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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
最終章 キミとオレとの未来
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27、 手紙 (前編)


「凛、 あなた(あて)の手紙、 ダイニングテーブルに置いといたわよ」


月曜日の午後、 買い物から帰ってきた凛がテーブルの上を見ると、 愛が言うとおり、 いくつかのダイレクトメールに混じって白い封筒が置かれていた。


「奏多くん、 なんでわざわざ手紙なんて送ってきたのかしらね。 喧嘩(けんか)でもしたの? 」


「喧嘩なんて…… 」


喧嘩どころか、 今は最高にラブラブ期だと自分では思っているのだけど……。



首をかしげながら封筒を裏返してみると、 真ん中に押されている約5㎝四方の大きな消印スタンプが目に飛び込んできた。


そのスタンプはネズミーランドの人気キャラクターカップルが笑顔で手を(つな)いでいるもので……。


それはパーク内のポストから投函(とうかん)した手紙にしか押されない特別なもので……。



(ふる)える手で手紙を取り出し、 便箋5枚に渡ってびっしり書かれた文に目を通す。



------------


凛へ


急に手紙が届いて驚いた?


俺はこの手紙を、 火曜日の夜に2階の自分の部屋で書いています。


明日から卒業旅行で、 凛と2泊3日も一緒にいられるんだと思うと楽しみで仕方ありません。


そのせいでテンションが高くなってるから、 文章まで浮かれてたらゴメンな。



凛とは中3で同じクラスになって、かれこれ4年近くの付き合いになります。

高1で付き合い始めてからは3周年になるよね。


その間にいろいろあったけれど、 いつでも凛は俺の心のド真ん中にいて、 俺の支えになってくれています。


受験で推薦(すいせん)がダメになって心が折れそうになったとき、 凛が毎日会いに来てくれて、 本当に嬉しかった。


凛の笑顔、 凛のお弁当、 一言メッセージ。

全部覚えています。 全部俺の大切な、 一生モノの宝物です。


四つ葉のクローバーの(しおり)は今も大切に使わせてもらってる。 受験の時もカバンに入れて持ってったんだよ。



前に姉貴が言ってた言葉を覚えてる?


『恋なんて、 勘違(かんちが)いの積み重ね。 運命だとか直感だとかは所詮(しょせん)後付けで、『席替え』だって『持ち物検査』だって『たまたま』が重なっただけ。 奏多じゃなくても同じことが起こっていた』


そう言われた時はカッとなったし、 俺たちはそんなんじゃない! って思ったけどさ、 今はもう少し素直にその言葉を受け入れられるんだ。



恋は確かに『勘違い』や『たまたま』の積み重ねだと思う。


もしかしたら、 凛には違う誰かとの道もあったのかもしれない。


でもさ、 いくつかの偶然や選択肢があるたびに自分たちで決断して選んで、 今こうして2人でいるわけだろ?


そういう一つ一つの事を積み重ねて、 今の俺たちがあるわけだろ?



『勘違い』でも『たまたま』でもいいんだよ。


そうやって偶然や勘違いを重ねていって、 何年後かに振り返ったときに初めて、 『これは運命だったんだ』って分かるんじゃないかな。



俺はこの4年近くを振り返って、 全ての出来事にちゃんと意味があったんだって思える。


あの日、 隣の席にならなかったら、 持ち物検査が無かったら、 凛が悩みを打ち明けなければ、 俺が家に誘わなかったら……。


いくつもの『もしも』を通り過ぎて、 その時々に悩んで苦しんで選んできた先に今の俺たちがいるのなら、 それってやっぱり運命なんだよ。


うん、 凛は俺の運命の人です。



なんて、 ちょっとカッコつけ過ぎたかな。


旅行前の変なテンションって恐ろしいな。

何年か後にこの手紙を読み返したら、 恥ずか死んじゃうかも知れないや。


だけど、 その時に恥ずかしくって顔を真っ赤にしてる俺の隣には、 やっぱり凛がいて欲しいと思います。



ネズミーランドに行ったらこの手紙をパーク内のポストから投函します。


ちゃんとバレずに出来るか心配だけど、 カバンの中に手紙を入れて持ち歩いて機会をうかがうよ。



最後に、俺は凛が大好きです。


一緒にいてくれてありがとう。

俺を選んでくれてありがとう。

これからもよろしくお願いします。



俺は君を、 心から愛しています。



百田奏多



------------



手紙にポトポトと水の()みが広がって、 凛は慌てて手紙を顔から離した。



「凛、 どうしたの…… あらっ、 泣いてるの? 喧嘩ならちゃんと話し合いなさいよ。 奏多くんが優しいからってワガママ言っちゃ駄目よ! 」


「お母さん…… 行ってくる」

「えっ? 」


「奏多に会ってくる」

「そうね、 喧嘩の原因は分からないけど、 直接会って話してらっしゃい」


「私、 奏多のこと、 大好きなの…… 」

「はいはい。 だったら意地を張らずに謝っちゃいなさいよ」



「奏多から…… 最高のラブレターもらった」

「はいはい…… えっ?! 」



玄関に駆け出す凛の背中に愛が問いかけた。



「今日の夕食はどうするの? 」

「それまでに帰って…… ううん、 奏多と食べてくる! 」


「気をつけて行ってらっしゃい! 奏多くんによろしくね! 」



凛はマンションから勢いよく飛び出すと、 バッグからスマホを取り出して画面に文字を打ち込んだ。



『今から会いに行きます。 大好きです』



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