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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
第3章 恋人編
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20、 はじめてのデート (中編)


電車が目的の駅に(すべ)り込むと、 2人は手を(つな)いだままで立ち上がり、 手を繋いだまま扉の前に並んで立った。



「足元に気をつけて」

「うん」


奏多のエスコートでホームに降りると、 お互い目を合わせ、 自然に笑みが(こぼ)れる。



今まで幾度(いくど) となく一緒の電車に乗ったことはあったのに、 隣に並んで座るのも、 ましてや手を(つな)いでホームに()り立つのも初めてだった。



新鮮で、 妙に落ち着かなくて…… 人目(ひとめ)(しの)んで会っている時とは違う種類の緊張感……。


だけどそれは、 決して嫌な感覚ではなく、 フワフワして甘い空気を(まと)った心地よいものだった。



ここでは隠れなくていいし、 離れて歩く必要もない。 普通の恋人として、 堂々と並んで歩くことが出来るのだ。


2人は今まで出来なかった分を取り戻すかのように、 そして、 数時間後に待っているいつもの日常までの時間を、 1分たりとも無駄にしないとでもいうように、 しっかり手を握って離さなかった。




今日の目的地は、 空港近くの海岸だ。


そこは国際空港の対岸(たいがん)にある人工のビーチで、 夏には海水浴場やBBQエリアとして(にぎ)わう人気のスポットだ。



海水浴シーズン以外は海の家もホットドッグの屋台も無い、 ただの白い砂浜なのだが、 そこからは空港に離着陸する飛行機を間近に(なが)めることが出来、 また、 夕陽(ゆうひ)が綺麗なスポットとしても有名なため、 夕方になるとムードを求めた恋人たちが集まってくる名所(めいしょ)でもあった。



叶恵のアドバイスと、『夕陽を見ながら手を繋いで…… の流れでキス』が決め手で行き先を海に決めた奏多は、

今度は妄想(もうそう)(よこしま)な気持ち全開で 『恋人』、 『海』、 『夕陽が綺麗な場所』で検索をかけまくり、 理想のシチュエーションにぴったりのこの場所を見つけたのだった。



だけど今はまだ午前10時。 夕陽にも理想のシチュエーションにも早過ぎる。


しかしそこは奏多もしっかりリサーチ済みだ。



「買い物しようよ。 すぐそこにモールがあるんだ」


近くの大型ショッピングモールをぶらつきながらお買い物。

これも一緒に行くのは初。



「ん、 持つよ、 かして」


彼女の背負っていたパステルカラーのミニリュックを受け取り自分の肩に掛ける。

彼女の荷物持ち、 これも初。



初めてだらけの感動で上がり過ぎたテンションをどうにか押さえつけ、 ステキな彼氏を気取って前を歩き出すと、 後ろからグイッと引っ張られコケそうになる。


「うわっ! 」



足を止めて振り返ると、 凛が奏多のシャツの(すそ)を引っ張ってムッとした表情をしている。


ーー あっ……。



「ごめん、 こっちだった」



リュックを受け取った時に離していた右手を慌てて差し出すと、 凛が照れた笑いを浮かべながら握り返してきた。

再び繋がったその手にギュッと力を込めて、 先に立ってズンズン歩き出したが……


奏多はすぐに思い出したようにスピードを緩め、 彼女の歩幅(ほはば)に合わせて、 隣でゆっくり歩き出した。



目が合って、 お互い頬を染め、 握った手をブンブン振りながら並んで歩く。


奏多は思わずニヤける表情筋をむりやり引き締めた。



ーー 彼氏としてちゃんと彼女をエスコートする…… これも初めてだ。



引き締めた表情筋があっという間に(ゆる)んでしまったけれど、 それはもう、 仕方ない。



***



駅のすぐ隣に併設されているショッピングモールは、そこから一駅で行ける国際空港からの来客を見込んで数年前に建てられたものだ。


若者向けのファッションブランドや雑貨店、 各種飲食店のほかに、 ゲームセンターや映画館も入った複合アミューズメント施設になっている。



「ねえ、 そういえば叶恵さんの好きな色って何だった? 」

「好んで着てるのは黒とか白だけど、 女子っぽいピンクのカバンとかも持ってるよ」

「大人の女性の好みって難しいね」



奏多がモールで買い物をしようと言ったのは、 ただ単に時間潰しのためだけではない。


もうすぐ迎える叶恵の誕生日のために2人で何かプレゼントを選ぼうと、 ここに来る前から凛と話し合っていた。



「いつもは何をプレゼントしてたの? 」

「中学に入ってからはずっと図書券。 悩まなくて済むだろ? 千円から徐々に金額が上がって、 去年は三千円分。 俺、 バイトしてないしビンボーだから」


「だったら図書券の方がいいのかなぁ…… 」

「う〜ん、 欲しい本があったら自分のお金で買うだろうし…… 姉貴は凛がお気に入りだから、 凛が選んでくれたなら何でも喜ぶと思うよ」


「そう言われると逆に困る〜 」



そう言ってぬいぐるみや雑貨を次々と手に取り首をかしげる仕草(しぐさ)もまた可愛くて、 奏多はプレゼント選びそっちのけで、 ニヤニヤしながら凛の動きを目で追っているのだった。



「ちょっと奏多、 さっきからニヤニヤしてばかりで真剣に選んでないでしょ」

「えっ?! 」


「さっきからどこ見てるのよ。 よそ見ばかりしてないで、 本気で真面目に考えてねっ! 」

「ああ、 ごめん。 凛を見てた」


「ええっ?! 」

「凛に見惚(みと)れてボーッとしてたわ、 ごめん」




「みと……って…… 真顔で何言ってるの? ()鹿()じゃないの?! 」




ニヤニヤしてたのも真剣に選んでないのも本当だったので正直に謝ったのに、 手を引いて店内から連れ出され、 1階が見下ろせる手すりのところで凛に説教された。



「あんなところで真顔で何言ってるの?! 店内の人に注目されたし、 めちゃくちゃ笑われたし、 もうあそこで買い物できないし! 」


「ジッと見られてたら買い物に集中できない! 」


「これだから天然タラシは嫌なのっ! 」



めちゃくちゃ叱られたけれど、 そう言って顔を真っ赤にして照れながら怒っている姿もやっぱり可愛い。



「へへっ、 怒られちゃった」と、 またニヤニヤしていたら、



「お説教してるのに反省してない! 」


と、 重ねて叱られた。



彼女になった凛に叱られるのも初だった。



2人の初めてが、 またひとつ増えた。



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