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1.ハンターの少女たち



 「村が・・・燃えている・・・」

 使いからの帰り道、3人の少女が彼女らの村近くまで戻ってくると、村の方角から煙が上がっているのが見えた。

 慌てて走り出した3人が、近道にと駆け上がった丘の上から見たのは、かつて自分たちが住んでいた村が、魔人族によって破壊されている様だった。

 家々は燃え、住んでいた人たちの姿はなく・・・数十体の魔獣が、いまだ破壊を続けていた。


 1人の少女が、魔獣の群れに向かい、走り出す。

 慌ててその後を追う2人。

 3人は、炎の中に姿を消した・・・

 それから、およそ半年・・・




 「今日の予定は?」

 それほど樹木の数も多くない森を、一直線に横断する街道の道端の岩に腰かけてわたしは傍に立つ2人に話しかける。

 とはいえ、そのうちの1人、金髪ショートで3人の中では一番背が低くて、12、3歳に見えるミヤは、わたしの話などどこ吹く風と、ボーッとただ空を見上げている。

 実際、何も見ていないんだろうし、話も聞いてもいないんだろうなぁと分かっていたので、わたしが話しかけたのは、もう1人の、背中の中ほどまで伸ばした茶髪をポニーテールにしていて背は一番高い、まぁ15、6歳に見えるファリナに対してである。

 ちなみに、わたしは2人からはヒメと呼ばれている。腰まである黒髪ロングを途中から編んで髪留めで留めている。見た目は13、4歳・・・実際の年齢は3人とも秘密。レディの歳を聞くやつはみんな不幸になったわ・・・

 これでもわたし達は、ハンターと称される冒険者を生業にしている。

 ミヤは拳術士、ファリナは剣士(魔法少々)、そしてわたしヒメが魔術師(剣少々)といったジョブだ。


 で、最初のセリフになるわけ。今日は何を狩るのかな?

 「今日は採取をメインとします。ちょっと森の奥まで入って高く売れそうな薬草や自生の野菜、果物を探します。」

 ファリナがわたしたちに言い聞かせるように説明してくる。

 「えー、魔獣か野生の獣狩ろうよー。そっちの方が高く売れるじゃん。」


 ちなみに、魔獣と野生の獣の違いは、魔獣の方が魔人族につらなる生き物で、魔力を多少なりとも持っている獣のことで、野生の獣は、わたしたち側である人族の生態系につらなり魔力は持っていない。

 まぁ、魔獣が魔力を持っているといっても、全部の魔獣が魔法を使うわけではなく、使うのは一部の魔獣だけだ。見た目がちょっと禍々しいくらいで、一部のものを除いてけっこうおいしい。


 ちなみに魔人族っていうのは、この世界に住む魔力の強い種族のことで、大陸中央の山脈の向こうに住んでいて、めったに人族の前には現れないけど、年に数回種族間で戦争になることもある。と言っても、全面戦争じゃなくて、大陸にいくつもある人族の国の1つ2つと、その国の近くの山脈を越えたところに住んでいる魔人族の一群との間での戦闘が度々起きるというもので、その度に人と魔人の境界線がすこしづつ変わっていく。


 つい半年前にもエルリオーラ王国で魔人族との戦争があったんだよ・・・


 「ね?いいでしょう?魔獣、魔獣。」

 「却下します。」

 採取じゃなくて狩りの気分になっていたわたしの提案をファリナはあっさり取り下げる。

 「な、なんでよ?」

 「ヒメの学習能力が皆無だからよ!」

 え?いきなりなんてこと言い出すの、この女・・・

 「ヒメ様学習能力ない。」

 うわ・・・いまのいままでボーッとしてたミヤまで会話に入ってきたうえに向こうサイドに付きやがった。

 「なにを根拠にそんなデマカセを・・・」

 「デマカセ?一昨日の狩りで、わたしあれほど言ったよね。ヤマアカガニの甲羅は高く売れるんだからとどめは剣か、せめて氷の槍の魔法でって・・・なのに、なんで豪炎の魔法で跡形もなく消し炭にしちゃうかな?しかももう何回目?なんで獲物を燃やしちゃうの?売るって言ってるんだから、足一本でも残しなさいよ!何回言っても全部燃やしちゃって灰しか手元に残らないってなに?灰が売れるの?灰をいっぱい集めてなにがしたいの?ひどいときなんか灰すら残さないよね。なんで?ねぇ、なんでなの?」

 あ、まずい・・・マジで切れてる・・・

 逃げ出そうと、一歩下がる。

 怖い目をしたファリナに、肩を鷲掴みにされる。逃げられない・・・

 「ミヤ・・・助けて・・・」

 「ヒメ様バカなの悪い。あきらめて。」

 こいつ・・・わたしを様づけで呼ぶわりに絶対尊敬してないよね・・・

 これでもかつては聖女って呼ばれていたのに・・・

 「そんな昔の話はどうでもいいの・・・今を・・・現実を見なさい。」

 いや、だからファリナ、マジで怖いって・・・

 「大体、ヒメが宿屋はもういやだ、家が欲しいって言い始めたんだよね。そのための資金稼ぎなのに、発案者のあなたが、いいかげんで適当ですべてにおいて雑でやる気があるのかないのか・・・・・・」

 わかった、ごめんなさい、わたしが悪かった・・・話、長いよ・・・

 「お金なら、それなりにあるじゃん。」

 「あぁ、外道資金?あれは家を買ったから、最初にあった9割しか残ってないわよ。」

 全滅して誰もいなくなった村から残っていたお金を利用させていただいた。それを外道資金と呼んでいる。命名者はミヤだ。

 「いや・・・9割残ってるんだよね?そもそも、家はもう買ったんだから資金稼ぎっておかしいよね。」

 「わかってる?お金って使うと減るの。薬草でも獣でも魔獣でもなんでもいいの。なにかを売ってお金を増やしていかないといつかは無くなるの。狩りに5回行ったとして、そのうち1、2回しか売るものが手に入らない・・・3、4回は獲物を全焼させるおバカがこのパーティーのなかにいるの。それじゃやっていけないの。おバカでもそのくらいわかるよね。」

 「ヒメ様おバカ。」

 ミヤ・・・あんた・・・

 「さすがにおバカでも草とか野菜なら燃やそうなんて考えないはず・・・いや、おバカだからやりかねないけど、とにかく、今日はなんらかの収穫が欲しいの。ここ数日、朝早くから出かけて、夕方までかけて、ただ獲物を燃やして手ぶらで帰ってくるだけなのはもうたくさんなの。」

 「あのねぇ、黙って聞いていれば、人のことおバカ、おバカって・・・」

 「あ?」

 「いえ・・・なんでもないです・・・」

 ごめんなさい・・・ファリナ・・・目をむいて睨むのやめて・・・本気で怒ってるんだ・・・

 「わかったわよ・・・今日はおとなしくしてるわよ・・・」

 「今日は?」

 「いえ・・・これからも・・・ずっと・・・できるかぎり・・・」

 だめだ・・・これ以上さからったら・・・きっと晩ごはん作ってくれなくなる・・・それだけはかんべんして・・・ごはん食べなきゃ死んじゃう・・・


 森の奥、中級レベル以上のハンターが狩場にしている場所でわたしたちは、薬草や香料に使える草花、野生の野菜や果物・・・を探していた。

 初めはくだらないと思っていたが、いつの間にか、だれが見つけるかみたいな競争になり、特にわたしとミヤは勝負となると燃える性格なので、2人で大騒ぎしながら使える草花探していた。

 「どうよ!?ポーション用の薬草よ!」

 「フフーン。」

 そ、それは、漢方用に高額で売れる山人参・・・だったら、えーと・・・あった!大抵の毒に効くハイアンチドーテ用の薬草見っけ!ゲッ!それはめったに見つからない大ニンニク!ってこういうのはミヤのほうが得意なんだから、ちょっとは加減しなさいよ!

 「勝負してきたのはヒメ様・・・ミヤはたとえ相手がウサギでも全力で・・・骨一本残さず食べつくす!」

 いや、なにを言ってるのかわからないうえになんか怖いわ!

 ひとり離れて淡々と採取していたファリナの視線が今一つ冷たかったような気がしたが、気のせい、気のせい・・・別に遊んでるわけじゃないよ。ちゃんと、なるべく高く売れそうな物を選んでるし・・・ちょっとくらい楽しんだっていいじゃない・・・


 「キャァー!!」

 どこからか悲鳴が響いた。近いね。それに女の人っぽい。

 声のしたほうをチラと見たあとわたしは採取を再開する。まぁ、わたしに関係ないし・・・

 「・・・助けないの?」

 ファリナがこちらをじろりと見る。

 「え?なんで?」

 「ヒメ様外道。」

 え?ミヤまで?あれ?2人の視線がすっごく冷たい・・・なんかわたし悪者?こ、これはまずい!

 「も、もちろん助けるよ!?わたしたちは元とはいえ勇者なんだからね!」

 「ですよねー」

 「行くのか?向こう。」

 3人の中でもファリナは、わたしたちが元ではあるが勇者であったことにこだわりがある。

 わたしは、そのしがらみから逃げたくてあの村を捨てたのに・・・


 あ、勇者って言っても大したことないよ。

 この世界じゃ、魔人族と剣でも魔法でもいいから対等に戦える人を勇者と呼んでいる。小さな村でも数人、王都に行ったら、数百人はいるってくらい珍しくもない。

 ぶっちゃけ、高レベルのハンターは勇者といってもいい。

 ただ、ハンターの中にも命の危険まで犯して魔人族とは戦いたくないって人たちもいる。

 だから、勇者は登録制になっていて、国または中央のハンターギルドが認めて登録した者のことを勇者と呼んでいる。ハンターのなかの資格みたいなもので、ふだんは普通のハンターだけど、魔人族がらみの仕事があったら優先して引き受けなくてはいけない。そのかわり、ただのハンターよりはいろいろと融通してもらえる特典があるなどハンターの中でも特別扱いだ。

 もちろん、魔人族と国を挙げての戦争ということになれば、全勇者はもちろんただのハンターであっても呼集がかかって、参加しなければならない。

 勇者は、人々にとって名誉ある地位なんだろうけど、わたしにとっては何の意味も持たないただの呼称だ。


 真剣さを演出するため、いや、現場に急ぐため、わたしはそれなりのスピードで木々の間を駆け抜ける。



 「もう、逃げないのか?」

 5人の男たちが、2人の少女を大きな木の根元に追い詰めていた。

 少女の1人は、11、2歳くらいに見え、森の中を歩くための恰好だろうスラックスに高級そうな布地のフリルのついたブラウスを着ていて、見た目から身分が高そうに見える。

 もう1人は20歳前後、革の胸当てや肘、膝当て、ブーツなどの防具を身に着け、ショートソードで武装している。幼い少女の護衛なのだろう。

 「貴様たち、こんなことをしてただですむと思っているのか?こちらの方をどなただと思っている?」

 「領主様のお嬢様だろ?だから、人質にして、領主様に高く買っていただこうと思っているんじゃないか。おまえも、おとなしく降伏するなら命だけは助けてやってもいいぞ。美人だしいい体をしている。俺たちを楽しませてくれよ。」

 いやらしい笑みを浮かべる男たちに少女2人の顔が屈辱にゆがむ。

 人数差が大きすぎて、護衛の少女にはなす術もない。ここで自分は殺されるか、捕まって酷い目にあわされるだけ。ならば、相手をできるだけを道づれにして戦って死ぬだけだ。

 どの道、自分にはもう未来はない・・・それでも、せめてお嬢様を逃がす時間だけでも稼がないと・・・

 護衛の少女は絶望に心を押しつぶされながら、気丈にそれに耐えていた・・・そこに・・・


 「燃やしていい?」

 あまりにも場違いな、気の抜けた声が響いた。

 あまりにも場違いすぎて、そこにいた全員が戦うことも逃げ出すことも忘れて、声の方に呆然とした顔を向けた。


 3人の少女が立っていた。

 1人はどことなく楽しげに、1人は厳しい目つきを、そして、1人はどうでもいいやという視線を男たちに向けていた。

 少女たちが剣を携えていることに、一瞬顔をしかめた男たちだったが、よく見ると相手が10代前半くらいだとわかったとたん、顔にいやらしい笑みがもどった。

 「なんだ、おじさんたちと遊んでほしいのか?」

 「楽しめる人数が増えたじゃないか・・・」

 男たちの中の3人が、新たに現れた少女の方へ剣を向ける。


 「変態は燃やしてもいいよね。」

 再度、わたしはファリナに確認をとる。

 これでも、わたしは、学習する子、今日のファリナは怒らせちゃだめだ。なにせ、わたしの晩ご飯がかかっている。


 「うーん、こんなのでも捕まえれば報酬がでるのよねぇ・・・しかも、襲われているのは、なんか、お金持ちそう。きっと、上乗せの報奨が・・・」

 そのセリフを聞いた護衛の少女が叫んだ。

 「も、もちろんだ。この場を切り抜けてくれるのなら、旦那様からの褒美は約束しよう。」

 彼女からすれば、こんな年端もいかない少女たちなど当てにはできないが、お嬢様を逃がすための時間稼ぎくらいにはなるだろう程度には思っているんだろう。

 自分とこの3人の犠牲でお嬢様を助ける。そのつもりで。


 「殺しちゃだめよ!半殺し・・・いえ、3分の2までなら許可します!!」

 褒美と聞いて、ファリナの目の色が変わる。

 いや、3分の2ってどのくらいだよ・・・んー・・・じゃ、剣は使わないで、全員殴り倒しますか・・・燃やせないならせめて殴りたい・・・って・・・あれ・・・

 わたしは異変に気付く。ミヤも気づいているようで、わたしと同じ方向を見ている。

 「やばそう?」

 その様子を見たファリナがちょっとあわてて、声をかけてくる。

 声には出さないけど、楽しそうかな・・・わたしにとって・・・




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