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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
最終章 キミとオレとの未来
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32、 一番大切な人


玄関の鍵を開けて中に入ると、 漫画パレスの()りガラスから廊下に明かりが()れているのが見えた。


ガラリと引き戸を開けたら、 奥の押入れの前で体育座りで本を読んでいる凛がいた。

本から顔を上げた彼女と目が合うと、 思わず奏多の目尻が下がる。



「奏多、 お帰りなさい」

「うん、 ただいま」



家の合鍵(あいかぎ)を渡してからというもの、 凛は時間が許す限りこの家に来て、 奏多との時間を過ごすようになっていた。


大学に入ってからは、 課題やバイトが忙しくてなかなか会えない時もあったけれど、 どうにか時間をやり繰りして2人で乗り越えてきた。

ただ顔を見るだけ、 一瞬のキスをするだけのために、 凛が遅くまで待っていてくれたこともある。



昔のように学校で会えなくても、 来る曜日を決めなくても、 今ではここに来さえすればいい。

そして一緒にお茶を飲んだり料理をしたり、 時にはベッドの上でじゃれあったりして、 甘い恋人同士の時間を過ごすのだ。


そしてそのあとは大抵(たいてい)この部屋に来て、 お互いが好きな本を読みながら、 ゆっくりとした時間を過ごすのがお約束のようになっていた。



「遅くなってごめんな」

「ううん、 私の方が近かったし」


大学の後でバイト、 しかも紫織とのこともあって心身ともに疲れていたけれど、 凛の顔を見たら吹き飛んだ。

自分でも驚くくらい心が軽くなって、 自然と笑顔になっている。



「奏多、 夕食は? 何か食べる? 」

「いい、 今日はバイト前に済ませたから…… 俺も何か読もうかな」


奏多は本棚から漫画を1冊取り出すと、 凛の後ろに歩いて行って、 畳の上に一旦置いた。


そのまま背中から凛に抱きつくと、 耳元で(ささや)くように彼女の名前を呼ぶ。


「凛…… 」

「…… はい」


振り向いた彼女の頬に軽く唇を押し当てると、 そのまま覗き込んで唇にもキスをした。



「ふふっ…… 甘えてる」

「甘えちゃダメ? 」


「いいけど…… どうしたの? 今日は何かあったの? 」

「ん〜、 なんにも無い…… けど、 ちょっと疲れたかな」


凛が奏多の方に向き直って、 心配そうに顔色を観察してくる。


「熱は…… 無いよね? 」


奏多の額に手を当てて熱を測っているのを見て、 思わずフフッと()みがこぼれた。



「やだっ、 人が心配してるのに笑ってる! 」

「いや、 ごめん。 …… やっぱり俺は凛のことが好きだな〜って思ってさ」

「工学部のリケジョよりも? バイト先の女子中学生よりも? 」


「うん、 誰よりも。 俺には凛以外見えてないし…… 大丈夫、 俺はそんなにモテないよ」

「そう言って油断してると、 またこの前の女子高生みたいになるんだからね! 天然タラシを自覚した上で慎重に行動してください」



凛に両手でムニッと頬を挟まれながら、 目の前の彼女を悲しませるようなことがあってはならない、 この子を今まで以上にもっと大事にしたいと改めて思った。



「…… ごめんな。 いつまでも『天然タラシ』とか『勘違い女子製造機』って言われてヘラヘラ笑ってちゃいけないよな。 俺…… 頑張るわ」


「…… 今日の奏多、 やっぱり変だよ」

「ん〜、 思いがけず凛が来てくれたから、 嬉し過ぎてテンションがおかしいのかもな」


凛の手に自分の手を重ね、 頬をすり寄せると、 なんとも言えない幸福感で満たされる。



ーー 彼女こそが、 俺の世界一(いと)しい、 世界で一番大切な人だ……。



「凛…… 好き。 めちゃくちゃ好き」

「ふふっ、 ありがとうございます。 私も奏多が大好きだよ」


「医学部にいる未来のドクターよりも? 樹先輩よりも? 」

「もう、 まだ樹先輩にこだわってる! 」

「こだわってるって言うか…… 凛と同じキャンパスで同じ空気を吸ってるのが(うらや)ましいだけ」


樹先輩は凛にとって、 同じ医学部の先輩と後輩、 ただそれだけ。 分かってはいるけれど、()()れするのは仕方ない。


樹たち5年生は臨床実習で殆どキャンパスに顔を出さないとはいえ、 いずれは大学病院でも先輩後輩になるわけで……。



「う〜ん、 やっぱり羨ましいだけじゃなくて妬けるな」


最後に凛の手のひらにキスをすると、 いつものように凛と背中合わせになって本を読み始める。



「凛、 今日は何時までいられるの? 」

「あともう少ししたら帰る。 今日はちょっと顔を見たかっただけだから」


「泊まっていけばいいのに」

「それは…… まだ無理」



凛が泊まっていったのは、 高校の卒業旅行のあとの1回だけ。

それ以降は、 この家で夜遅くまで過ごすことはあっても、 朝まで一緒にいたことはない。


それは、 2人の将来を真剣に考えているからこそ、 親の信用を失いたくないし、 ケジメのある付き合いをしたいという考えからだ。



だけど……。



今日、 紫織の前で凛への気持ちをハッキリ口にしたことで、 奏多の中で、 ある想いが大きく膨らんでいった。


その想いは具体的な形となり、 ただの夢ではなくて、 目の前の現実となっていく。



ーー 凛と一緒にいたい。



奏多は、 たった今開いたばかりの本をパタンと閉じた。



文字数にもよりますが、 あと数話で完結します。

それまでもう少しだけお付き合いください。

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