない。もう夕方だ。晩ご飯が優先する。」

 ミヤが真剣な顔でわたしを見る。

 「明日、乾燥をお願いしようか。今日はここに置いていって、第一段階の自然乾燥してもらっておこう。」

 「じゃ、わたしのレッドウルフの毛皮も出しますね。」

 

 ゴルグさんが解体して、リャリャさんが肉を切り分けてくれる。

 わたしたちは、いつものごとく袋に詰めるだけ。

 「薬はどうする?作る時間がないから明日になる。必要ならすまんが保冷庫の手前部分だけ動かしてくれんか。」

 瓶に内臓部分を入れる。薬にしなきゃこのまま廃棄。

 「ファリナ、レビウルフって薬になったっけ?」

 「なるわ。ウルフ系は一通り薬になるの。使い道があるかどうかは別にして。」

 「じゃ、両方とも一応作っておこうかな。パープルはあと1匹分しか残ってないし。ミヤ、保冷庫頼めるかな。」

 「任せろ。」

 保冷庫手前部分は、全体の3分の1しかないうえ、奥の壁に当たる部分はその奥への引き戸なので、ピューリー鉱は設置されていない。つまり、左右の壁にしかピューリー鉱がないから、業務用とはいえミヤにとってあっという間に鉱石を発動させられる。

 壺に入れた内臓は明日までここに保存。毛皮は、網戸で覆われた窓がいっぱいの部屋で、同じく明日まで自然乾燥。


 肉は、1匹につき24人前に分けることができた。この大きさのウルフだと大体そのくらいになるんだね。解体料と薬の製作料を払って、肉を受け取る。

 「じゃ、それぞれ4人前をお裾分けで置いていきますね。」

 「いいのか。なんか、この前市場に出た時は、異常な高値だったと聞いたが。」

 あぁ、リリーサが売った分だね。やっぱり自分で食べる人は少なくて、市場で売ったんだ。

 「卸値が異常だったからね。市場での売値は恐ろしい事になってそう。」

 「貴族専門の市場なので、俺たちじゃ入れないから値段まではわからないな。それでも、すぐに売れたという話だぞ。」

 「エヘン。」

 リリーサ、何、胸張ってるの。自慢していい事なんだろうか。

 「それじゃ明日の昼前に来ますので、よろしくお願いします。」

 「わかった。」


 もうリリーサが村にいることを気にしなくていいので、リリーサの住むソイルの村まで空間移動で行って、村の八百屋で野菜を買う。途中、リリーサのお店がもう店じまいしてることを確認して、リリーサの家に向かう。

 肉のお裾分けをズールスさんにもしようと思ったんだけど、リリーサがもう遅くなるから、明日ゴルグさんのところに行く前に寄ればいいと言ってきかないので、今日のところはあきらめる。


 「出すのは、レビ5人前とパープル5人前でいいかな。」

 「7人前ずつがいいんじゃない。この前17人前平らげたんだから。でも、あれ、さすがに多かったから、少し少なめに。」

 「死ぬかと思いました。それでも、箸が止まらない。色付きウルフの恐ろしさです。」

 ファリナのセリフに、この前のレッドウルフ1匹平らげ事件を思い出し、お腹を押さえるリリーサ。

 「事件にするな。」

 ミヤがツッコむ。いや、あれは事件だよ。殺人未遂だよ。食べ過ぎて死ぬかと思ったもの。


 「野菜も食べなさいよ!」

 相変わらずのファリナの怒号が響く中、相変わらずウルフの肉は美味しかった。

 「やっぱり、レビウルフは色付きに比べて、ちょっとだけ落ちるかな。」

 「それでも、十分美味しいです。わたしはこちらの方が油が少なくて好みです。」

 リルフィーナはレビウルフがお気に入りのようだ。

 「マリアさんにも病後の栄養補給にお裾分けしようかな。でも、ロイドさんにあげるのはな・・・」

 「マリアって、この間会ったパーソンズの領主の奥様ですか。フレイラちゃんみたいな子どもがいるとは思えないですよね、若くて。」

 「もう1人いるんだよ、子ども。」

 「え、フレイラちゃんの弟か妹がいるんですか?」

 「姉なんだよ。しかも15歳。」

 リリーサの箸を持つ手が止まる。

 「さすが貴族。犯罪者なんですね。ロリコンにもほどがあります。」

 「あれで、マリアさん30代なんだって。信じられないわよね。」

 ファリナの一言に、リリーサとリルフィーナ硬直。

 「妖怪ですか?あの女。」

 リリーサ呆然と呟く。


 「それにしても・・・」

 ファリナがジトッとした目でわたしを見る。

 「ヒメはずいぶんマリアさんにご執着のようですこと。」

 え?そんなつもりはないけど・・・ミヤからも同じような目で見られるとなんか肩身が狭いんだけど。

 「いや、病弱な美女ってなんかほっとけないじゃん。」

 「ふーん。」

 ファリナ、ミヤ、視線が痛いから。含むところは何もないから。


 合わせて14人分。5人で。

 「ダメだ。欲望に任せて食べちゃダメだよ。」

 「死にます。これは死にます。」

 わたしとリリーサは、その場で横になる。

 ファリナやミヤ、リルフィーナはちょっと苦しそうだけど割と平気そう。

 「学習能力があります。前回と同じ轍は踏みません。」

 リルフィーナ、なんかわたしとリリーサがおバカに聞こえるんだけど。

 「おバカでしょ。何で出した肉全部食べようとするの。<ポケット>に入れておけば、また後日ってできるでしょう。」

 「それは、なんか負けた気がする。」

 「何に負けるのか不明。」

 自分によ、ミヤ。自分にだけは負けられないの。

 「愚か者の戯言です。」

 リリーサ、起きてから言いなさい。何で同じざまのあんたに言われなきゃいけないのよ。

 「ところで、どうします?帰れますか?無理そうなら泊まっていってもいいですよ。どの道明日ゴルグさんのところに行かなきゃいけないですし。」

 「どうしよう。ファリナ、わたしを担げる?」

 「無理。今日はご厚意に甘えて泊めてもらいましょう。」

 明日はエルリオーラで用事はなかったよね。ゴルグさんのところに昼前、その前にズールスさんのところに行って、肉お裾分けして・・・いいか。

 「ごめん、リリーサ。お言葉に甘えて泊めてもらうよ。」

 「予備の部屋があるんだったっけ。わたしたちはそこに寝ればいいのかな?」

 「何を言ってるんですか、ファリナさん。みんなでお泊りですよ。ここに布団持ち込みます。リルフィーナ、用意を。」

 居間で雑魚寝か。でも、この顔ぶれならその方が落ち着くかな。

 「ただ、お風呂はヒメさんの家ほど大きくないので1人ずつになります。」

 「うん、お湯入れ替えるなら言って。100回でも200回でも大丈夫だから。」

 「それは1人20回は入らないといけませんね。明日の朝までに入り終わるかな。」

 いや、真面目に考えなくていいから。


 そして朝。

 「うにゅー。」

 がんばってはみたものの、朝起きれるはずもなく、リリーサにほっぺたを引っ張られて目が覚める。

 「おかしい。今日こそわたしがリリーサのほっぺたを引っ張るはずだったのに。」

 「昨日の昼寝の時引っ張りましたよね。そして、今日もキスで起こそうとしたら、ファリナさんとミヤさんに首筋斬られました。だんだん、斬り方がマジになってきてるんですけど。さすがに首を落とされたら<モトドーリ>使えなくなるので、少し考えてほしいのですが。」

 「あなたもやられるのがわかっていてやるのはやめなさい。次は首が胴から離れるからね。」

 ファリナの目がマジだ。

 「お姉様、わたしならいつでもいいですよ。優しく起こしてください。」

 「リルフィーナは、わたしより早く起きるので起こせません。」

 「しまったー!意外な盲点でした。」

 いや、意外でも何でもないよね。

 「リルフィーナがリリーサをキスで起こしてあげればいいじゃない。」

 「寝ている隙を狙うなんて邪道です。人間として最低です。あれ?お姉様、どうしました?」

 リルフィーナのセリフに、床に倒れ込むリリーサ。

 「いいんです・・・わたし、最低の人間なんです・・・」

 リリーサのダメージは結構大きかったようだ。うん、めんどくさい。





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