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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
第2章 高校編
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22、 フラグ再び


「小桜さんの左頬は軽い打撲だけで心配する程ではないですが、 内出血と腫れがあるため、 今日は欠席して家で休養されるそうです」

朝のHRで担任の山本がそう告げたのを聞いて、 奏多はひとまず胸を()でおろした。


ーー あとは内出血の痕が残らなければいいけど……。




『小桜さんは樹先輩と2人で生徒会室の続き部屋にある書架(しょか)で行事の参考資料を調べていた。 バランスを崩して踏み台から落ちそうになった樹先輩が、 助けようとした小桜さんの顔に肘をぶつけてしまった…… 』


どこから流れたのか、 昨日の帰り頃からそんな噂がまことしやかに囁かれていた。


いや、 出処(でどころ)は分かっている。

樹の説明の仕方がよほど上手(うま)かったのだろう。 彼が保健室で語った話が真実として広まったのだ。


何をやらせてもソツがない。 本当に嫌味なくらい完璧な王子様だ。




「奏多、 今日はカフェテリアに行くんだろ? 」

「おう」


昼休みになって、 陸斗が財布を片手に呼びにきた。

普段はパンを買ってきて教室で食べることの多い奏多たちだが、 週に数回は気が向くとカフェテリアにも出向いている。

隣の教室から一馬が合流してくるのを待って、 3人でカフェテリアに向かった。



***



「それにしてもさあ、 あそこまでいくと本当の王子様なんじゃないかと思っちゃうよなあ…… 」


「一馬、 奏多の前で今それは言ってやるな。 傷心の男子高校生は乙女(おとめ)よりも繊細(せんさい)なんだ 」


カフェテリアで大盛りのカレーライスを頬張りながら、 容赦(ようしゃ)なく人の傷口に塩をすり込みまくってくる一馬と、 それを茶化(ちゃか)す陸斗。


これが彼らなりの励まし方なのだと、 奏多には分かっている。

変に気を遣って樹の話題を避けられるよりは、 普通にしてくれている方がいい。



生徒会室での顛末(てんまつ)は、 昨日のうちに一馬と陸斗に話してあった。

結果を気にした一馬たちが、 部活終わりのファミレスに奏多を呼び出したのだ。


そこで一部始終を聞いた2人は最初こそ驚いたものの、 最後は納得したように、

『やっぱり王子様がいいところを()(さら)っていくんだなあ…… 』

と、 妙なところに感心して帰っていったのだった。




「まあ、 でもさ、 お前は精一杯やったよ。 あの樹先輩に襟首(えりくび)掴まれて一歩も引かなかったんだろ? 奏多のくせにすごいじゃん」


「そのせいで小桜に怪我をさせて樹先輩に花をもたせる最悪な結果になったんだけどな 」


「奏多、 凛って呼ぶんじゃなかったのか? また小桜に戻ってるぞ」


「まだ慣れないんだよ……ってか、 どっちでもいいんだよ、 本人の前でちゃんと呼べれば」


奏多は憮然(ぶぜん)とした表情でラーメンをすする。好物なのに全く美味しく感じない。

腹立ちまぎれにコショウをパッパッと勢いよく2振りした。



今日のカフェテリアが比較的空いているとはいえ、 誰に話を聞かれているか分からない。

3人はあまり人気(にんき)のない入り口近くの一番奥の席で、 ボソボソと声を潜めて話していた。



「だけど奏多、 言いたいことは言えたんだろ? 」

陸斗の問いに、 奏多はコクリと頷く。


「途中で樹先輩が来たから全部ではないけれど、 戻ってきて欲しいってことだけは伝えた。 それに…… 昨日窓から叫んだ時の俺の気持ちはちゃんと届いてたと思う」



「そうだよ奏多、 お前ホント凄かったもんな。 俺たちのクラスもザワついてたぜ。 急に隣のクラスの窓からお前の公開告白が始まったからさ。 我が校は公開告白が流行ってんのかよって」


「あれは……告白じゃないよ。まだ」




実際には、奏多が凛の名前を大声で叫んだことは大した問題にはならなかった。

……というよりも、 騒がれはしたけれど、 深刻には受け止められず、 早々に沈静化してしまった。



…… というのも、 凛は以前から何度も男子に告白されて速攻で断っているし、 昨日のことも、 怪我をした凛を心配するあまりのファンの暴挙くらいに思われているからだ。


奏多が叫んだ『 待ってるから 』が、 『 (小桜が学校に来るのを) 待ってるから 』と(とら)えられたのもあるだろう。

学校のみんなは漫画パレスのことを知らないのだから当然だ。



そのせいだろうか、 今日カフェテリアに来る途中でも、 違うクラスの男子に急に呼び止められて、

「俺も同じだよ。 仲間だ」

(あわ)れみの目で見ながら肩をポンと叩いて立ち去られてしまった。



そして何よりも…… 滝山高校、 いや、 滝山中高の全生徒にとっては、 昨日の『お姫様抱っこ』事件の方が、 よりセンセーショナルで興味深いことだったのである。




カフェテリアの隅でボソボソと話を続けていると、 陸斗が突然会話を止めた。


「奏多、 うしろ」


顎をしゃくった陸斗の視線を追って振り向くと、 そこには樹先輩が立って見下ろしていた。



「百田くん、 ちょっといいかな? 」

「……はい。 俺も話したいと思ってましたから」


「昨日は、 凛のこと…… ありがとうございました」

「凛って気安く呼ばないでくれるかな」

「先輩だって勝手に名前で呼んでますよね」



突然始まった剣呑(けんのん)な雰囲気に、 周囲の空気が一瞬で凍りついた。


陸斗も一馬も、 固唾(かたず)をのんで見守っている。



「ついてきて」

「…… はい」


心臓がドクドク脈打ち足が震えた。

だけど、 恋愛には先輩も後輩も関係ないはずだ。


……たとえその相手が滝高の王子様だとしても。



「奏多っ! 」

一馬がガタッと立ち上がって、 出口に向かう奏多を呼び止めた。


「お前の骨は俺が拾ってやる! 心置きなくいってこい! 」



ーー だから一馬、 フラグを立てるなって……。



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