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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
第2章 高校編
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23、 嫉妬 (前編)


その声は、 生徒会室の中から聞こえてきた。



『もしかして小桜は、 もう俺の家にも来ないつもり? 』


もう俺の家にも来ないつもり? …… って、 コイツ、 ナニ言ってるんだ?



『俺は小桜と出会えて良かったと思ってるし、 小桜と過ごす時間が大好きだ。 俺は、 樹先輩なんかよりももっと前から小桜の名前を呼びたいと思っていたし、 俺は…… 』



その先は絶対に言わせてはいけないと直感的に思った。



「お前っ、 何やってるんだよ! 」



あとはもう頭が沸騰してたからよく覚えていない。


校内で暴力沙汰(ざた)なんて起こしたら終わりだって分かってるけど、 それは今だから思うことで…… その時はとにかく、 目の前にいるこの男をどうにかして彼女から引き離すことしか考えていなかった。



ーー そうか、 これが嫉妬(しっと)っていうやつなんだ。



***



「樹くん、 最近ちょっと浮かれすぎではないのかね」


樹が自分の席で大きなオニギリにかぶりついていると、 義孝が呆れたような口調でチロッと見てきた。


「えっ、 俺って浮かれてる? 」

「ああ、 これでもかってくらい浮かれてるね。 背中に羽根が見えるようだ」


「羽根が生えたら嬉しいね。 あの子の待つ生徒会室までひとっ飛びだ」


言い終わるか終わらないかのうちに義孝から頭頂部にチョップをかまされた。



ーー ああ、 やっぱり俺、 浮かれてるわ。



月曜日に必死の説得で凛を口説き落としてはや2日。 樹はどうにか『同じ生徒会役員』の座と、 『お友達』という喜ばしくも微妙なポジションを手に入れた。



翌日の火曜日に調子に乗ってパン持参で生徒会室に行ったら、 2人きりでランチを食べるのは誤解を招くし落ち着かないから絶対にあり得ないと、 早々に追い出されてしまった。



「お昼休みの時間に学校行事の資料を調べたいんだ。 凛ちゃんが食べ終わった頃なら来てもいいだろ? 」


ーー 一緒に手伝ってよ。


咄嗟についた嘘だったが、 半分は…… いや、 ごめんなさい、 1/3くらいは本当で、 残り2/3は彼女に会うための口実だ。


ーー だって仕方がないじゃないか。 会いたいんだから。



水曜日からは、 オニギリを持参することにした。 売店でパンを買う時間、 並ぶ時間が非効率(ひこうりつ)かつ無駄だと気付いたからだ。



朝早くに台所に立っていたら、 母親からお弁当を作ろうかと言われ、 断った。

もうカフェテリアは利用しないのかと聞かれて気分転換だと答えたら、 変な顔をしながらも納得して出て行った。


好きな子のことを考えながら自分でオニギリを握るというのも結構楽しいものだ。

手がベタベタになるし、 シンクが米粒だらけになって後片付けが大変だけど、 さほど苦にならない。


海苔で真っ黒に覆われた特大オニギリ1個。 不格好(ぶかっこう)だけど、 食べる時間を短縮できる優れものランチの出来上がりだ。



自家製の特大オニギリを超速で食べ終わると、 授業の合間に買っておいた微糖コーヒーを持って生徒会室に向かう。 思わず小走りになる。


ドアの前で数回深呼吸をして息を整えたあとでトントンとノックをすると、 中から彼女の返事が聞こえてきた。


緊張を悟られないようにいつもの笑顔を心掛けてドアを開ける。



長机の上にはお弁当とペットボトルのお茶、 そして…… 樹も好きな、 缶の微糖コーヒー。

樹は思わず頬を緩める。



「ああ、 ごめんね、 ちょっと早かったかな。 僕は先に作業を始めてるから、気にしないでゆっくり食べてて」


樹は自分が持ってきた微糖コーヒーを凛のそれの隣に並べて置くと、 ゆっくり奥へと歩いて行った。



生徒会室の奥にはドアで行き来できる小さな書庫があり、 そこには過去の学校行事の資料や卒業文集などが年代別に保存されている。


樹は書庫に入って前年度の行事計画表のファイルを取り出すと、 見るともなくパラパラとめくりながら、 隣の部屋にいる凛の気配に耳を澄ませた。



「ねえ、 凛ちゃん」


ファイルを手にしたまま声を掛けると、 向こうから「はい」と返事がして立ち上がる気配がした。


「いや、 食べながらでいいから、 座ってて。 あのさ、 凛ちゃんって毎日コーヒー買ってるの? その微糖コーヒー好きだよね」


「はい。 この甘さがちょうどいいんです。 家のコーヒーならブラックでもいいんですけど、 市販のだと渋味が強くて好みの味じゃなくって。 かと言って普通の砂糖入りは甘すぎてちょっと…… 」


「分かる。 僕も普通のだと甘ったるくて駄目なんだよね」


ーー 会話、 弾んでるよな……。


自分の振った話題で普通に会話が続いていることに、 ひとまず安堵する。



「微糖コーヒーって人気があるみたいでさ、 こっち側の自販機だとたまに売り切れになってるんだよね。 それでわざわざ中学側の自販機まで買いに行ったりしてさ…… 」


「ああ、 分かります。 私はこの前まで中学側だったから気付かなかったけど、 高校になると外進の生徒が入って来るぶん生徒数が増えるから、 高校側の自販機の方が減りが早いんですよね」



ーー ああ、 反応ナシか……。



樹的には、 微糖コーヒーの話題から、 さり気なく自分と凛の運命の出会い…… あの日拾ってもらった十円玉のことを思い出してもらえるかと思ったのだが、 どうやらあの時の相手が樹だとは気付いていないようだ。


ーー いや、 それどころか十円玉を拾ったことさえ覚えていないとか?



こちらが運命だとか奇跡だとか言って大切にしている思い出が、 相手にとっても大切な思い出であるとは限らない。


樹にとっては宝物のような十円玉が、 凛から見たら埃まみれの厄介な落し物にすぎなくても、 それは仕方がないことだ。



コツンと背後で音がして、 凛が書庫に入って来たのが分かった。


慌てて振り返ろうとして、 手に持っていたファイルをバサリと落とした。


「あっ、 ごめん」



凛が床に落ちたファイルを拾い上げると、 ポンポンッと(ほこり)(はた)いて樹に手渡した。



「先輩、 また落としましたね。 お金もファイルも大事にしなくちゃ駄目ですよ」



ーー えっ?!



「えっ、 ちょっ、 待って、 お金って…… 覚えて……? 」



ーー くっそ〜…… なんだよ、 こんな不意打ちって…… ずる過ぎるだろ。



ニコッと笑って本棚を見上げた凛の横で、 真っ赤な顔を片手で覆った樹が立ち尽くしていた。



2/20/19 再び日刊現実社会[恋愛]にランクインしました。

ありがとうございます!


2/21/19 第2章 23話 ラスト部分を一部改稿しました。

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