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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
第3章 恋人編
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2、 土曜日の遭遇


土曜日のファミレスは、 家族連れや若いカップル、 部活帰りらしい学生の集団で(あふ)れかえっている。


そんな中、 4人用のテーブルで不自然にシートに身を沈め、 メニューで顔の下半分を隠している怪しい3人組がいた。



「やっぱりどう見ても凛ちゃんだよなぁ」

「うん、 小桜だ」


一馬と陸斗が向かい側に座っている奏多を哀れむような目で同時に見て、 2人でハモりながら同じ質問を浴びせた。


「「 奏多、 本当に何も聞いてないの? 」」


メニューから目だけを覗かせた奏多がブスッとした表情で投げやりに答えた。



「聞いてないし、 こっちが聞きたいくらいだよ」



***



ことの発端は今朝に(さかのぼ)る。



今日は一馬と陸斗のサッカーの試合があり、 奏多は朝からその応援で隣町まで来ていた。


試合には()しくも負けたものの、 強豪校(きょうごうこう)相手に接戦まで持ち込んだ良い試合だった。


一馬や陸斗がボールを持つたびに、 女子たちの黄色い声援が飛び交うのを見て、 今更ながら2人の人気っぷりを実感した。



今日、 奏多が来たのはもちろん試合の応援のためではあるけれど、 2人に凛とのことを直接報告したいという目的もあった。


試合終了後、 ファストフード店でハンバーガーを食べながら、 奏多は2人に凛と付き合うことになったと伝えた。



「えっ、 マジかっ?! 」

「………… 嘘だろ? 」



2人揃って疑問符のつく質問で返してきて、 その正直すぎる反応に若干ヘコんだが、 それも致し方ない。 奏多自身も予想外の展開だったのだから、 2人からすれば尚更(なおさら)だろう。


だが、 幸福の絶頂にいる奏多にはそんなのは些細(ささい)なことだ。


そして今の奏多には、 2人がどんなことを言おうとも、 たとえムッツリ眼鏡だのヘタレだのボロカスに言われても、 右から左にサラリと受け流すだけの余裕があった。



「驚くことにマジです」


口角をコレでもかというくらいニッと上げて答える。


一馬が「ウオ〜っ! スゲえ! 」と大声を出したせいで周囲の注目を思いっきり浴びたが、 それさえも今は許せる気がする。



「おめでとう。 良かったな、 奏多」

「うん、 ありがとう」


陸斗が突き出した拳に奏多が拳を合わせて頷きあう。



「よしっ、 それじゃ乾杯しようぜ! 」


一馬の掛け声で炭酸飲料が入った紙のカップを合わせると、 奏多にもようやく実感が湧いてきた。



奏多が落ち込んでいた頃を笑い話にしてひとしきり盛り上がった頃、 大きなガラス窓から道行く人を眺めていた一馬が、 不意に外の通りを指差した。



「あれってモデルかな? 」



道を挟んだ向かい側にあるファミレスの前で、 一際目を引くカップルが立っていた。

オモテの看板を見て、 店内に入ろうか迷っているらしい。


こちらからは後ろ姿しか見えないが、 男子の方はグレーのロングカーディガンに黒のスキニーパンツ、 女子の方は薄いピンク地に小花をあしらったショートワンピにデニムのジャケットを合わせている。


とてもシンプルなのに凄くサマになっているのは、 2人とも脚が長くてスタイルがいいからだろう。


そう思っているのは奏多たちだけでは無いようで、 道行く人たちがチラチラとそちらに視線を注いでいた。



「あれっ? 」


最初に気付いたのは奏多だった。


「凛…… じゃないよな? 」



どうも女の子の後ろ姿が凛に似ている。

でも、 こんな隣町で、 まさかな…… 。



「えっ、 凛ちゃん? そんな〜まさか…… 」

「じゃないな、 ビンゴだ」


一馬と陸斗が唖然(あぜん)とした表情で顔を見合わせて、 そのまま一緒に奏多に視線を向けた。



男の子の方に顔を向けて話しかけた横顔は…… どう見ても小桜凛、 その人だった。



***



「一体なにを話してるんだろうな」

「一馬、 首を伸ばして覗き込むな。 バレる! 」



凛たちの後を追ってファミレスの店内に入ってから、 既に20分ほど経過している。


勢いで追いかけてきてしまったが、 奏多は既に激しく後悔し始めていた。



凛たちとは席が離れているし、 場所的に向こうからは死角になっているから、 小声でコソコソ話しているぶんには気付かれないだろう。


だが、 ここで様子を(うかが)っていると知れたら、 軽蔑されることは確実だ。



ーー バレる前にとっとと立ち去るか…… いや、 今立ったらそれこそバレるだろう。



奏多の心配をよそに、 一馬たちはこのスパイごっこを楽しんでいるふしがある。



「相手は俺たちと同じか、 もしくはちょっと年下ってとこかな。 ここからじゃ会話が聞こえないな」

「なんか深刻そうじゃね? 俺がトイレに行くフリして探ってこようか? 」



その時、 急に凛が立ち上がって席を離れたため、 奏多たちは慌ててシートに身を伏せた。


凛がスタスタと出口に歩いて行くと、 一緒にいた男子もすぐにガタッと立ち上がって後を追いかけて行く。

レジに乱暴にお金を置くと走って店を出、 先に外に出ていた凛に追いつくと、 その手を掴んで引き止めようとしていた。



手を振りほどこうとする凛と引き止めようとする男子で口論になっている。


「あいつ、 何やってんだよ! 」


その一部始終を大きなガラス窓越しに見ていた奏多は、 カッと頭に血が上って思わず立ち上がった。



「奏多、 行け! 」



陸斗が言うよりも先に、 奏多は勢いよく外に飛び出していった。




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