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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
第2章 高校編
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10、 葉山樹の初恋と情熱 (前編)


出会いは偶然、 渡り廊下の向こう側、 自動販売機の前。

きっかけは落とした十円玉。



いや、 あれは偶然ではなかったかも知れないし、

きっかけも多分、 硬貨1枚なんかではなかったんだろう。


だって僕は、 それよりもずっと前に彼女を見ていたんだから……。



***



葉山樹が小桜凛の存在をハッキリ認識したのは、 中3の体育祭だった。


その前年、 中2の体育祭では応援団に選ばれて馬鹿みたいに忙しく、 他の競技をゆっくり見ている余裕なんて全く無かった。

3年生ではそれを避けるため放送委員になり、 当日は校舎内の特等席から競技の様子を実況する係を受け持った。



彼女は最初から目立っていた。


彼女が障害物競走のスタートラインに立った途端、 観覧席からおおっ……という、 どよめきのような驚きのような声が上がった。

一緒に実況をしていた友達が、 「あっ、 小桜さんだ! 」とはしゃぐのを見て、 ああ、 これが噂の滝中のマドンナか…… と気付いた。



体育祭の実況は、 状況を正確に伝えるだけではなく、 場を盛り上げるのも仕事の一つだ。


樹は人前に立つことも注目されることにも慣れていたし、 こういう場でどう言えば盛り上がるかも分かっていた。



『さあ、 全校男子のお待ちかね、 滝中のマドンナ、 小桜凛さんの登場です! 』


面白おかしく紹介すると、 予想通り場が沸き立ち歓声が上がった。


ーー 狙い通りだな。 さあ、 ここからもまずは彼女を中心に実況して、 あとは全体的に……。



その時、 ハチマキをギュッと結び直しながら、 小桜凛がこちらを見上げた。


いや、 それは樹の気のせいだったのかも知れないし、 あんな遠くからでは逆光で校舎の中なんてハッキリ見えてはいないだろう。


だけど樹には、 彼女が窓のこちら側にいる自分をキッと睨みつけたように見えて、 瞬間的にビクリと肩を震わせた。



ほんの一瞬だった。 なのにとてつもなく長い時間、 あの猫のような瞳と目が合っていたように感じた。


自分の予想通りの結果に有頂天になっていた気持ちに冷水を浴びせられたようだった。

自分がひどく悪いことをしたように思えて、 急に恥ずかしくなった。



スタートの合図とともに駆け出して、 彼女のスラッとした脚が軽々とハードルを飛び越えた。

顔が汚れるのも気にせず、 躊躇なく白い粉の中に顔を突っ込んで、 誰よりも早くゴールした姿に目が釘付けになった。


見惚れて結局一言も実況出来なかった樹を、 隣で友達が驚いた顔で見ていた。




その一瞬で、 『小桜凛』という存在が樹の心に深く刻まれた。

だけど、 その時はそれだけだった。


綺麗な子だけど、 変にちょっかいをかけて付き纏われても困る。

そんな風に思う程度だった。




樹は昔から要領が良かった。

勉強も運動も出来たし、 顔も悪くなかったから嫌でも注目されたし人が集まってきた。



樹は医師になって父親の葉山医院を継ぐのが目標だったから勉強に集中したかったし、 次々と寄ってくる女子にも辟易(へきえき)していた。


愛想よくするのは得意だったから、 話しかけられれば相手をするし、 皆で行くカラオケやファミレスにも付き合った。


だけど、 特定の恋人を作ろうという気にはなれなかった。

『医師の息子』という肩書きや見かけだけに釣られてニコニコしてくるような女子に興味はない。



もしも付き合うとしたら…… そう、 自分が本当に好きだと思える人、 心から一緒にいたいと思える人。

そんな人と出会って、 自分から求めて、 そして相手からも好きになってもらいたい……。



まわりの友達は、 樹のことを『モテるのに勿体ない』だとか『()り好みしすぎだ』というけれど、 そうではないのだ。


ただ、 そう思える存在と出会うまでは、 軽々しく適当に付き合うなんてしたくない。

たったそれだけのシンプルなことなのだ。



ーー 誰かにこんな事を話したら、 きっと『少女漫画かよ』って笑われるだろうな。



だけど、 そんな少女漫画みたいな出会いが実際に起こってしまった。




高1の2学期、 昼休み。

渡り廊下の向こう側、 自動販売機の前。

きっかけは落とした十円玉。



その日をきっかけに、 樹の高校生活は大きく変えられてしまった。


要領よくソツなく生きてきた樹が、 がむしゃらに追い求め、 情熱を注ぐ存在を見つけた瞬間だった。



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