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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
最終章 キミとオレとの未来
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34、 4 years later (前編)


「おめでとう! 」

「2人ともお似合いよ! 」

「お幸せに! 」



梅雨(つゆ)の合間の晴れ渡った空の下、 ゲストの笑顔と歓声とライスシャワーに祝福されながら、 新郎新婦がゆっくり階段を下りてくる。


プリンセスラインのドレスを着た花嫁がブーケを投げると、 独身女性がキャーキャーはしゃぎながら手を伸ばしたが、 それを見事にキャッチしたのは、 なんと陸斗。



「おい陸斗、 空気を読め、 空気を! 」

「勝手に目の前に飛んできたんだよ! 」


陸斗は一馬の声にも全く動じることなく、 そのまま笑顔を浮かべて、 隣にいる叶恵にブーケを手渡した。


「ちょっと、 なんで私に渡すのよ! 」

「だってコレって、 もうすぐ花嫁さんになる人が受け取るんでしょ? 」


「勝手に花嫁にしないでくれる? 第一まだ、 ちゃんとしたプロポーズもされてないっていうのに…… 」

「してもいいの? 俺が30歳になるまで駄目だって言ってたのに。 いいんだったら今日にでも指輪を買いに行くよ」


「ちょっ…… それはっ! …… だまれ! 」


叶恵は顔を真っ赤にして、 陸斗の背中をバシンと叩いた。

叩かれた方の陸斗は、 それでも(うれ)しそうにニコニコ顔で、 一馬と花嫁を見ている。



そんな2人の夫婦漫才(めおとまんざい)のようなやり取りを眺めながら、 凛がフフッと笑った。


「あの2人、 お似合いだね」

「2人って、 どっち? 一馬と美緒(みお)さん? それとも姉貴の方? 」


「どちらもお似合いだけど…… 今見てたのは、 叶恵さんと陸斗くんの方。 なんかもう夫婦(ふうふ)って言ってもおかしくない感じ」


「うん、 もう一緒に住んで8年くらいにはなるだろ? 姉貴も何をそんなにこだわってるのか知らないけどさ、 とっとと(せき)だけでも入れちゃえばいいんだよ」




チャペルのある地元の式場で行われた一馬の結婚式には、 高校時代の同級生が何人も呼ばれていて、 ちょっとしたプチ同窓会の様相(ようそう)(てい)していた。


それは披露宴(ひろうえん)後の2次会になるともっと顕著(けんちょ)になって、 式には呼ばれていなかった仲間たちも会場のレストランに顔を出して、 昔話に花を咲かせている。




「よお、 飲んでる? 食べてる? 盛り上がってる? 」


ビュッフェスタイルの立食パーティーで、 奏多たちがグラスを片手に囲んでいる丸テーブルに、 一馬が上機嫌でやってきた。


今日の主役はあちこちの席で飲まされてきたらしく、 (すで)に顔を真っ赤にしている。



「一馬、 (あらた)めておめでとう。 ほら、 もう一度乾杯するぞ」


「「「 おめでとう! 」」」


奏多の音頭(おんど)で陸斗や大和、 奈々美たちもグラスをカチンと合わせて乾杯する。



「美緒さんの体調はどう? お腹は苦しくなかった? 」


凛がテーブルにグラスを置きながら聞くと、 他のテーブルで友人と談笑している美緒の方を振り返りながら一馬が答えた。


「うん、 ツワリはおさまってきてるし、 5ヶ月に入ったにしてはお腹もあまり出てないしね」




一馬は大学を卒業後、 地元の医療(いりょう)機器メーカーに就職して、 営業として働いている。


就職してしばらくしてから同期の美緒と付き合い始め、 妊娠発覚を機に結婚を決めた。

いわゆる『(さず)かり婚』というやつだ。



奏多と凛は2人が付き合い始めた頃に紹介されてから一緒に遊びに行ったりしていた事もあり、 美緒が妊娠したことが分かった時も、 結婚を決めた時も、 すぐに2人から報告を受けていた。

今日の2次会の幹事(かんじ)も任せられている。



「それにしてもさ〜…… 」


一馬が陸斗の肩を抱きかかえ、 ジトッとした目でその顔を(のぞ)き込んだ。



「なんで叶恵さんの相手がお前なんだよ〜! 今日も2人揃って仲良く現れやがってよ。 くっそ〜! 」

「何言ってんだよ。 お前には美緒さんがいるだろ」


「もちろん美緒は俺の愛する可愛い奥さん! …… だけど、 叶恵さんは俺の学生時代の憧れの女神だったんだよ〜! 」

「甘いな。 俺にとっての女神は今も昔も叶恵さん1人だけだよ」



「「「 うっわ〜 」」」


涼しい顔でサラッとキザなセリフを吐かれて、 一同が顔を見合わせる。

だけど、 そんな甘々なセリフでさえもサマになってしまうのは、 ノーブル系美男子のなせる(わざ)なのだろう。



「陸斗、 ここに姉貴がいなくて良かったな。 目の前でそんなセリフを吐かれたら、 あのひと()ずか死ぬぞ」


「ああ、 そんな感じ。 あの人って攻撃力は凄いけど、 防御(ぼうぎょ)となると途端にポンコツになるよね」


奏多と大和がそう言ってもどこ吹く風といった感じで、 陸斗は目を細めてワイングラスに口をつけている。



叶恵は漫画の締め切りが近いとかで、 披露宴後すぐに宿泊先であるホテルに戻っていった。


家に泊まればいいのにと奏多と凛が誘ったが、 明日の早朝には東京に戻らなくてはいけないらしく、 新幹線の駅に隣接したホテルを自分で予約してきていた。


奏多はあえて聞かなかったが、 たぶん陸斗も一緒に泊まるのだろうと予測している。




どんな手段を使ったのか知らないが、 陸斗は大学入学と同時に叶恵のアパートに転がり込んで、 そのまま同居に持ち込んだという。


なんでも高校生の頃からずっと叶恵を好きだったらしく、 東京の大学を選んだのも、 叶恵を追いかけてのことだったらしい。



常にクールで落ち着いた雰囲気の陸斗にそんな情熱的なところがあったというのも驚きだが、 そんな陸斗を叶恵が受け入れて何年間も同棲生活を送っていることも、 叶恵の気持ちを優先して陸斗が正式にプロポーズするのを待っていることも、 全部含めて凄いことだと思う。



2年前の奏多と凛の結婚式に2人が揃って現れて、 一緒に住んでいると告げられた時には本当に驚いた。


奏多も何度か叶恵のアパートに行ったことはあったが、 普段から編集者やアシスタントなど人の出入りが多いうえに、 彼らの私物も雑多に置きっ放しになっていたりするので、 陸斗がその場にいても、 いつものように手伝いに来ているとしか思っていなかった。



そのあたりの経緯(けいい)を詳しく聞こうとすると、 いつも陸斗はニヤリと笑うだけではぐらかして答えようとしない。



「恋は秘めるものなんだよ。 …… そうだな、 名実(めいじつ)ともにちゃんと彼女が俺のものになった時には、 全部話してもいいかな」


そう言って口角(こうかく)を上げた陸斗は、 なんだか年齢よりも大人びて見えた。



奏多たちが大学を卒業して、 既に4年の月日が経っていた。



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