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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
第2章 高校編
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6、 ルールナンバー9


小桜の髪から漂う甘いフローラルの香り。

図書館で待ち合わせたあの日を思い出しながら、 奏多は込み上げてきた自分の気持ちを伝えてしまいたい衝動と必死で戦っていた。



「小桜…… 俺…… 」


ーー でも駄目だ。

たった今、 小桜との関係を無くしたくないと、 守ると誓ったばかりだ。



迂闊(うかつ)すぎる』

そう言った陸斗の言葉が蘇る。


自分のせいで陸斗に説教させて、 小桜に心配をかけて、 あまつさえ、 告白しようとするなんて……これじゃあ陸斗の言っていた通りじゃないか。



「本当に駄目ダメだな」

小さく息を吐いて苦笑した。


それを合図に小桜がふっと力を抜く気配を感じ、 奏多も小桜の背中に回していた腕の力を弱めた。


我にかえるとかなり恥ずかしい体勢になっていることに気付いたが、 いきなり動き出す勇気もなく、 しばしそのまま固まっていた。



チラリと机の上の目覚まし時計に目をやると、 時刻は午後4時40分になろうとしている。


「あっ!!!! 」


突然の大声にビクッとした小桜の肩をグイッと押して、 入り口のドアを振り返る。

奏多はそのまま廊下に出て階下のようすをうかがうと、 再び部屋に戻って小桜と目を合わせた。



「ヤバイ…… ルールを破った」

「ルール?…… あっ!」



Rルール第9条 『 奏多の部屋は出入り禁止 』



奏多と小桜の関係を守るために、 世間に内緒にするために、 叶恵と3人で作ったRルール。

お互いいつか出来るであろう好きな人を悲しませないために追加された第9条が、 いとも簡単に破られてしまった。


「ごめんなさい、 私のせいで…… 」

「違うよ。 部屋に引きこもって心配させた俺が悪い」



だけど、 もうそろそろ叶恵が帰ってくる頃だ。

さて、どうする……と2人で顔を見合わせる。


「まだ姉貴は帰ってきていない。 だから、今すぐ部屋を出ればバレずに済む。 でも…… 」

「でも、 叶恵さんに嘘はつきたくない」

「うん、 俺もそう思う」



叶恵がいなければ今の2人の時間は無かった。

小桜のために本棚を明け渡し、 ルールを作り、 秘密を守り、 時には厳しく叱ってくれる叶恵がいたからこそ、 この7ヶ月を乗り越えてこれたのだ。


「うわぁ〜、 また鉄拳(てっけん)コースかなあ……」

「……かも」


2人はクスッと笑いながら頷くと、 揃って階下へ降りていった。



***



大学の授業を終えて帰ってきた叶恵が玄関に入ると、 いつもの紅茶の香りも、 リビングで鉛筆を走らせる勉強中の気配も感じられなかった。


不審に思い、 足音を忍ばせてそろりそろりとダイニングルームを覗き込んだが誰もいない。

もしやと思い、 漫画パレスに続く木製の引き戸をガラリと開けると、 そこには畳に手をつき頭を(こす)りつけている2人の姿があった。



「うわっ! あなたたち、 何やってるの」

「…… 土下座です」


頭を下げたままの奏多が答えた。


「ふ〜〜ん……。 2人揃って土下座ということは、 何かやらかしたんだ」

「…… やらかしました」



チューしちゃったの?

と聞かれ、 奏多と小桜はガバッと顔を上げ、 声を揃えて否定した。

「してないからっ! 」

「してませんっ! 」





黒い座卓を挟んで、 手前に叶恵、 押入れ側に奏多と小桜。

もちろん座布団を使用しているのは叶恵だけだ。

いつか見たような配置で向き合うと、 腕を組んだ叶恵が問いただした。



「それじゃあ、 あなた達が何をしでかしたのか、 包み隠さず白状してもらおうか」



奏多は、 学校で落ち込むことがあった事、 その気持ちを引きずったまま帰ってきてしまった事、 小桜にそんな自分を見られたくなくて部屋に引きこもってしまった事、 それを心配した小桜が部屋に入ってしまった事を話した。



「…… すいません。 百田くんは入って来るなって言ったんです。 なのに私が勝手に…… 」


「凛ちゃん、 紅茶を淹れてきて」


叶恵が小桜の言葉を遮り、 キッチンに行くよう告げた。

その場に緊張が走った。



「そして奏多、 あんたは残って」


ーー ああ、 やっぱり……。


奏多はこの後待ち受けているであろう鉄拳コースを想像し、 ため息をついて項垂(うなだ)れた。



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