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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
第4章 2人の試練編
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3、 したたかな女


「あの子、 奏多(ねら)いだから」



叶恵はそう言ってから、 廊下の方をチラリと気にすると、 念を押すようにもう一度ハッキリ言った。



「いい? 凛ちゃん。 あまり長くここにいると(あや)しまれるから今は手短(てみじか)に言うけど、 灯里は小さい頃からずっと奏多のことが好きで追いかけ回してるの。 もちろん奏多は彼女のことを妹みたいにしか思ってないけれど」


「…… はい」



ネズミーランドから帰ったばかりで疲れてるだろうに、 お土産を渡すためにわざわざ30分も自転車を走らせてきた。 それはきっと、 どんな理由を見付けてでも奏多に会いたかったから……。



「弟びいきじゃなくて、 奏多ってあれでも小さい頃から割とモテるのよ。 ひたすら優しいでしょ? それで女の子がその気になっちゃうの。 で、 奏多に寄って来る子は大抵、 結構元気でグイグイ来るけど自分からは告白せずに様子を(うかが)ってるタイプ」


「確かに…… 」


凛は奈々美と都子の顔を思い浮かべた。

さすが姉、 弟のまわりをよく見ている。



「でも、 奏多はあんな感じでずっと恋愛モードじゃなかったから、 常に『みんなの優しい奏多』で、 女の子達も自分が恋愛対象に見られてないことを分かってる。 で、 どうするかって言うと、 奏多が優しいのをいい事に、 (そば)にべったりくっついて、 いつか自分だけを特別にしてくれないかな〜って虎視眈々(こしたんたん)と狙ってるの。 可愛い女の子アピールしながらジットリ狙ってるの」


「ジットリ…… ですか」



「そう。 ジットリ、 ネットリと奏多の近くで待ってるの。 で、 それと同時に、 他の女子への『私が一番なのよ』アピールも欠かさない。 横から(さら)われないように牽制(けんせい)しつつ、 (すき)あらば蹴落(けお)とそうとしてるの。 怖いでしょ、 ねえ、 めちゃくちゃ怖いでしょ〜っ?! 」


「はっ…… はい」


肩をグッと掴んで、 目を見開いた顔をグイッと寄せながら低い声音(こわね)で言われると、 ホラー漫画並みに恐ろしい。 グワシッ!



「そんなだから、 おとなしい女の子は早々に脱落して、 気の強い、 したたかな子だけが残るの。 そしてまさしく…… 」


叶恵はここが重要だというように言葉を切ると、 さっきまでより更に声のトーンを落として言った。



「灯里はしたたかな女、 そのものなの」



凛は叶恵の言わんとすることが分かってきた。

灯里は従兄妹(いとこ)として側にいつつ、 いつか奏多が振り向いてくれるのを待っている。

今後奏多に対してどんな手を使ってくるか分からないし、 凛もいつ『敵認定(てきにんてい)』されるか分からない。 だから『気をつけろ』ということなのだろう。



「奏多って本当に天然だからさ、 女の子への気配(きくば)りは出来るくせに、 女の子の本音とか恋愛に関してはポンコツなのよね」


「ふふっ……ポンコツ…… 」


「うん、 ポンコツ。 私はつい最近まで、 奏多はきっと、 したたかで押しが強い子に流されてデキ婚とかしちゃうんだろうって、 割と真剣に思ってたし」

「ええっ?! 」



その時、 廊下から2人を呼ぶ大きな声が聞こえた。



「カナちゃん、 どこ行ったの? もうケーキ食べちゃうよ! 」




「うわっ、 あの子、 居座いすわる気満々 だよ。 私ホント、 昔から灯里と相性が悪いんだよね…… 」



叶恵は、 「は〜い、 今行くから! 」と大声で答えて引き戸に手を掛けようとしたが、 その手を止めて、 もう一度凛を振り返った。



「凛ちゃん……どうか奏多を(あきら)めないであげてね」

「えっ? 」


「今までの感じだと、 2人ともどうにも優し過ぎてすぐに引いちゃうでしょ? 」



誰かと揉めたり争ったりするのが苦手で、 それくらいなら自分が我慢する方を選んでしまう。

それは美徳(びとく)ではあるけれど、 叶恵からすると、 とても(あや)うく見えるのだ。



「もしも奏多が不誠実(ふせいじつ)だったり、 凛ちゃんが、 コイツどうにも我慢ならん! って愛想(あいそ)()かした時は、 容赦(ようしゃ)なくぶった斬って捨ててくれても構わないのよ。 だけど、 もしもそれが凛ちゃんの優しさからで…… 誰かと争ったり悲しませるのが嫌で、 奏多を(ゆず)ろうとか身を引こうとか思ってのことなら……

一番悲しむのは奏多だっていうことを覚えていてね」



いつもは奏多をいじめたりふざけている叶恵だけど、 弟のことを良く理解し、 愛している優しい姉なのだ。


その人が自分たちの幼くて(つたな)い恋を応援し、 見守っていてくれると思うと、 凛は胸の奥がぽっと暖かくなり、 優しい気持ちで満たされるのだった。



「大丈夫です……」



凛は叶恵にニッコリ微笑んで、 今の真っ直ぐな気持ちをそのまま伝えた。



「叶恵さん、 たぶんもう私は、 奏多を(あきら)めるなんて無理です。 他のことなら(ゆず)れても…… 自分で奏多から離れるなんて、 もう出来ないんです」



叶恵は少し驚いたようだったが、 すぐに表情を(ほころ)ばせて、 凛の肩にそっと手を乗せた。


「そっか…… うん、 分かった」



引き戸を開けながら、 「やっぱ恋する乙女は強いんだね」と言ったので、凛も「強いんですよ」と返して、 2人で笑いながら廊下を歩いて行った。



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