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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
第2章 高校編
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4、 女子の空気を読めない男子


「凛はもう決めたの? 」


金曜日の昼休み、 卵焼きに箸を突き立てながら都子が聞いた。


1ーAの教室のど真ん中、 昨日と同じ場所に6つの机をくっつけて、 昨日と同じメンバーでランチを食べている。



「ううん、 まだ……」

「ええっ、 どうして?! 樹先輩と近づけるチャンスなんだよ。 私なら即オッケーする! 」


都子はまるで昔からの親友のように小桜にグイグイ迫る。


「凛は樹先輩はタイプじゃないの? 生徒会長だよ! 全校生徒の王子様だよ! 将来は安泰(あんたい)だよっ! 」



都子はテレビの中のアイドルを語るかのようにプロフィールをつらつらと(そら)んじる。



葉山樹、 5月9日生まれの16歳。 身長180センチ、 体重67キロ。

演劇部所属、 2年にして滝山高校生徒会長。

その美しく整った顔と爽やかなスマイルから『滝高の王子』と呼ばれている。


中学時代から成績優秀で常にトップを維持。

演劇部の活動と学業優先のため生徒会には入っていなかったが、 昨年秋の次年度生徒会選挙に突如(とつじょ)立候補。 断トツの得票数で会長に当選。


演劇部では主に脚本を担当。 今年は部長になるのではと噂されていたが、 生徒会の活動を理由に固持(こじ)


2年生になって理系クラスを選択。

葉山医院の一人息子であるため、 将来は親の跡を継いで医師になるものと思われる。




「お前すっげーな、 樹先輩のプロフィールを丸暗記してるのかよ。 ストーカーじゃん、 怖っ! 」

「一馬、 変なこと言わないでくれる? こんなの女子ならみんな知ってるから、 一般常識だから、 英単語より先に覚えることだから! 」



奏多は上目遣いで正面にある小桜の顔を伺ったが、 弁当を黙々と口に運ぶその表情からは、 彼女の感情を読みとることが出来なかった。



「小桜は知ってた? 樹先輩のこと」

「ううん、 全然」

即答されて安堵する。


ーー 良かった……あまり興味が無さそうだ。



「小桜さんはそういうの興味無さそうだよね」


奏多が心の中で思っていたことをそのまま奈々美が口にしたので、 ギクッとして顔を上げる。


「……っていうか、 クラスメイトにも興味が無いんだと思ってた。 中学の時も誰ともツルんでなかったよね? どうして? 」


少し険のある奈々美の物言いに、 小桜が表情を硬くした。


「私は…… 」



「小桜は何かと先生に使われちゃって忙しかったんだよな」

「そうそう、 3年間も生徒会会計やってたら忙しいよな。 小桜はクールビューティーが売りだからそれでいいんだよ」


奏多に次いで一馬も援護射撃(えんごしゃげき)をして、 奈々美の質問を封じようと躍起(やっき)になった。



「……美人は男子がかばってくれるから得だよね」

「ええっ?! 奈々美だって可愛いよ! ふわふわしてて、 ザ・女子! って感じじゃん」

いつもポニーテールでガサツに見られがちな都子が、 本心から羨ましそうに奈々美を褒めた。



「うん、 奈々美は普通に可愛いと思うよ」

「えっ、 本当に? 奏多もそう思う? 」

奏多の言葉に奈々美はパッと表情を明るくする。



「うん。 だからそんな風に自分を卑下(ひげ)するなよ」

「分かった、 奏多優しい! 大好き! 」

奈々美の機嫌が直ったところで、 話題は変わって場の空気も和んでいった。



***



HRが終わってカバンを手に教室を出たところで、 廊下で立ち話をしている奈々美と都子を見かけた。


奏多ははたと思いついて、 2人の前まで歩いて行った。



「なあ、 奈々美」

「あっ、 奏多、 今から帰るとこ? 」

奏多に気付いた奈々美がパッと表情を明るくした。


「うん。 ちょっといい? 」

「なあに? 」


「小桜のことだけどさ」

「………… 」

「今日も話題に出たけど、 彼女、 友達を作るのが苦手っぽいだろ? だから、 奈々美や都子が仲良くしてくれたらいいな……って思うんだけど」


「どうして奏多がそんなことを頼むの? 」

「えっ……だって、 ほら、 せっかく去年に引き続き同じクラスになってさ、 一緒にランチも食べるようになって……。 だからみんなで仲良く出来たらいいかなって…… 」



奈々美はしばらく目を伏せて考える仕草をしてから、 チラッと上目遣いで奏多に視線を戻した。


「分かった…… いいよ、 小桜さんと仲良くする。 任せておいてっ! 」

両頬に小さなエクボを作ってニッコリした。




その時後ろからグイッと腕を引かれて奏多が振り向くと、 そこには険しい顔をした陸斗がいた。


「奏多、 今からちょっと時間あるか? 」

「えっ、 今日は金曜日だから…… 分かるだろ」


小桜が家に来る日だと暗に伝える。


「それは知ってる。 だから短時間だけだ」

いつになくシリアスな表情に、 これは真剣な話なのだと予感した。


「…… 分かった」


2人で校舎裏にある非常階段の前に向かうと、 ポケットに両手を突っ込んだままの陸斗が低い声で言った。


「奏多、 お前、 ちょっとは空気を読め」

「えっ? 」


「お前がいろいろややこしくしてる」

「どういう意味? 」


「分からない? 」

「なんだよ、 ハッキリ言えよ」

「分かってないなら本物のバカだ」



要領を得ない陸斗との会話に奏多も腹が立ってきた。

一体何が言いたいんだと睨み付けると、 陸斗が呆れたように畳み掛けてきた。



「お前、 どうして小桜さんをランチのグループに誘った」

「だって、 当たり前だろっ! 彼女は1人だったんだぞ! 」


「お前が誘えば余計に彼女が孤立する」

「はあ? 何言ってんだよ」


「自分で言うのもなんだけどな、 俺と一馬は中学時代からサッカー部のエースで、 そこそこファンがついてるんだよ。 お前もな、 その無意識に優しい天然タラシの性格をいいと思ってる女子が少なからずいるんだ。 お前はアホだから気付いてないと思うけど、 お前が思ってる以上に俺たちは目立ってるんだよ」


「そんなの知るかよっ! だから何なんだよ! 」



陸斗の遠回しな物言いに、奏多は益々イラつきを募らせた。

たぶん小桜はもう百田家に向かっているはずだ。

彼女をいつまでも家に1人にしたくはない、 いや、 自分が早く会いたいのだ。


葉山樹の存在が、 余計に奏多を焦らせている。


そんな奏多に向かって、 陸斗は尚も言葉を続けた。


「お前は女の子に優しくは出来るけど、 女子の間に流れる空気を読めてない」



女子の間に流れる空気……。


奏多は依然、 陸斗の意図が掴めないままだったが、 それでも自分が何か『しでかしてしまった』のだということだけは分かって、 背中がジワリと汗ばむのを感じた。



第1章 第3部分の「図書館での告白」を2分割しました。

同様に第1章 第17部分の 「はじまりの話」も2分割しましたが、 内容に変更はありません。

よろしくお願いします。

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