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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
最終章 キミとオレとの未来
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23、 ヴェネツィアの夜


お店が建ち並ぶアーケードを抜けると、 目の前に突然夢の国が現れた。


(すご)い! お城がある! テレビで見てたのと一緒! 」


凛が目をキラキラさせて、 パシャパシャと写真を撮りはじめる。



「凛、 まだまだこれからよ。 ここでそんなに撮ってたら、 すぐにバッテリーが切れちゃうからね」


奈々美に言われてバッグにいそいそとスマホをしまうと、 今度は地図を広げてアトラクションの物色をはじめる。



こんなにはしゃぐ凛を見るのは久しぶりだ。

たぶん初詣(はつもうで)のとき以来…… いや、あの時は受験前で、 心から楽しむという雰囲気ではなかった。


とすると、 夏の花火大会以来ということか……。


奏多は地図を持つ凛の手に自分の手を添えると、 横から一緒に(のぞ)き込んだ。


「凛、 3日間、 思いっきり楽しもうな」

「うん」


地図から顔を上げて無邪気(むじゃき)に微笑む彼女を見て、 この2泊3日の夢の国で、 最高の夢を見させてあげたいと、 心から思った。




様々な乗り物に、 ショーやパレード。

キャラクターダイニングでは、 黄色いクマさんとその仲間達との記念撮影。


宿泊先には海がテーマのパーク内にあるオフィシャルホテルを選んだので、 閉園ギリギリまで思う存分楽しむことが出来た。



2日目は海のテーマパークで1日遊び、 最後は水上で映像や花火を駆使(くし)したキャラクターショー。



「水上ショー、 綺麗だったよね」

「凛、 初めて()たんでしょ? 楽しめた? 」

「うん、 迫力があって凄かった! 」


興奮冷めやらぬ様子ではしゃいでいる女子3人の背中を眺めながら、 後ろから男3人が、 少し離れてついていく。



「奏多、 今回これで良かったの? 」


一馬の言っている意味が分からずキョトンとしていると、 その言葉を(おぎな)うように、 陸斗が奏多に聞いてきた。


「お前、 これが彼女との初めてのお泊り旅行になるんだろ? 2人きりにならなくていいのか? ホテルも別々の部屋だし…… 」


「そうだよ奏多、 俺たちに遠慮しなくていいからさ、 今からでもツインの空きが無いか調べてみたら? 」


ホテルの部屋は、 トリプルを2つ、 隣同士でとってあり、 そこに男女分かれて泊まっている。



「いいんだよ、 卒業旅行は友達との思い出をたくさん作ろうって、 凛と決めたんだ」


高校の仲間との卒業旅行は、 これが最初で最後。

この旅が終わればそれぞれ忙しくなって、 なかなか会えなくなるだろう。


もしかしたら、 このメンバーが全員(そろ)うことも2度とないかもしれない……。



「特に凛にとっては、 こうやって友達と過ごせる時間が新鮮で貴重なんだよ。 あいつがああやって笑っていてくれるなら、 俺はそれでいいんだ…… 」


「おーおー、 奏多くんはいろいろ我慢しててエライじゃないの。 だけどさ、 お前と凛ちゃん2人にとっても、 この旅は大事な旅行なんじゃねえの? 」

「それは…… 」


「あとは食事をしてホテルに戻るだけだ。 俺たちは先に帰っとくから、 2人で遊んでこいよ。 明日はまたみんなで(まわ)るんだ、 これから少しの時間くらい2人で過ごしたって(ばち)はあたらないだろ? 」


「一馬…… 陸斗も…… ありがとう、 ちょっと行ってくるわ! 」



奏多は前の3人に駆け寄ると、

「凛、 これから俺に付き合って! 」


手首を掴んで引き寄せる。


「ごめん、 凛を借りる! 」


「どうぞ、 どうぞ、 行ってらっしゃい」

「楽しんどいでよ! 」


奈々美と都子に見送られ、 人の波に逆行(ぎゃっこう)して歩き出した。



「奏多…… どこに行くの? 」

「ん…… 旅の思い出に、 ちょっとだけ恋人らしいことをしたいと思って」



奏多が連れてきたのは、 水上ショーがあった場所からすぐ近くのゴンドラ乗り場。


これは、 イタリアの水の都、 ヴェネツィアをイメージしたアトラクションで、 煉瓦(れんが)造りの街並みを望みながら、 ゴンドラで運河を巡る11分30秒の水上の旅だ。



閉園時間が迫っていたためか、 16人乗りのゴンドラには8人ほどしか乗客がおらず、 座席に余裕がある。


奏多と凛が一番奥の席に2人並んで座ると、 前後のゴンドリエが長い棒で(かじ)をとり、 ゴンドラが静かに水面を(すべ)りだした。



『それでは出航いたします! 』



ゴンドリエが軽快なトークで場を盛り上げながら、 この短い船旅の名所を案内していく。


『実はこの5つの橋にはそれぞれ橋の名前や意味があるんですよ』



11分30秒の短い船旅の中で、 ゴンドラは5つの橋の下をくぐっていくことになっている。


中でも注目すべきは3つめの橋、 『ポンテ・デイ・ベンヴェヌーティー』。


海のパークに入園した人が最初に渡る橋なので、『歓迎の橋』の名がついているが、 実は別名『願いが叶う橋』とも呼ばれている。


ゴンドラが橋の下をくぐる時に願い事をすると叶うという言い伝えがあり、 このパークに来た恋人たちなら一度は訪れたい場所。


…… と、 奏多が検索しまくったサイトに書かれていたので、 もしも時間に余裕があれば凛と行ってみたいと、 (ひそ)かに思っていたのだった。



「凛、 もうすぐ3つ目の橋だよ」

「うん」


「下をくぐるよ、 願いごと考えた? 」

「うん」



ゴンドラが橋の下に入って暗くなった一瞬で、 奏多は凛の頬に口づけた。



ゴンドラが橋の下を通過して進んでいく。



「願いごと…… 言えた? 」

「バカ…… びっくりして願いごとをするの忘れた! 」


「ふ〜ん、 俺は願いごとしたし、 もう(かな)ったけどね」

「えっ? どういうこと? 」


「凛と一緒にいられますように」


奏多が凛を見てニカッとイタズラっぽく笑うと、 凛も釣られて笑顔になった。



「そっか…… それじゃ私ももういいや」

「何が? 」


「私の願い事も同じだったから…… 」


「ふ〜ん…… そうなんだ」

「…… そうなんです」



ライトに照らされた幻想的な景色を眺めながら、 ゴンドラは恋人たちを乗せて水面(みなも)(すべ)る。



「またいつか、 2人でゆっくり来たいね」

「うん、 この夜景、 絶対に忘れない」



グラツェ(ありがとう)、 そしてアリヴェデルチ(さようなら)


チ・ヴェディアーモ(またいつか)……。



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