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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
第3章 恋人編
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16、 男と男の内緒の話 (前編)


(とき)は金曜日の放課後、 滝山高校の校舎に戻る。



その日、 原田大和(はらだやまと)はいつになく緊張した面持(おもも)ちで、 中学から高校へと続く渡り廊下を歩いていた。


途中、 ファンの女生徒たち何人かに声を掛けられたが、 軽く手を上げただけで見向きもしなかった。


今日の彼には、 いつものように愛想を振りまく余裕が無い。



高校の校舎に入って左折すると、 途端に人気(ひとけ)がなくなった。

中庭の見える長くて真っ直ぐな廊下に沿って、 会議室や生徒指導室といった、 普段あまり生徒が立ち寄らない部屋が並んでいる。


その、 白くて静かな廊下の途中で、 凛が中庭を(なが)めて立っていた。



「あっ、 こっち! 」


大和に気付いた凛が、 手招きして呼んだ。


「別に待ってなくても良かったのに…… 」

「うん、 でも、 高校の校舎は初めてでしょ? 」


そう言いながら、 先に立って歩きだし、 『生徒会室』のドアをゆっくり開けた。



差し出された椅子に大和が座ると、 その隣に椅子を拡げて凛も座った。

長机の反対側に椅子が1(きゃく)置いてある。 多分そこが樹先輩の席になるのだろう。



それから(たい)して待つことなく、 ドアの()りガラスに人影が映り、 ガラリとドアが開いた。



「お待たせ」


滝高の王子が、 (さわ)やかな笑顔で現れた。






「原田大和くん……だね。 生徒会長の葉山樹です、 初めまして」


その姿を見た途端、 『主役は遅れてやってくる』という言葉が大和の頭に浮かんだ。


あの日、 堂々と演台に立ち、 一瞬で広い講堂を()かせた憧れのヒーローが、 今、 自分の目の前に颯爽(さっそう)と現れた。



樹が右手を差し出すと、 大和はガタッと大きな音をたてて立ち上がり、 両手でその手を握りしめた。



「原田大和です。 お会いできて光栄です! 」


頬を紅潮(こうちょう)させ、 興奮の面持(おもも)ちで樹を見つめている。



「背が高いなあ〜、 何センチ? 」

「180です」


「僕と同じか。 まだ中学生なんだろう? 綺麗な顔をしてるし、 モデルになれそうだね」


今まで散々まわりから言われてきた言葉だったが、 憧れの人の口から聞くと、 特別な()め言葉に感じられ、 とても誇らしく思えた。



「座って」

樹はそう言いながら自分も椅子に座ると、 机の上で両手の指を組んだ。


ニッコリ微笑みながら、 真っ直ぐ大和を見つめ、 すぐにその視線を隣の凛に移す。



「ところで、 2人の関係は? 従兄弟(いとこ)? 近所の子? 小桜さんからは、 滝中にいる知り合いの話を聞いてくれとしか聞かされてないんだけど」


「彼は…… 」

「俺はっ…… 」


同時に声を出して、 同時に止まった。

一瞬の間があって、 凛が先に話し出した。



「彼は…… 私の弟……みたいな…… 」

「ハア?! 勝手に弟にしてんじゃないぞ! 」


「だって、 弟みたいなものでしょ? じゃあ何て言えばいいの? 」

「あんたの父親の元息子だよっ! 」

「元じゃなくて、 今も息子でしょ! 」



「ちょっと待て! 」



2人のやり取りを聞いていた樹の一喝(いっかつ)で、 不毛(ふもう)な言い合いは一瞬で止まった。



「ちょっと待って、 話を整理させて。 大和くんは、 小桜さんのお父さんの息子……。 つまり、 2人は義理の姉弟ってこと? 」


「そのような…… 感じです」

「違うだろっ! いいえ、 この人とは全く血の繋がりは無いし関係ありません! 」


またしても不毛な争いが始まりそうな気配を感じ、 樹が早々(そうそう)に打ち切った。



「いいよ、 分かった。 その辺りの細かい事情はもういい。 本題に入ろう。 それで今日、 僕に話したいことは何なのかな? 」


「俺…… 僕は、 親に病院を継ぐよう言われていて…… 」



「別に『俺』でも構わないよ。 分かるよ、 親から僕って言うよう仕込まれたんだろ。 僕もそうだよ、 友人には『俺』でもいいけれど、 目上の人には『僕』って言いなさいって、 小さい頃から(きび)しく(しつ)けられた。 特に父親の病院に行った時は、 患者さんの前では絶対に礼儀正しくしなさい…… ってね」


「そう、 そうなんですよ! 僕も同じです! 」



ーー ああ、 やっぱりこの人はヒーローだ。 僕の気持ちを分かってくれる。


自信をなくして立ち止まっている自分を引っ張り上げてくれる救世主(きゅうせいしゅ)……。



「それで、 進路について悩んでるの? 医者になるのが嫌なの? 」

「いえ、 嫌というわけではないんだけど…… 周りの期待が重いというか、 プレッシャーというか…… 」


「期待に沿えなかったらどうしよう……とか? 」


「はっ、 はい、 それです! 実は俺、 第一希望の中学を落ちちゃって、 ここは第二希望だったんです。 もしかしたら先輩もそうだったのかな……って思って」



「とんでもない、 僕はここが第一希望だったよ。 きみがどこを受験して落ちたのかは大体予想がつくけど、 僕は両方の見学に行ってこっちを選んだ」


「どうして…… 」



「第一に、 僕は出来れば共学が良かった。 別に女子に囲まれたいとかそういうんじゃない。 ただ、 男子だけの世界じゃなくて、 普通に異性もいて、 いろんな考え方の人がいる広い世界に()を置きたかった。 次に、 自由な校風が気に入った。 最低限のルールは設けられているけれど、 あとは生徒の自主性に任せてくれる感じがした。 最後に、 進学校でありながら、 部活動も活発に行われていた。 ここなら勉強と青春を両立させて有意義(ゆういぎ)な学校生活を送れるだろうと思った。 以上だ」



ぐうの()も出なかった。

自分と同じだと思っていたら、 自分の第一希望の学校を()ってこちらを選んだと、 理路整然(りろせいぜん)と述べられた。


同類だと勝手に思い込んでいた自分が恥ずかしくなり、 思わず(うつむ)いた。



「第一希望に落ちて自信を失った? 親の期待に()えるか心配? 」


「はい…… それに、 親に言われたからってなんとなく医者になるのは、 どうなんだろう……とか…… 」



樹が、 『そんなことか』とでもいうようにニヤリと笑った。


「そんなのさ、 どうとでもなるんだよ」

「えっ? 」



「裏口入学でも何でも出来るじゃない」



ーー裏口?…… この人は僕に、 お金でどこかの大学に入ればいいと言っているのか?


ふざけんなっ!


憧れの先輩の予想外の言葉に、 大和の唇がわなわなと震え、 軽蔑(けいべつ)の気持ちが湧き上がってきた。



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