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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
第3章 恋人編
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10、 電話越しの恋心


ーー これが、 凛との初電話……。



スマートフォンをゆっくり耳に当てると、 自分の手が小刻みに震えているのが分かった。


「もしもし…… 奏多です」

「……はい」


「急にごめん…… 今、 大丈夫? 」

「うん、 大丈夫。 今、 自分の部屋」


「そっか…… へへっ」


電話ごしに聞く凛の声は、 いつもよりちょっとだけ高くて、 澄ましていて…… 奏多の耳を、 少しだけくすぐったくさせた。



「うわっ、 この人『へへっ』とか言ってる。 キモっ! 」

「うるさいわっ! …… あっ、 違う、 ごめん! 姉貴がうるさくて……。 待って、 部屋に行く」



「部屋に行くから! 絶対来ないでよ! 」

叶恵に言い捨ててそのまま2階の部屋に向かった。



初めての電話が嬉しくて、 妙に照れ臭くて、 階段を上がる足元がフワフワした。



「今、 何してたの? 」


自分の部屋でベッドに腰掛けながら尋ねると、 凛は宿題の最中だと言った。



「あっ、 ごめん。 邪魔して」


「ううん、 もう終わりだからいいの。 ……あっ、 ねえ、 古文の宿題で、 百人一首から好きなのを5首選んで解説するってあったでしょ? 私、 その一つに、 平兼盛(たいらのかねもり)を選んだ」


「えっ、 どんな歌だったっけ? 」

「ん〜…… 内緒。 後で調べてみて」

「ええ〜っ」



左手にスマートフォンを持ち替えて会話を続けながら、 机の上に置かれたパソコンで百人一首を検索してみる。


ーー 平兼盛、 百人一首…… と。



『しのぶれど 色に出でにけり わがこひは ものや思ふと 人の問ふまで』


[人に知られまいとあなたへの恋心を我慢していても、顔に出てしまい、何か物思いをしているのではと、人に問われてしまうほどです]



その画面を見た途端、 顔にボッと火がついたように熱くなった。


ーー うわっ! ……ええ〜っ! こんなのめっちゃ、 俺のこと好きじゃん!



「ふ〜ん…… そうか、 そうか…… 」

「えっ、 何? 」


「ん? あっ、 いや、 俺も兼盛さんの歌を選んじゃおうかなあ〜って思って」


「えっ?…… あっ! 今調べたでしょ! 後でって言ったのに! 」

「ええ〜っ、 いいじゃん…… 嬉しかったし」



良かった。 電話の向こうならこのニヤケ顔を見られない。



「…… なんか凛ってさ…… 結構(けっこう)俺のこと好きだよね? 」

「結構っていうか…… 結構好きですけど? 」


「ハハハ…… そうか」

「…… そうですよ」


「…………。」



ーー んっ?! あかんアカン! こんな話をするんじゃなくって……。



「凛、 Rルールについて、 どう思う? 」


姉の電話を使って長々とイチャコラしてから、 ようやく本題(ほんだい)に入ったのだった。



***



「それで、 凛はどう思う? 」


先程の叶恵とのやり取りをひとしきり説明し終えて、 奏多は凛の意見を尋ねた。



「う〜ん…… 叶恵さんの言ってることが、 ごもっともだよね」

「ええ〜っ、 凛もそっち派か〜! 」


凛はそれほど自分に会いたいと思っていないのか、 自分だけが焦りすぎているのかと、 ちょっぴり凹む。



「奏多の家に行けるのが金曜日だけっていうのも、 6時半には家を出るっていうのも、 結局は私の問題なんだよね…… 」


親には絶対にバレてはいけない。 だから不自然でない程度しか会いには来れない。

学校の人達にも内緒にしたい。 だから堂々と外でデートも出来ない……。



「あのさ、 やっぱり学校のみんなには内緒にしておきたい? 」


周りに公表してしまえば隠す必要はない。 公認のカップルになれば堂々とデートも出来るし、 彼女が家に来たとしても不自然ではない。



「…… ごめんなさい。 もうちょっと、 もう少しだけ待ってもらえる? 私側の問題を解決しないと…… もう少しだけ考えさせて」


「分かった。 だけど、 『私側の問題』っていうか、 これは俺たち2人のことだからさ。 自分だけで抱えこまないで、 困ったらちゃんと相談してよ」

「うん…… 分かった。 ありがとう」



「あっ、 だけど、 4条の勉強場所は、 奏多の部屋でもいいかも…… 」

「えっ、 マジで? よっしゃ! 」


「あと、 電話は…… 私から掛けてもいい? 」

「うん」

「もしも奏多から電話を掛けたい時はメールして。 それを見たら私から電話する」

「分かった」



自由に電話出来ないのは不便だけど、 電話番号さえ知らなかった今までに比べたら、 十歩も百歩も前進だ。


そして…… やっと自分の部屋で凛と2人きりで勉強出来る。 漫画でよく見る憧れのシチュエーションの実現だ。

それにもうこれからは、 叶恵の帰宅にビクビクせずに、 部屋でゆっくりキスを……


ーーこれはアカン! 調子に乗りすぎだっ!


「いやいやいやいやいや! 」


「えっ? 」

「いえっ、 なんでもないです。 ごめんなさい」



「あっ、 あとさ。 大和のことだけど…… 俺が話してみてもいい? 」

「えっ? 」


「どこかで会うって言っても平日は難しいし、 学校なら確実につかまえられるからさ。 凛と俺が連れ立って行くと目立つし、 凛だけで会いに行かせたくもないし、 やっぱ俺かな……って思って」


「そっか…… でも、 揉めそうだったらそのまま帰ってきてね」

「うん、 分かった」


「「…………。 」」



とりあえず、 ルール改正については話せたし、 どうしても伝えたいことは伝えられた。


だけど……



「なんか、 初電話なのに今日はいっぱい話したね」

「うん。 ビックリしたけど……嬉しかった」


「もうそろそろ切らないとヤバいかな」

「うん……そうだね」


「「…………。 」」



お互い何も言わなくても、 電話の向こうの息遣いで、 そこに君がいるのが分かる。


確かに気持ちが繋がっているという安心感。

だけど顔が見えない心許(こころもと)なさ。


     

「電話…… 先に切りなよ」

「うん…… 」


電話の向こう側で躊躇(ためら)う凛の顔が浮かぶ。


「……同時に切る? 」

「うん」



「「 せーーのっ! 」」

「「…………。 」」



「やっぱり、 凛から切って」

「うん…… 」



「ふふっ、 キリがないね」

「うん…… キリがないな」



胸がギュッとなる。

シアワセなのに、 泣きたいような気持ち。



「凛…… どうしよう、 俺、 めちゃくちゃ会いたい」

「うん、 私も…… 」



「ダメだ、 やっぱりキリがないな。 ホント、 今度こそ凛から切って」

「分かった…… また明日、学校で」

「うん…… また明日」


プツッ



通信が途絶えたその後も、 ずっとその余韻を味わっていたくて……。

スマートフォンを耳に押し当てたまま、 そっと目を閉じた。



耳元で聞こえた君の声は、胸に苦しい余韻を残す。


近くて……遠い。

嬉しくて…… 切ない。


会いたくて………… 会いたい。



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