2、 招かれざる客 (後編)
玄関先に立っているのは、 ポニーテールで身長156センチの、 笑顔が可愛らしい女の子。
「カナくん、 久しぶり! 」
「灯里…… お前、 なんでこんなとこに来てるんだよ」
「なんでって…… 家族でネズミーランドに行って来たからそのお土産と、 カナちゃんの誕生日プレゼントを持ってきた」
「持ってきたって…… なんで今日…… 」
ふと玄関の外を見ると、 パステルグリーンの自転車が置いてある。
「なに、 お前、 ここまでわざわざ自転車で来たの? 」
「うん、 さっきネズミーランドから帰ってきたんだけど、 早くお土産を渡したくって。 お母さんが今度持ってくって言ってたんだけど、 自分で渡したかったから」
灯里の家から百田家までは車で約13分、 自転車だと30分弱かかる距離だ。
奏多は頭の後ろを指で掻きながら困った顔で少し考えていたが、 仕方がないと覚悟を決めて、 上がり框に戻ってスリッパを並べた。
「どうぞ、 入って」
***
「はっ?! 灯里、 なんで来てるの?! 」
「え〜っ、 カナちゃんまでカナくんと同じこと言う〜! 明日から大阪に行っちゃうって聞いたから今日中にと思って、 せっかく誕生日プレゼントを持ってきたのに〜 」
驚愕の表情を浮かべている叶恵を尻目に、 灯里はダイニングルームにいる面々を見渡して、 顔をパアッと輝かせた。
「うっそ〜! 滝中の天使に滝高のマドンナ! えっ、 ウソ! こっちはサッカー部のイケメン2人組でしょ? 凄い! なんでスーパースターがここに勢揃いしてるの?! 」
「てか、 なんで灯里がこの子たちのことを知ってるのよ」
叶恵の質問に、 何を言ってるのだという表情で灯里が答える。
「そんなの、 この辺りの学生はみんな知ってるよ。 今の代の滝山はレベルが高いって有名だもん。 あっ、 レベルって顔面偏差値のことね」
そう言うと大和の前にスススと進み出て、
「原田大和くんですよね。 このまえ私の友達が校門で出待ちしてたんですよ、 覚えてないですか? 」
人懐っこい笑顔で話しかける。
「そんなの知らね…… ってか、 そんなのいちいち覚えてないよ」
ぶっきらぼうに返されて、 灯里は頬をぷうっと膨らませる。
「ええ〜っ、 ぜんぜん天使の微笑みじゃない〜! めちゃくちゃ優しくて紳士って噂なのに! 」
「学校の外でまでいい顔してられないし。 ってか、 あんたうるさい」
「ええ〜っ、 ひど〜い! カナくん、 何とか言ってよ! 」
その言葉をきっかけに、 ダイニングルームにいる全員の視線が奏多に集まった。
「百田先輩…… てか、 カナくん? 一体この人なんなの? 」
皆を代表するように大和に聞かれ、 奏多はため息を一つこぼしてから吐き出すように言った。
「園田灯里、 俺より1個下の従兄妹だよ」
灯里は、 叶恵と奏多の母親の姉の娘、 つまり奏多たちの伯母の娘である。
園田家は百田家から車で13分ほどの隣町にあって、 奏多たちの両親が大阪に行ってからは、 伯母がたまに差し入れを持ってきてくれたり家に食事に呼んでくれたりと、 何かと気にかけてくれている。
過去にも何度か灯里が差し入れを持って来てくれたことはあったが、 連絡もなしで急にというのは初だし、 凛が家に来るようになってからの金曜日は絶対に断っていたので、 彼女が今日、 ここに来ることは本当に想定外だった。
灯里がお手洗いに行った隙に、 叶恵が奏多を睨みつけて言った。
「あんた、 なんで家の中に入れたのよ、 バカ! 」
「だって仕方ないだろ、 30分かけて自転車で来てるんだぞ」
「全くね…… あんたのその優しいとこが身を滅ぼすんだよ」
叶恵はみんなの方を振り返って、
「奏多と凛が付き合っていることを灯里に絶対に言わないように」
と強く言い含めた。
「家に彼女を連れ込んでるとか、 伯母さん経由で親にあるコトないコト吹き込まれると、 一気に 監視が厳しくなるからね」
全員が分かったと頷いたときに灯里が戻ってきた。
「灯里、 お土産ありがとうな。 お茶でも一杯飲んでから帰りなよ」
「あっ、 カナくん、 私もみんなと同じジュースでいい。 カナちゃんの誕生会してるんでしょ? 私も一緒にお祝いしたい」
「「「 えっ?! 」」」
「いいでしょ、 カナくん? 」
「…… ああ、…… うん」
「「「 ええっ?! 」」」
ーー えっ? ナニみんな俺のこと睨みつけてんの? わざわざ来たのにダメって言えるわけないじゃん! 追い払うなんて可哀想だろっ!
そう目で訴えてみたが、 灯里以外のみんなの冷たい視線は変わらなかった。
ーー なんなんだよ、 これ…… マジ混沌じゃん!
そのとき叶恵が凛に耳打ちして、 そっと彼女を漫画パレスに連れ出した。
廊下の様子を窺ってから、 引き戸をぴっちり閉めて凛に向き直る。
「いい? 凛ちゃん、 灯里には気をつけてね」
「気をつける? 」
「そう、 要注意」
両手で凛の肩をガッと掴むと、 その目を真っ直ぐ見つめて言った。
「あの子、 奏多狙いだから」




