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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
第4章 2人の試練編
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18、 奪取 (後編)


凛は目を見開いて呆然(ぼうぜん)としている2人の元にツカツカと歩いて行くと、 口元を柔らかく微笑ませ、 奏多の目の前に黙って右手を差し出した。


ーー これって…… 夢なのか?



ついさっきまで会いたくて仕方なくて、 だけど会えないと(あきら)めていたその人が、 いま目の前に立っている……。



奏多はまるで当然とでもいうように自然にその手を取り、 凛と同じ微笑みを返していた。



「奏多、 迎えに来たよ…… 一緒に帰ろう」

「…… うん」


「カナくん! 何してるの?! ちょっと待ってよ! 」



熱に浮かされたように腰を浮かせた奏多の腕を、 灯里がグイッと引き戻す。

その瞬間に、 奏多の思考も現実に引き戻された。



ーー ダメだ! 何やってるんだよ、 俺は!


「ごめん、 凛…… 俺は行けないよ」



奏多が(ゆる)めた手のひらを、 凛がもう一度、 力強く握り直した。



「ダメだ、 凛。 俺は灯里に勉強を…… 」


「もういいの」

「えっ? 」


「もう隠さない。 もう秘密の関係は卒業したいの。 奏多が彼氏だって言いたいの…… 言ってもいい? 」


「…… 俺はずっとそうしたかった……だけど、 凛は本当にそれでもいいの? 」



凛はコクリと頷いて、 灯里の方をチラリと見てから、 もう一度奏多に目線を戻した。



「今までいっぱい我慢させてごめんね。 勇気がなくてごめんね。 こんな風に…… 嘘をつかせてごめんなさい」



奏多は今度こそしっかり立ち上がると、 腕に回された灯里の手をそっと引き離した。

すかさずしがみつこうとするその手首を掴んで、 そのままゆっくり机の上に戻す。



「灯里、 もう行くよ。 今日一日俺を振り回して満足しただろ」

「ダメっ! 行っちゃやだ! そんなことしたら、 私…… 」




「好きにすればいいよ」


凛が短く発した言葉に、 奏多と灯里が同時に振り向いた。



「もう隠す気はないし、 そんな脅しに負ける気もない。 あなたがしてることは(ずる)くて幼稚(ようち)だわ」



そう言い残すと、 奏多の手を引いてスタスタと出口へ歩き出した。


周囲の注目が一斉に自分に集まっていることに気付くと、 灯里は顔を真っ赤にし、 (あわ)ただしく荷物をまとめて後を追ってきた。


「ちょ…… ちょっと待ってよ! 」



玄関で立ち止まると、 外に出て行った奏多と凛の背中に向かってヒステリックに叫び出す。


「こんなことして恥をかかせて、 本当にどうなったって知らないから! 絶対に許さないから! 」



凛が立ち止まり、 灯里を振り返って低い声音で冷たく言い放った。



「そんなのまるで、オモチャが手に入らなくて駄々をこねる子供だわ。

思うように出来なくてパズルをひっくり返した小さい頃と同じことを繰り返してるだけよ」



それだけ言うと、 また前を向いて足早に去って行った。

二度と振り返らないその背中に向かって、 灯里は涙声で一人(つぶや)く。



「2人揃って同じようなこと言わないでよ…… 本当に…… 絶対許さない」



だけど、 その言葉はもう、 2人には届かなかった。



***



駅のホームに立つ間、 凛も奏多も一言も口をきかなかった。 繋いだ手のひらはこんなにも汗ばんでいるのに、 その指先は微かに震えている。


言葉にしなくても、 お互いの考えていることが伝わってきた。


達成感と高揚感と、 押し寄せてくる不安……。


今何かを言葉にしたら、 振り返ったら、 後ろから追いかけてくる何かに捕まりそうで…… ドクドクと大きく響く心臓の音を聞きながら、 ずっと目の前の線路を見つめていた。



これからどうなるのか分からない。

だけどもう後戻りはしない、 出来ない。


ただ一つ分かっていることは…… 自分たちは今、 普通の恋人として堂々とここに立っているということだけだった。



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