24、 Sweet16 (後編)
奏多は凛の手首を掴んだまま、 彼女を振り返りもせずに階段を上がり、 自分の部屋に引っ張り入れた。
片手でドアを勢いよく閉め、 凛をそのままベッドの横まで連れて行き、 グイッと肩を押す。 彼女が勢いでそのまま仰向けに倒れこむと、 自分は彼女の顔の横に両手をついて、 怯えた顔をジッと見下ろした。
凛が目を見開いて黙っていると、 奏多は今まで誰にも見せたことのないような怒りに満ちた目を向けて口を開いた。
「凛、 いい加減にしなよ。 俺が必死で耐えてるのに、 なんであんな煽るようなこと言うの」
奏多の低い声音に、 凛は黙って首を横に振る。
「凛は平気なのかも知れないけど、 俺は抱きしめるたびに、 もっともっと凛に触れたくなって堪らないんだよ。 だけど凛を大切にしたいから一生懸命に我慢してるのに、 なんでこんなに無防備なんだよ。 そんな簡単に隙見せるなよ! 」
「違う…… 奏多、 私は…… 」
凛は今にも涙が零れ落ちそうなほど潤んだ瞳で、 奏多を見上げている。
「今ここで押し倒されて急に怖くなった? それとも俺が何も出来ないって思ってる? 俺だって男なんだよ。 好きな子が目の前にいたら、 手を出したくなるんだよ。 それくらい分かれよ! 」
言いたいことを一気に吐き出してしまうと、 後から追いかけてきたのは激しい後悔。
自分の昂ぶった気持ちを剥き出しのまま凛にぶつけてしまった。
凛は悪くないのに、 ただ2人でいたいと言ってくれただけなのに…… 自分の感情をコントロール出来ずに凛を責めた。
彼女の怯えた目を見て、 自己嫌悪が込み上げる。
知らなかった。 自分にこんな荒々しい衝動があったなんて……。
「…… ごめん。 暴走した。 俺が悪い」
あまりの情けなさにフイッと凛から目を逸らす。
凛を囲った腕を離して身体を起こそうとすると、 下から細い腕が伸びてきて、 奏多の首にしがみついた。
「……っ、 凛?! 」
凛に覆い被さる体勢になり焦っていると、 彼女が更に腕にギュッと力を込めて、 耳元で訴える。
「違うの……。 いいの、 奏多だったらいいの」
「えっ?! 」
「私も奏多と同じなの。 もっとこうしてたいし、 もっと近づきたいの」
ガバッと身を起こして凛の顔を見ると、 彼女はすぐさま両手で真っ赤な顔を覆い隠した。
白い指の隙間から、 溢れ落ちる涙と震える唇が見えて、 奏多の胸に熱いものが込み上げてくる。
ーー 凛は今、 精一杯の勇気を振り絞ってこの言葉を口にしたんだ……。
「凛…… 」
奏多はギシッとベッドを揺らして、 凛の隣に仰向けに寝そべった。 顔を覆っている凛の右手を取って握りしめると、 天井を見ながらゆっくり言葉を選んで話しかける。
「凛…… 俺が今言ったことは全部俺の本心で本音。 凛にもっと触れたいし、 先に進みたいって思ってる…… だけど、 今はまだダメなんだ」
「まだ早い…… っていうこと? スィートシックスティーンは大人の証なんでしょ? 」
凛がこちらに顔を向けた気配がしたが、 奏多はそちらを見ずに上を向いたまま続けた。
「俺はまだ16歳で、 誰かに頼らなきゃ生きていけない子供なんだ。 自分のことさえ満足に出来ないのに、 凛の未来を潰すかも知れないようなことはしたくない。 自分のしたことにちゃんと責任を取れる年齢になって、 凛の未来も背負えるようになったら、その時は…… って思ってる」
「その時…… 」
「うん、 せめて俺が結婚できる年齢になってから。 凛には後ろめたい気持ちとか不安の無い、 真っさらな気持ちで受け入れて欲しいし、 その時には心からシアワセだって思って欲しいから」
「…… うん」
奏多は凛の方に顔を向けて、 ニッコリ微笑んで見せる。
「俺は一生凛と付き合っていくつもりだから、 まだ時間は十分あるよ。 急がずゆっくり、 今の気持ちを育てていきたい。 待っててくれる? 」
「……うん、 分かった」
凛がようやく笑顔になったのを見て満足そうに頷いて、 奏多が横になったまま凛の方に身体を起こした。
凛の涙の跡を指でなぞりながら、 愛おしそうに目を細める。
「凛が、 俺ならいいって言ってくれて凄く嬉しかった。 ありがとう。 俺も相手は凛がいい。 凛じゃなきゃ嫌だ」
「うん」
奏多はベッドに広がった凛の艶やかな髪を撫でて一房手に取ると、 そっと唇を寄せた。
そしてふと思い出したようにベッドから手を伸ばし、 机の上にある小さな水色の紙袋を手に取った。
奏多がベッドの上で袋を手に正座したのに気付き、 凛も慌てて起き上がって、 向かい合って正座する。
「今日はせっかくの誕生日なのに泣かせてごめんなさい」
そう言って奏多がベッドで手をついて馬鹿丁寧なお辞儀をすると、 凛も同じように手をついてペコリと頭を下げる。
「これ…… タイミング的になんだかお詫びの品みたくなっちゃったけど…… 俺からの誕生日プレゼントです。 凛、 16歳の誕生日おめでとう。 俺といてくれてありがとう」
凛が奏多から紙袋を受け取って中身を取り出すと、 袋と同じブランド名のロゴがついた水色の小箱が入っていた。
箱の中にはシルバーのオープンハートのネックレス。
「素敵……」
凛がネックレスと奏多の顔を交互に見て、 パアッと顔を綻ばせる。
「奏多、 つけて」
凛が背中を向けてファサッと髪をかきあげると、 甘い香りとともに、 彼女の白い首すじが露わになった。
ーー うっわ……
奏多はゴクリと生唾を飲み込んでから、 震える手を凛の胸元からまわし、 ネックレスの留め金を留めた。
そのまま後ろから凛に抱きついて、 その髪に顔を埋める。
「自分で言っといてなんだけどさ…… 俺、 あと2年も本当に我慢できるのかなあ…… 自信ないわ。 この状態でうなじ見せられるとか、 マジ拷問」
「だから私はいいって…… 」
「だからソレ! そういう誘うようなことサラッと言っちゃダメなんだって! 」
奏多は「もおっ…… 」と低く呟きながら、 今ネックレスをつけた凛のうなじに口づける。
凛の背中がビクッと揺れる。
「ここに…… 」
奏多が一旦唇を離してから、 そこに人差し指でそっと触れて、 遠慮がちに聞いた。
「ここに…… 俺の跡をつけてもいい? 」
凛が黙って頷くのを待ってから、 奏多が再び同じ場所に顔を寄せ、 短い音をさせると、 白い肌に鮮やかな赤紫の花びらが浮かびあがった。
「俺のしるし…… 」
奏多がそれを見て満足そうに指でなぞっていると、 凛がバッと振り返って前から抱きついてきた。
ーー うわっ!
勢い込んで2人してベッドに倒れこむ。
「奏多、 ありがとう…… 大好き」
ーー 耐えろ、 俺の理性!
凛に上からキスされて顔を真っ赤にさせながら、 奏多は彼女の背中を強く抱きしめた。
4/23/19 誤字報告いただき、 指摘箇所の訂正を完了致しました。 ありがとうございました。