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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
第4章 2人の試練編
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16、 奪取 (前編)


「今日は駅前の店に寄って、 凛が1位になったお祝いのケーキを買って…… んっ? こういう時って花束か? 俺、 花言葉とか知らないよ…… 姉貴に聞いてみようかな…… 」



奏多がウキウキしながら学校から駅への道を急いでいると、 ポケットの中でスマートフォンが鳴った。



「もしもし、 どうした? …… 灯里」



「うん、 今日は終業式だったでしょ? もう帰る頃だと思って。今は家? 」

「ううん、 まだ駅に向かう途中」


「良かった〜! 私、 期末テストで数学が散々だったの。 今日、 テストの見直しを手伝ってもらえないかな」


「今日はダメだよ」



そう言った途端、 電話の向こうの灯里が黙り込んだ。



「……小桜さんが来るから? 」

「…… うん」


「ふう〜ん、 私にバレたのに、 まだ通い妻してるんだ。 危機感なさ過ぎだよ! 」

「それは…… 」



「今日は特別なんだよ、 急いでるからもう切るぞっ! 」

「嘘つき。 約束したじゃない、 呼んだら来てくれるって」


「明日だ、 明日なら行けるから…… 」

「ダメ! 今から来て。 来てくれないなら…… 私、 秘密を守れないかも」


「灯里! 」


「カナくんが約束を守ってくれたら私だって裏切らないよ。 待ってるから、 絶対に来てね! 」



奏多の返事を待たずに電話は切れた。

折り返しかけ直しても応答がない。


「くそっ! 」



苦い顔をしてもう一度スマートフォンをタッチすると、 今度はメールを打ち込む。



『悪い、 ちょっと寄るところが出来たから遅くなる。 2時間くらいで帰れると思うから待ってて。 ケーキを買ってくよ』


凛に送信すると、 小走りで駅に向かう。



ーー 1時間だ…… 1時間で勉強を終わらせる。

それからケーキと花を買って…… 家でお祝いだ。



***



『ごめん、 やっぱり今日は帰りが遅くなる。 大切な日に会えなくてごめん。 1位おめでとう、 今度ゆっくりお祝いさせて。 凛は自慢の彼女です』



凛はリビングルームのソファーに座りながら、 じっと携帯電話の画面を見つめていた。



1回目のメールが来たときに、 凛は教室で奈々美たちとメルアドの交換をしていた。


ーー2時間かかる用事って何だろう?



その時は、 一馬たちとどこかに寄ってくるのかと考えていたのだが、 2回目のメールを見て、 疑念(ぎねん)()いた。



ーー 理由が書かれていない。



ちょっと寄り道してくるくらいならまだ分かる。

だけど、 2度も予定変更をしたのだ。 普通ならその理由を伝えてきてもいいだろう。


いや、 そもそも奏多なら、 直前になってからそんな簡単に予定変更なんてしない。 よっぽど緊急の用事でもなければ……。



「あっ! 」


緊急の用事じゃなくても、 予定変更せざるを得ない理由が一つだけ思い当たる……。



凛は一度閉じた携帯電話を開くと、 もうすっかり覚えている番号を押して、 呼び出し音に耳を傾けた。


応答はなく、 留守番電話になる。


少し考えて、 もう一度同じ番号にかけ直した。

3回目で奏多の声がした。



「もしもし、 凛? ごめん、 さっき出られなくて。 今ちょっと電話できないとこにいたから外に移動してたんだ」


「…… 図書館? 」

「えっ? なんでそれを…… 」


「灯里ちゃん? 」

「…… うん…… ごめん。 どうしても断れなかった」


「どうして? 彼女になんて言われたの? 私のため? 」

「いや、 凛は関係ない。 俺の判断で…… 」



『カナくん、 勝手に出てかないでよ! 』


突然、 奏多の声の向こうで灯里の声が(かぶさ)ってきた。



『カナくん、 早く席に戻って! あと、 電話はマナーモードにしといてよね! 』

「ちょっと待って…… 向こうに行ってて」

『カナくん! 』



すると、 急に灯里の声が耳にダイレクトに聞こえてきた。 たぶん奏多からスマートフォンを取り上げて喋っているのだろう。


「小桜さん、 勉強中なので邪魔しないで下さいね! あと、 図書館では電話禁止なので、 マナー違反です。 もう掛けてこないで下さい! 」



そのままプツッと切られた。



ーー やっぱり……。



携帯電話を見つめて考え込んでいると、 叶恵が帰ってきた。




「えっ?! あの子、 灯里に勉強教えに行ってるの? 脅されてるんじゃないの? 」


つい今しがたの通話内容を叶恵に知らせると、 開口一番で凛の疑念(ぎねん)どうりの事を言う。



「でも、 奏多は、 前に灯里ちゃんが分かってくれたから大丈夫だって言ってて…… 」


「大丈夫だったら、 灯里に勉強を教えるってコト私に隠す必要ないじゃない。 私は奏多から、『灯里にバレたけど、 黙っててくれるから大丈夫』としか聞いてないわよ。 灯里に口止めかなんかされてるに決まってるわ。 あの女、 どこまで(くさ)ってるんだか! 」



「叶恵さん、 私…… 奏多を連れ戻してきます」


「連れ戻すって…… 灯里をあまり刺激すると、 何するか分からないわよ。 本当に秘密をバラされるかも…… 」


「本当は今日ここで奏多に伝えようと思ってたんですけど、 私もう隠すのをやめるんです。 今夜帰ったら、 奏多のことを母に話します」


「いいの? 」

「はい、 私がそうしたいんです」



「そっか…… 恋する乙女は…… 」


叶恵の言い終わらないうちに、 凛がそのまま言葉を引き取った。



「恋する乙女はめちゃめちゃ強いんです。 奏多を奪い返してきますよ。…… 行ってきます! 」


「よしっ、 奪取だ! 頑張れ! 」



凛は黙って頷くと、 美しいフォームで駆け出した。


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