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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
第5章 本当の恋人編
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12、 2人きりの時間


9月第3週の体育祭が終わると、 学校中が10月末の学園祭に向けて一斉に(かじ)を切り始めた。



しかし滝高の生徒たちには、 その前にやらなければならない事がある。


10月に入ってすぐの中間考査。


凛はそこでの1位死守、 他の者たちは上位獲得(かくとく)に向けて、今日は奏多の家の漫画パレスで勉強会を開いていた。



「それにしてもさ、 9月後半から10月のスケジュールって、 いろいろ詰め込み過ぎじゃね? 中間考査さえ無ければお楽しみばかりなのにな」


勉強の合間のおやつタイム、 一馬がチップスをつまみながら愚痴ると、 その場の全員が頷いて同意した。



「そうだよね〜、 でも、 体育祭すっごく楽しかった! 奏多もいつになく張り切ってたしね。 ねっ、 奏多! 」


都子の言葉でみんながニヤつきだして、 奏多は口に含んだお茶を思わず吹き出しそうになる。



今年の体育祭は、 凛が隣にいていつも以上に楽しかったし充実していた。

それは良かった…… けれど、 必要以上に悪目立ちし過ぎた。



体育祭では、 『堂々と付き合ったらやることリスト』に従って、 凛と2人で『二人三脚』に立候補した。

他にエントリーしたのは、 凛が障害物競走と団別対抗リレーの選手、 奏多は玉入れと借り物競走。



障害物競走の時、 凛がスタートラインに立つと、放送委員が『皆さんお待たせしました! 滝高のマドンナの登場です! 彼女の美しい顔が粉まみれになってしまうのを、 見たいような見たくないような…… 』と言って笑いを取っていた。


その時に凛が2階の窓をキッと(にら)みつけていたような気がしたので後で聞いたら、


「毎年こうなのよ。 こっちは競技前で集中したいのに、 邪魔するようなことばかり言うの。 だから、 『そんなのに負けないわよ』って思いながら2階の窓を睨みつけてやるの。 (まぶ)しくて向こうの顔は見えないんだけどね」


と笑顔で言っていた。


彼女は()めているように見えて、 案外負けず嫌いで熱いのだ。



奏多が借り物競走に出た時もギャラリーが凄かった。

お題は去年と同じ『好きな子』。 去年は誰も思いつかなくて陸斗を選んだが、 今年は全く悩む必要が無かった。


凛を呼んだらすぐに出てきてくれたのと、 周囲と目を合わせないように必死で走ったお陰で1位になれたけど、まわりから歓声とヤジと怒号が容赦(ようしゃ)なく飛んできて、 BGMが全く聞こえないくらいだった。



一番注目度が高かったのが二人三脚で、 これは思い出すと今も赤面してしまうほどだ。


息もピッタリに勢いよく走り出したのはいいけれど、 途中でタイミングがずれて2人揃って転倒し、 その際に凛が軽く足首を(ひね)ってしまった。


焦った奏多が2人を結んでいる(ひも)をほどき、 凛を背負ってゴールすると、 そのまま保健室に直行。

女子のキャー! という声や男子のウオー! という声が入り乱れて、 その場は一時騒然となったのだった。



「あのあと保健室からグラウンドに戻るのが本気で怖かった。 いつも注目されてる凛の苦労が分かったよ」


「えっ、 私は奏多がすぐに背負って保健室に連れてってくれて、 王子様みたいって思った」


凛が真顔で言うと、 奏多がポッと照れて2人で見つめ合う。


「うわっ、 馬鹿ップルだ! 」と他の皆は呆れ顔をした。



「ハハッ、 俺、 紅茶を()れてくるよ」

「私も手伝う! 」



2人揃ってキッチンに行くと、 やかんに水を入れて火にかける。


棚に手を伸ばした凛より一足早く紅茶の缶を手に取った奏多が、 それをコトリとシンクの横に置いて、 凛の目を見た。


「はあ〜っ、 やっと凛と2人きりになれた…… 」


そのまま凛をギュッと抱きしめて、 ハア〜ッと大きく息を吐く。



ここのところ凛は、 委員会の仕事や学園祭の劇の練習で忙しく、 昼休みも放課後も一緒にいられない日が続いていた。


凛を家に呼ぶのは叶恵がいる時だけに自粛(じしゅく)しているのだが、 その叶恵も大学で学園祭の準備があって帰りが遅い。 だから凛を家にも呼べない。



なので先日、 一馬が「みんなでテスト勉強しようぜ! 」と言い出した時、 奏多は大喜びでその案に飛びついた。


いや、 勉強が出来るのが嬉しいのではない。

上手くやれば凛と2人きりになれるチャンスがあると踏んだのだ。


下心があって何が悪い! こっちは慢性的な凛不足なのだ。 テスト勉強にも(わら)にもすがる思いなのだ。



かくしてようやく凛と2人きりになれた奏多は、 ただいま凛を充電中。


ピーーッ!


お湯が()いて、 ヤカンの(フエ)が高い音で鳴り出した。



奏多の背中に回した手を離してヤカンに手を伸ばそうとした凛を、 奏多が再び抱き寄せる。


奏多は右手を伸ばしてコンロの火を止め、 ヤカンの注ぎ口をパカッと開けて音を止めると、


「まだ充電完了してないから…… もう少しこのままで」


凛の耳元で囁くように言うと、 彼女がコクリと頷いた。



「お湯…… 冷めちゃうよ」

「いいよ、 また沸かし直せば。 そのぶんもっとここにいられる」


「ふふっ、 みんなが待ってるのに」

「ここで凛と離れるか、 後でみんなに文句を言われるかの2択なら、 文句を言われる方を取る」


「そっか…… じゃあ、 私も一緒に叱られる方を選ぶ」


そう言うと、 凛が奏多の胸に顔をうずめて、 背中に回した手に力を込めた。


それから更に2回お湯を温めなおすまで、 2人はその場から離れなかった。



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