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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
第3章 恋人編
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14、 デートしてください


トントン、 というノックの音に凛が返事をすると、 ガラッと開いたドアの隙間から、 樹の顔が(のぞ)いた。



「ごめん、 まだ食事中だった? 」

「いえ、 終わったところです」


「今、 大丈夫かな? 」

「…… はい」



樹と会うのは凛が怪我をした日以来だった。

保健室で樹の告白を断ってから、 彼が昼休みにこの生徒会室に来ることは無くなった。


今もドアの内側には一歩も入らず、 その場で立ったままなのは、 ちゃんと距離を取ろうという彼なりの配慮なのだろう。

そういう所は流石(さすが)だな、 やはり賢い人なのだ…… と思いながら、 凛は樹を黙って見つめた。



「放課後に生徒会の役員会議をしたいと思うんだけど、 今週の水曜日は()いてるかな? 」


水曜日ということは明後日……。 塾のない日だし、 特に問題はない。


「大丈夫です」

「良かった。 それじゃ水曜日の放課後に、 この部屋で」


「あっ、 先輩! 」

「……んっ? どうした? 」



告白を断った自分が、 これをわざわざ言うべきなのかと、 ここ数日考えていた。

結局答えが出ないまま、 こうして樹と何日かぶりに顔を合わせてしまったが、 やはりちゃんと伝えておこうと思った。



「私、 百田くんと付き合うことになりました」



それを聞いた途端、 樹が目を伏せて綺麗な顔を切なげに(ゆが)ませたが、 すぐに視線を凛に戻して、 柔らかく微笑んで見せた。



「そうか…… おめでとう。 多分そうなるとは思ってたよ」



一瞬の沈黙の(のち)、 場を和ませるかのように、 明るい口調で言葉を続ける。


「それじゃ、 これからは、本当にただの先輩と後輩だね。 もうちょっかい掛けたりしないから、 先輩として、 生徒会長として、 困った時には遠慮なく頼って欲しいな」


「はい、 ありがとうございます……あっ」



その時、 凛はあることを思い出し、 ガタッと立ち上がった。


「先輩っ! 」


そのまま去ろうとしていた背中を呼び止めると、 振り向いた樹にこう言った。



「先輩、 早速(さっそく)頼ってもいいですか? 」



***



「ええええっ?! どういうこと? 」

「だから、 今言った通りのこと…… 」


「いやいやいやいやっ! なんでそこに凛も加わってるわけ?! 」

「だって知らない人を連れてくんだから、 私が行って事情を説明しないと…… 」



はーーーーっ……。


奏多は耳に当てたスマートフォンに向かって、 深くて長いため息をついた。




家で夕食が終わった頃に凛から電話がかかってきた。

大喜びで階段を駆け上がり自室に引き(こも)った途端、 衝撃の出来事を告げられた。



『金曜日に樹先輩と大和と3人で、 生徒会室で会うことになった』



だから生徒会室で1人ランチを食べさせるのは嫌だったんだ。


また以前のように一緒に教室で食べようと散々(さんざん)誘ったのに、 変に目立つ行動をとって注目を浴びたくないし、 1人でのんびり食べる方が気楽でいいのだと、 断固として拒否された。


それに、


『奏多と付き合っているとみんなに言えるようになるまで、 もう少し待って』


そう言われてしまっては、 凛の気持ちを優先せざるを得ない。



生徒会室にいる時間が長くなればなる程、 樹との遭遇の確率が上がることは予想出来ていた。


それでも結局折れたのは、 度量(どりょう)の狭い男だと思われたくないという格好(かっこ)つけと、 これ以上ワガママを言って嫌われたくないという 惚れた弱み以外の何物でもなかった。



だけど、 だけど……。



ーー 度量が狭いと思われてもいいから、 凛が樹先輩と会うのは嫌だとハッキリ言ってしまおうか……。


それを言えずに飲み込んでしまう自分は、 やはり()い格好しいなんだろう。



「それじゃあ、 今週の金曜日は会えないんだね」

「2人を引き合わせて、 私が必要なさそうなら先に帰ってこようと思ってるけど…… 」


「そうか、 仕方ないな。 それで大和くんが少しでも前向きになれたらいいな」

「うん…… 」



沈んでいく心とは裏腹に、 綺麗事(きれいごと)を並べていた。



「奏多…… ごめんね」

「えっ? 」


「本当は嫌なんだよね……今すっごく我慢してるでしょ」



そんなの嫌に決まってる。

『そうだ』、『嫌なんだ』とハッキリ言ってしまったら、 凛はどうするんだろう。


それでも彼女はきっと、 大和のために動くことをやめないだろう。

そして、 自分はそんな彼女を好きになってしまったのだ。



凛と付き合うと決めたとき、 彼女に近寄る男へのヤキモチと(あせ)り、 そして周囲からの嫉妬(しっと)中傷(ちゅうしょう)と闘う覚悟を決めたはずだ。


そうだ、 こんなに簡単に揺らいでどうする……。



「ねえ、 デートしようよ」

「えっ? 」


「付き合ってから、 ちゃんとしたデートしたことなかったよね」

「でも…… 」


「学校でも内緒にしたままだし、 せめて知ってる人が誰もいない遠くに行って、 人目(ひとめ)を気にせずピッタリくっついて歩きたい」



こんな事を言えば凛を困らせるだけだと分かっているのに、

それでも、 胸をジリジリと()くこの感情を、 不安な気持ちを抑えきれなくて、ただ 安心させて欲しくて……。




「お願いです…… 俺とデートしてください」



凛からの返事は聞こえてこない。


な〜んてね……と、 笑い話にしようとした時、 耳元で「いいよ」と聞こえて心臓が()ねた。



「えっ?! 」

「分かった……デートしよう」


「でも…… いいの? 」

「いいの?……って、 奏多が誘ったんでしょ? 私だって人目を気にせず奏多と歩きたいよ」



「しようよ、 デート。 奏多と私、ピッタリくっついて歩こう」



胸がギュッとなった。



地獄から天国へ……。


恋をすると、 気分はこんなにも激しく乱高下(らんこうげ)するのだということを、 今ハッキリと学んだ。



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