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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
第3章 恋人編
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15、 君のいない金曜日


「そういうのをさ、 『三竦(さんすく)み』って言うんだぜ」


博識(はくしき)な陸斗が玉ねぎを鍋に放り込みながらそう言うと、 奏多と一馬が声を(そろ)えて聞いた。


「「なんじゃ、 そりゃ? 」」





『今日の放課後、 凛が樹先輩と生徒会室で会うことになった』


今日の昼休みにチラッとそう話したら、 部活を終えた一馬と陸斗が興味津々(きょうみしんしん)で家に押しかけてきた。



今日はこのまま家で夕飯も食べていくつもりだろうから、 カレーを作るのを手伝わせることにした。

料理に慣れている奏多は材料を切る係、 陸斗は炒めて掻き混ぜて、 一馬はもちろん味見のみ。


一馬はサッカーボールの扱いは天才的だが、 料理に関してはセンスゼロなのだ。



そう言えば、 2人が金曜日に来るのは久々だった。

凛が家に来るようになってからは足が遠のいていたが、 以前はこうして部活後に顔を出しては、 そのまま夜までゆっくり過ごして行くのが(つね)だった。

彼等(かれら)なりに気を遣っているのだろう。




陸斗が玉ねぎを炒めながら話を続ける。


「『三竦(さんすく)み』って、 江戸時代の本にも出てくるんだけどさ、 児雷也(じらいや)って忍者がいて…… 」



陸斗が急に『三竦み』とか言い出したのは、 奏多から大和の話を聞いた陸斗が、 その関係性を(たと)えだしたからだった。



例えば、 グーはパーに負ける、 パーはチョキに負ける、 チョキはグーに負ける。


大ガマ(ガエル)(ヘビ)に食べられ、 蛇はナメクジに溶かされ、 ナメクジは大ガマ蛙に食べられる。


このように、 三者三様(さんしゃさんよう)で強いものと弱いものがあり、 膠着(こうちゃく)状態で身動きが取れなくなる状態を『三竦み』と言うらしい。



同様に、 この関係性を凛と大和と樹に当てはめてみる。

凛は父親を奪ったという弱みがあって大和に弱い、 大和はあこがれの樹に弱い、 そして樹は大好きな凛に弱い……。


「なっ、 (じつ)に見事な三竦みだろっ? 」



陸斗が「どうだ」とばかりに自慢げに語っているが、 奏多にしてみればそんなもの、 全く(うれ)しくも面白くもない。



「なんで、 その『三竦み』のメンバーに俺が入ってないんだよ。 彼氏なのに」


「この件に関してはお前は部外者だからな。 まあ、 出来るとしたら、 お前はこの三竦みの膠着状態(こうちゃくじょうたい)に割り込んで搔き回すことくらいだな」


「割り込む……って、 そんな、 邪魔者(じゃまもの)みたいな……。



実際、 樹と大和から見たら、 自分は邪魔者以外の何者でもないのだろう。

奏多だって、 出来ることなら関わりたくはないのだ。


凛とようやく恋人らしい雰囲気になってきたというのに、 大和という不安要素(ふあんようそ)の出現に、 またしても樹先輩の登場。


出来ればもうあの2人に近づいて欲しくないのに、 凛はそれを良しとしない。 彼女は()めているように見えて、 実はお人好(ひとよ)しで、 人一倍、 他人の気持ちに敏感(びんかん)なのだ。



「まあ、 小桜にしたって、 この状態をどうにかしたいと思ってるから、 樹先輩に頼んだんじゃないの? 先輩とは嫌でも生徒会で顔を合わせるんだしさ。 それに、 樹先輩には彼女の口から付き合ってるってハッキリ言ってくれたんだろ、 だったらその言葉を信じて見守ってやれよ」


「そんなの俺だって分かってるんだって。 ちゃんと先輩に言ってくれたのは嬉しいし、 『待って』と言われたからには待つしかないとも思う。 だけど、 そういうのと感情はベツモノだろ?



「っていうかさ、 奏多、 そういうのは俺らにグチグチ言うんじゃなくて、 小桜に直接言えよ」


さっきまで横で黙って聞いていた一馬までもが口を挟んできた。



「要はお前が勝手にヤキモチ妬いて()ねてるだけだろ? 凛ちゃんが大和ってヤツに会うのは仕方ない、 だけどそこで樹先輩と接点を持つのは嫌だって、 そういう気持ちは仕方ないじゃん。カレカノなんだから、 我慢せずにちゃんと伝えろよ」



「仕方ないのよ、 一馬くん。 うちの奏多はまだ恋愛(レンアイ)初心者で、 カワイイ彼女の前ではカッコつけたいお年頃なの」

「姉貴っ?! いつ帰ってきたんだよっ! 」


いつの間にか、 叶恵がキッチンに入ってきていた。


「要は、 今日は金曜日なのに凛ちゃんが来てくれなくて()ねてるだけだから、 放っておけばいいのよ」


大学から帰ってきた叶恵まで参戦してきて、 3対1の()るし上げ状態になってきた。

明らかに劣勢(れっせい)なので、 陸斗からお玉を奪って、 黙ってカレーを掻き混ぜることにした。



叶恵に図星を突かれた。


そんなこと、 自分でも分かっていた。



凛の来ない金曜日は、 全然わくわくしなくて、 退屈で味気なくて……とても寂しい。


こんな日は、 彼女が今まで会いに来てくれていた事がどんなに奇跡だったのか、 それは様々な幸運が重なって成り立ってきたもので、 決して当たり前ではないんだという事を、 改めて思い知らされるのだ。



玄関でチャイムが鳴って、 叶恵が出て行った。

ぼんやりしていたら、 玄関から大声で呼ばれた。



「奏多、 会いたいと思ってるのはあなただけじゃないみたいよ! 」



廊下に顔を出して、 そのまますぐに駆け出した。


足がすべってスピードが出なくて、 靴下を脱いでおくんだったと後悔した。



玄関に立つ君は、 嬉しそうで、 少し照れくさそうで……。



「凛! 」


靴も履かずに勢いよく抱きついたら、 「危ない! 」と言いながら、 笑って受け止めてくれた。



「会いたくて…… 早く抜け出してきちゃった」



叶恵がニヤニヤしながらキッチンに引き上げていくと、 廊下に顔を出していた一馬達も黙って顔を引っ込めて、 そっとドアを閉めた。



「くっそ〜…… これ、 反則(はんそく)だよ」



だから君は、 反則なんだ。



いつだって君は不意打(ふいう)ちで、 俺が弱っている時に限って、 こんな風に予想外の嬉しいプレゼントをくれるから……。



ほら、 また俺は、 さっきよりももっと、 君を好きになった。




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