28、 手紙 (後編)
電車が止まるのも待ちきれず、 凛はドアの前で待ち構えて、 扉が開いた途端にホームへ駆け出した。
そのまま全力疾走で百田家に向かうと、 電信柱を右折した途端、 家の前に立っている奏多が見えた。
「奏多! 」
ラストスパートして勢いよく奏多の胸に飛び込んでいく。
「手紙…… 読んだ。 ありがとう」
「うん、 俺も読んだ」
「奏多はいつ投函したの? 」
「3日目にパークを離れる前。 なかなかタイミングが見つけられなくて、 最後にトイレに行くフリしてポストまでダッシュした」
「……凛は? いつ? 」
「私は3日目の早朝。 ホテルのゲストは15分前から入場出来るでしょ? それでパークに行って手紙をポストに入れてから、 ホテルに戻ってきた」
「わざわざ?! それで女性陣が最終日は朝食時間をゆっくりにしようって言ったのか…… 」
奏多が一旦体を離すと、 手に持っていた手紙を凛の目の前にかざしてみせる。
「これ…… めちゃくちゃ驚いたよ。 凛にサプライズしようと思ったら逆サプライズされた」
「私だって…… まさか同じことを考えてたなんて…… 」
卒業旅行1日目の夜、 都子にパーク内に特別なポストがあると知らされた。
パーク内にいくつか設置されてあるそのポストに投函すると、 オリジナルの消印スタンプを押してもらえるというのを聞いて、 奏多に手紙を出そうと思いついた。
旅行から帰って週明けに突然手紙が届いたら、 奏多はきっと驚くにちがいない。
そういえば、 付箋のメッセージは書いたことがあったけれど、 手紙を書くのは初めてだ。
受け取ったらどんな顔をするだろう。
喜んでくれるかな? また泣いちゃうかな?
2日目にパークでこっそり便箋を買った。
初日のナンパ事件で奏多がぴったりガードしてくれるようになったのはいいけれど、 そのぶん1人になる時間がほとんど無い。
便箋を手にしたとき、 奏多に見られないかヒヤヒヤしたけれど、 都子たちが注意を引きつけている間にお菓子と一緒にパパッとレジで買い物を済ませた。
その夜ホテルで手紙を書いて、 こっそりバッグに忍ばせた。
イタズラをしてる気分でワクワクした。
「ハハッ…… 俺、 凛をがっちりガードしてたもんな。 でも、 全然気付かなかった」
「私も、 奏多が同じことを考えてたなんて気付かなかった…… 」
「俺は、 何か思い出に残ることをしたいと思って、 旅行の前に調べてたんだ」
「またいろいろ下調べしてくれたんだ」
「うん、 検索かけまくった。 ハハッ」
「奏多は手紙を読んだときどう思った? 泣いた? 」
「めちゃくちゃ泣いたし、 めちゃくちゃ感動したわっ! 俺の彼女はどこまで可愛いことしてくれるんだよ!って」
「…… 私も泣いたよ。 泣いて、 感動して……会いに来ちゃった」
奏多はもう一度ガバッと凛を抱き寄せて、 その髪に唇を押し当てた。
「凛…… 手紙、 嬉しかった。 ありがとう」
「私も嬉しかった」
「ほら…… やっぱり運命だ」
------------
奏多へ
奏多、 こんばんは。 奏多が読む時間は、 こんにちは…… かな?
私は今、 この手紙をホテルの部屋で書いています。
知ってた? パーク内のポストから手紙を出すと、 特別なスタンプを押してもらえるんだって。
都子からその話を聞いたとき、 まっ先に奏多の顔が浮かんだの。
奏多にメールや付箋のメッセージは送ったことがあっても手紙を書いたことは無かったから、 なんだか照れるけど、 この機会に思っていることをいろいろ書こうと思います。
まずは…… 奏多、 いつもいろいろありがとう。
持ち物検査のとき、 庇ってくれてありがとう。
百田家に私の居場所を作ってくれてありがとう。
悩みを聞いてくれてありがとう。
背中を貸してくれてありがとう。
友達を作ってくれてありがとう。
私を好きになってくれてありがとう。
彼女にしてくれてありがとう。
私の親に反対されたとき、 諦めないでいてくれてありがとう。
あの時ね、 私は最初、もうダメかもって思ったの。
お義父さんに、 一旦離れて大学に入るまで待つっていう案を出されて、 ああ、そうだな。 それも仕方ないかも…… って思ってた。
自分たちは子供で、 どうしようもないんだって。
だけど、 叶恵さんと奏多で家まで説得に来てくれたよね。
とても心強かった。
そのあと結局しばらく会えなかったけど、 その間に、 やっぱり私は奏多のことが好きだな、 会いたいな…… って心から思ったの。
前に叶恵さんに、『恋なんて勘違いの積み重ねだ』って言われたでしょ?
奏多のお母さんには、『これから先には今まで生きてきた3倍、 4倍の長い人生が待っていて、 新しい出会いもあるから、 未来の選択を狭めなくてもいい』って言われたでしょ?
だけどね、 今のところ、 私の選択は間違っていないと思う。
だって私は、 奏多といられてとっても幸せだから。
勘違いだって構わないよね? だって、 勘違いが積み重なって、 そのおかげで奏多と私は恋人同士になれたってことでしょ?
勘違いで奏多が私を好きになってくれたのなら、 ずっと勘違いしてて欲しいな。
未来の選択も、 私は奏多一択でじゅうぶん!
これからいろんな出会いがあるだろうけど、 やっぱり私が好きになるのは奏多しかいないと思う。
だから、 奏多の未来の選択も、 ずっと私であって欲しい。
ずっとずっと、 私一択でいてもらえたら嬉しいです。
…… 最後にちょっとだけ愚痴ります。
奏多はやっぱり無意識天然タラシだと思う!
女の子全般に優しすぎ!
優しいところは奏多の魅力だと思うけど、 それですぐに女の子を勘違いさせちゃうので、 彼女としては心配です。
勘違いさせる相手は私限定にして欲しいな…… なんて言うのはワガママかな?
こんな風に、 私はすぐに拗ねるし諦めちゃうしヤキモチを妬くけれど、 愛想を尽かさず、 これからもお付き合いよろしくお願いします。
奏多、 大好きだよ。
今も、 これからも、 ずっと。
凛