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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
第2章 高校編
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32、 私もあなたが大好きです



私が彼を好きになったのは、 いつからだったのか……。


最初からだったような気もするし、 つい最近のような気もする。


ただハッキリしているのは、 彼と一緒にいる時の私だけが、 いつだって本当の私だ…… ということ。


『百田奏多』が、 いつだって私の特別だったということ……。



***



今思えば、 最初から彼は特別だったのだ。



中学校に入学してから、 生徒会室の外から聞こえてくる『モモタカナタ』の声に耳を澄ませ、 その姿を想像していた。


必要以上に他人と関わらないと決めていたにも関わらず、 わざわざ廊下で立ち止まってまで顔を見てみたいと思った。


窓枠に置き忘れたペットボトルを手渡されてドキドキした。

眼鏡の奥の優しい瞳が印象的だった……。



その後も校内のあちこちで彼を見かけるたび、 クラスが一緒になってその人柄を深く知るたびに、 凛は百田奏多から目が離せなくなっていた。



その時にはもう始まっていたのだ。

無意識のうちに。



そもそも最初に漫画を預けたのも、 『奏多だったら助けてくれるはず』という確信があったから。


わざわざ図書館に呼び出したのも、 家まで付いて行ったのも、 『彼と話してみたい』と思ったからだし、

今まで自分の胸だけに留めていた家族や友達の話を打ち明けたのも、 『彼に聞いて欲しい』、 『彼ならきっと聞いてくれる』と思ったから。



今だからこそそう思えるけれど、 そんな自分の気持ちに本当に気付いたのは、 今からほんの2日前。



『凛! 』



その声を聞いた瞬間、 それが誰なのかはすぐに分かった。

期待と喜びで振り返ると、 窓から精一杯に身を乗り出して叫んでいる彼がいた。



『凛! 俺はずっと、 そう呼びたかったんだ! 』



その瞬間、 胸が震えて視界が(にじ)んだ。


急に涙ぐんだ凛を見て、 保健医の川上先生が『頬が痛むの? 大丈夫? 』と肩を抱いた。


違うのに。

本当はただ、 嬉しかっただけなのに。


彼が、 百田奏多が自分の名前を呼んでくれた。

明日も会いに来いと、 待っているからと言ってくれた……。


本当は自分も大声で叫びたかった。

彼の名を呼び返したかった。

だけど今更だ、 拒絶したのは自分なのだから。



母親の車に乗り込んだ途端、 今度は激しい後悔と恐怖が襲ってきた。



『自分はとんでもない間違いを犯してしまったんじゃないか? 』



会計を断ると言いながら引き受け、 もう生徒会室には逃げ込まないと言いながら通い続けた。

挙げ句の果てに、 せっかく呼び戻しに来てくれた奏多を拒絶し、 樹先輩と争わせてしまった。



樹先輩に抱きかかえられた時、 本心では奏多に引き止めて欲しいと思う自分がいた。

その時に、 もうこれ以上は樹先輩の側にいてはいけない、 好意に甘えてはいけないと思った。


保健室でそれを告げた時、 額にキスをされた。



もう奏多に合わせる顔がない……。


全て自分のせいだ。

奏多に甘え、 樹に甘え、 嫌なことから逃げてばかりの中途半端な行動が周りを振り回した。



奏多もさすがに呆れただろう。

いや、 名前を呼ばれても何も言わずに背中を向けた自分に愛想を尽かし、 怒っているかもしれない。

もう漫画パレスには行けない…… 行けるはずがない。



そう思っていたのに、 来てしまった。



ーー 会いたかった



だけど彼は、 大雨の中、 パシャパシャと水を跳ねながら走ってきてくれた。


強く抱きしめて、 もう一度名前を呼んでくれた。


口づけて、 思い出の場所であの日のように背中を合わせて、 好きだと言ってくれた……。



***



『俺は…… 俺は、 凛が好きだ。 小桜凛さんのことが大好きです』



その瞬間、 息を呑んだ背中越しに彼の緊張が伝わってきた。


穏やかで優しくて、 眼鏡でヘタレだと言われているあなたがくれた精一杯の勇気。



だから私も素直になろう。 過去にこだわり意固地(いこじ)になって、 1人で勝手に悲劇のヒロインぶっている自分にサヨナラしよう。



だって最初から、 あなたが特別だった。


彼と一緒にいる時の私だけが、 いつだって本当の私なのだから。


彼の前にいる私だけが、 本音を話し、 本気で泣いて、 心から笑えるから……。



だから私にも言わせて下さい。




「百田奏多くん…… 私もあなたが大好きです」




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