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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
最終章 キミとオレとの未来
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17、 さようなら滝高 (前編)


同級生や後輩たちと記念写真を撮り終わると、 遠巻きに見ていた家族たちが近くにやってきた。



「奏多、 卒業おめでとう」

「姉貴…… 父さんと母さんも、 ありがとう」


そこへ凛とその両親もやってきて、 なぜか急に父親同士が名刺交換を始める。



「奏多と叶恵からお噂は伺っていたんですが…… いや、 本当に綺麗な娘さんで驚きました」


「いやいや、 奏多くんこそ本当に好青年で、 うちの妻も大ファンでしてね」


なんだか見合いの席の挨拶みたいで聞いている方がこそばゆくなってくる。



「父さん、 新幹線の時間は大丈夫なの? 」


「ああ、 そうだな。 小桜さん、 今日はお会いできて良かった。 また改めてゆっくりお酒でも」

「そうですね、 また近いうちに」



奏多の父親は銀行の東京本店で役員となり多忙ななか、 奏多の卒業式のためだけに駆けつけてくれた。


彼はこのまま東京に戻るが、 母の晴恵は日曜日までこちらに残り、 日曜日に叶恵を連れて東京に行くことになっている。


叶恵が東京に行けば、 いよいよ奏多の一人暮らしが始まる。



「奏多、 それじゃ私はお母さんと先に帰ってるわよ」

「分かった、 また後で」



このあと卒業生の大半はクラスの仲間や部活のメンバーで集まったりするのだが、 奏多たちはいつものメンバーで百田家に集合し、 卒業祝いと叶恵の壮行会を兼ねたパーティーをすることになっている。


ーー でも、 その前に……。


「それじゃ凛、 行こうか」

「うん」



***



奏多と凛は、 2人で校内をゆっくり歩いて行った。



玄関に入ってすぐ、 中学校の下駄箱の前。


「初めて凛がうちに来た日さ、 先に教室を出た凛を追いかけてきたら、 ここで『さ、 よ、 う、な、 ら』って、 めっちゃ他人行儀に言われた」


「だって他人だったもの」

「ハハッ、 そうだけどさ…… それが今は、 こんな事が出来ちゃうんです」


ギュッと手を握ると、 凛が照れて見上げてきたが、 振りほどいてはこなかったので、 そのまま仲良く手を(つな)いだまま奥へと進む。



滝中3-Aの教室、 1番後ろ窓際の特等席に奏多が、 その右隣に凛が座る。


「ここから始まったんだよな…… 」

「うん。 私ね、 奏多は絶対に漫画が私のだって言わないって確信があった」


「えっ、 なんで? 」

「見てたから。 お人好しでみんなに優しい百田くんを」


「えっ?! 」

「ふふふっ」



階段を下りて1階に行くと、 廊下の向かい側には生徒会室。


「ここで凛は1人でお昼を食べてた」

「そう、 そして廊下の声を聞いてた」


「廊下の声って中まで聞こえてくるの? 」

「全部では無いけど、 集中してたら大体は…… そう、 例えばこの掲示板の前での会話とか」


「掲示板か…… これってちょっと位置が高いから、 上半分が届きにくいんだよな。 絶対に設計ミスだよ。 上の方に貼ろうと思うと職員室から踏み台を借りてこなくちゃいけないんだ」


「うん、 知ってる。 奏多はしょっちゅう誰かを手伝ってた」

「えっ?! 」


「顔より先に名前だけ知ってた。 親切で『むっつり眼鏡』のモモタカナタ君」

「えっ、 マジか! 」


「うん、 あそこ…… 」


凛が生徒会室から少し離れた中庭側の窓を指差(ゆびさ)す。



「初めて奏多の顔を見たのがあそこ。 奏多はいつものようにここで誰かを手伝ってた」

「ええ〜っ、 見てたの?! 」


「うん、 女の子目当てのイケメンチャラ男かと思ってたら、 想像と全然違ってた」

「想像と違ってガッカリした? 」


「うん、 ガッカリした…… って、 嘘ウソ! すごく誠実(せいじつ)そうだな……って思った」

「ふ〜ん…… それで()れた? 」


「惚れ……はしなかったけど…… 」



凛が忘れたペットボトルを取ってきてくれた。

『ありがとう』、『どういたしまして』。

眼鏡の奥の細めた瞳が優しく見つめていた。



それから、 下駄箱で、 廊下で、 階段ですれ違うたびに、 その姿が視界に飛び込んでくるようになった。


困っている人がいたら、 迷わず手を差し伸べる。

誰かが重いものを持っていたら運んであげるし、掲示板にポスターを貼っている子がいれば紙の上をそっと押さえて手伝ってあげる。



ーー 今思えば、 たぶんあの頃から私は……。



「んっ? 凛、 どうしたの? 」

「ううん、 なんでもない…… 」



ーー みんなに優しいメガネの百田くん、私は君のことを知ってたんだよ。 そして見つめていたんだよ、 ずっと前から……


凛は目を細め、 遠い昔を思い出すように、 廊下を見渡した。



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