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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
最終章 キミとオレとの未来
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24、 心の準備が出来たから


東京駅で陸斗に見送られ、 奏多たちは新幹線に乗り込んだ。


ボックス席に女子3人、 通路を挟んで反対側に奏多と一馬が並んで座る。



「うお〜っ、 陸斗〜! とうとう陸斗とお別れだよ、 俺、 ショックでしばらく立ち直れね〜わ。 奏多、 お前だけは遠くに行くなよ」


窓の外で遠く小さくなっていく陸斗の姿を見つめながら、 一馬が悲壮(ひそう)な声をあげた。



「行かねえよ、 てか、 一馬の大学と俺が通うキャンパスは5キロくらいしか離れてないじゃん。 会おうと思えば毎日でも会える距離だろ」


「まあ、 そうだけどさ、 バイトとか部活とか始めたら、 やっぱ今までみたいにはいかないよな…… 」


「まあ、 それはそうだけど…… 」



奏多と一馬は小学校5年生からの付き合いで、 一馬の家が4駅離れた街に引っ越してからも、 同じ中学に通って(くさ)(えん)が続いている。


陸斗は中学校のサッカー部で一馬と仲良くなったことがきっかけで、 そのまま奏多とも親しくなった。


キャラクターは三人三(よう)で全く違うけれど、 それが逆に良かったのか非常に馬が合い、 一緒にいると居心地が良かった。



「そうだな…… やっぱり(さみ)しいもんだな」


新幹線は(すで)にホームを離れているのに、 そこに思わず陸斗の姿を探して、 奏多はぼんやりと窓の外を眺めた。



楽しかった2泊3日の卒業旅行はこれで終わり。

来週からはいよいよ大学生としての生活が待っている。


新しい環境に新しい出会い……そして奏多にとっては初めての一人暮らしが始まる……。




「親が車で迎えに来てるから、 私たちはここで。 みんな、 近いうちに絶対会おうね! 」


駅から出て行く都子と奈々美に手を振って、 奏多たちは電車のホームへと向かう。



「それじゃ、 俺はこっちの電車だから。 またメールするよ、 じゃあな! 」


一馬も去って行くと、 とうとう奏多と凛の2人だけになった。



「さっきまで6人だったのにね…… 」

「うん、 仲間と離れた途端(とたん)、 本当に高校を卒業したって実感が()いてくるよな」


ホームに立って話をしていると、 目の前に電車が(すべ)り込んできた。


空いているクロスシートを見つけ、 凛を窓側の席に座らせると、 自分はその隣に座り、 2人分のボストンバッグを通路に積み重ねて置く。



「凛、 お母さんに駅に着いたってメールしておけば? 」

「うん…… 大丈夫」


「大丈夫……? 」

「うん、 いいの」

「…………。」



「凛、 どうした? 気分が悪いの? 酔った? 」

「うん…… 大丈夫」

「大丈夫って…… 」



ーー やっぱり凛も寂しいんだろうな……。



急に無口になって思い詰めた表情を浮かべている凛を心配しながらも、 友達と別れた寂しさと旅の疲れからだと思い、 それ以上深く追求(ついきゅう)するのをやめた。


奏多もそのまま黙り込んで、 座席に深くもたれ掛かる。



車掌のアナウンスの後で電車の速度が落ちるのを待って、 奏多がボストンバッグに手を伸ばした。



「凛、 降りるよ。 俺も凛のご両親に挨拶(あいさつ)したいから一緒に行くよ」

「待って」


バッグを肩に掛け立ち上がろうとした奏多の(そで)を、 凛が引っ張った。



「私も奏多の家に行く」

「えっ? 」


「奏多の家に行きたい…… いいでしょ? 」

「そりゃあいいけど…… 」



そのまま窓の外を見て黙り込んだ凛を見て、 奏多もある予感を胸に、 何を見るでもなくスマホの画面をいじりだす。


心臓が早鐘(はやがね)を打ち始め、 指先が(ふる)えだす。



観音(かんのん)駅で電車を降りると、 奏多が荷物を肩に掛け、 凛の手を引いて無言で歩き出した。


家の前まで来ると手を離して、 正面からジッと彼女の目を見つめる。



「凛、 もう一度聞くけど…… お母さんにメールしなくていいの? 」


奏多の問いかけに凛は一瞬目を()らしたが、 すぐに視線を戻して、 今度はキッパリとした口調で告げた。



「旅行は3泊4日って言ってあるの。 私、 心の準備が出来たから…… 覚悟が出来たから…… 」


奏多が息を止めて、 ゴクリと(つば)を飲み込む。



「私、 今日は帰らない」



「………… いいの? 」



凛がコクリと頷くのを見届けると、 奏多は彼女の震える肩を抱いて玄関に入り、 そっとドアを閉めた。



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