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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
第5章 本当の恋人編
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11、 凛プロデュースデート (後編)


南山(みなみやま)スカイタワー』は、 動物園の敷地内にある地上130メートルのペンシル型の細長い塔で、 全面ガラス張りの5階の展望室からは、 360度のパノラマで街並みを見下ろすことができる。



奏多と凛は、 そのスカイタワー4階の土産物屋で買い物をしたあと、 そのままエレベーターでこの5階展望室へと上がってきた。



「あっ、 あった! あのモニュメントが『恋人の聖地(せいち)』で有名なんだって」


凛の指差した方に目を向けると、 展望台の一画に(さく)が取り付けられていて、 その中にポツンと透明な羅針盤(らしんばん)が置かれているのが見えた。


2人で歩いて行って説明文を読むと、


『羅針盤の針が示す方角に幸せがあります』

と書いてあり、 近くのテーブルにはハート形のピンクのストラップとペンが置いてある。


どうやらこのハートに願い事を書いて、 羅針盤の示す方角の柵に結びつけるということらしい。



恋人イベントに不慣れな奏多としては、 こういう『モロ』カップル向けのベタな行為はつい気後(きおく)れしてしまう。


そう思いながら隣の凛を見たら、 目を輝かせてワクワクした表情(かお)をしていたので、 これはもう行くしかないだろうと覚悟を決めて、 彼女の手を引いてハートだらけのテーブルへと向かった。



ペンのキャップをはずしてから、 何を書こうかとしばし考える。


ーーそりゃあ、 もちろん、 ここで願うのは恋愛関係だよな…… 。



すでに書き始めている凛の手元を覗き込んだら、 「まだ見ちゃダメ! 」とブロックされた。


仕方ないので自分の願い事に集中する事にした。



『凛と一生一緒にいられますように』



ーー ベタにも(ほど)があるな……。


自分の書いた願いを改めて見返すと、 なんだか借り物っぽい言葉に思えてしっくりこない。


もう一度テーブルに伏せて、 言葉を付け足した。

それからハートのストラップを手に持って振り向くと、 (すで)に書き終えた凛が待っていた。



2人で羅針盤の前に立ち、 「せーの!」で一緒に針を回すと、 針がクルッと2回転半して西北西を指して止まった。


西北西の方角の柵に2人のハートを重ねて結びつけると、 意外にも結構ウキウキしてる自分がいる。



「凛の願いを読んでもいい? 」

「うん」


今結びつけたばかりのストラップを手に取ってめくると、 凛の細くて丁寧な字が見えた。



『奏多が私といてシアワセだと思ってくれますように』



振り返ると、 凛が頬を染めて照れている。


「凛…… これ、 わざわざお願いしなくてももう(かな)ってるんじゃないの? 俺、 今めちゃくちゃシアワセなんだけど」


「でも、 もっともっとシアワセだと思って欲しいから…… 」



ーー キュン!



俺の彼女は本当に(あお)るのが得意だ。

今すぐ思いっきり抱きしめてキスしたいのに、 こんな360度オープンな場所じゃ無理じゃないか。


出来るなら今すぐ手を引いてエレベーターに乗って、 どこかに連れ込み…… もとい、 静かな場所に移動したい。



ウズウズしながら煩悩(ぼんのう)(たたか)っていたら、 既に凛が柵の前でしゃがみ込んで、 奏多の書いた願い事を読み始めていた。



「ちょ、 凛! 俺の心の準備が…… 」



柵に結びつけた時点で誰が読んでもいい前提(ぜんてい)だけど、 やはり目の前でマジマジと読まれると照れるのだ。



奏多の決して綺麗(きれい)とは言えない文字を時間をかけて読んでから、 凛がしゃがんだまま奏多を見上げた。


(うる)んだその瞳は、 室内の照明を反射してキラキラ輝いている。



「奏多…… ありがとう」

「ん…… うん。 こちらこそ、 ありがとう」




『凛と一生一緒にいられますように』


の下にグチャッと詰めて書かれた小さな文字。


『凛の指のキズとヤケドのあとが残りませんように。 あとが残っても残らなくても俺が嫁にもらえますように』



気恥ずかしくなって後頭部を()いていると、 立ち上がった凛が奏多の胸に勢いよく飛び込んできた。



「うわっ! 」


慌てて彼女の身体を支えると、 凛が奏多のシャツの背中をギュッと(つか)んで、 「好き…… 」と呟いた。


胸元で温かい吐息を感じて背筋がゾクっとした。



ーー もう知るかっ!



奏多も凛の背中に手を回して、 360度のパノラマのど真ん中で、 力任せに抱きしめた。





展望室には、 ガラス窓に向けていくつものベンチが設置されていて、 何組かのカップルたちが仲睦(なかむつ)まじく腰掛け、 日が暮れるのを今か今かと待ち構えている。


そして奏多と凛もまた、 この場所からの夜景を一目見ようと、 ベンチに座って外を眺めていた。



「ごめん。 俺がメソメソと泣いてたから時間を無駄にしちゃったよな。 本当はもっといろいろ回りたかったんだろ? 」


「ううん。 今日のメインは奏多にお弁当を食べてもらうことと、 ここで一緒に夜景を見ることだから。 ……それに、 お弁当を喜んでもらえて良かった」


「うん、 最高だった。 最高の誕生日祝いで、 最高の記念日だ」



そう言いながら、 凛の左手をチラリと見る。



奏多が左手の絆創膏に気づいたのは、 駅で切符を買おうとしていた時だ。


凛が小銭(こぜに)を掴みにくそうにしていたのでよく見ると、 人差し指と中指に絆創膏が巻かれていた。



絆創膏に(にじ)んだ赤いシミは、 その傷の深さと真新(まあたら)しさを伝えていて……。


そのことに気づいた途端、 凛が今日のこの日のためにどれだけ頑張ってくれたかが分かって、 胸が(ふる)えた。



更にふれあい広場では、 膝に乗せたモルモットを()でる凛の左手首に、 火傷の(あと)があるのにも気づいた。


ジッと見ていたら凛に不審(ふしん)がられたので、 咄嗟(とっさ)に「生脚が…… 」などとアホなことを言って誤魔化した。


絆創膏と火傷の理由を聞けば、 きっと彼女が返答に困るだろうから。



ーー彼女のためなら何でもしてあげたい……。



今日自分がすべきことは、 凛がプロデュースしてくれた今日のデートを思いっきり満喫(まんきつ)することだ……。


そう思って楽しんでいたけれど、 凛の豪華な手作り弁当を見た瞬間に、 感情が決壊(けっかい)した。


彼女のいじらしさに心打たれて、 目頭が熱くなる。 愛しくて愛しくて、 心臓がギュッとなる。


あとはもう、 溢れ出した気持ちを止められなかった……。





気づくと、 ついさっきまで薄明るかった空から徐々に暖かい色が消えて、 濃紺(のうこん)の中に星が(またた)きはじめた。


街を見下ろすと、 そちらにも明るく燦々(さんさん)と輝く地上の星。


沢山の星たちに囲まれて、 まるで宇宙空間にいるかのような不思議な気分になった。



ーー このまま2人きり、 宇宙に放り出されるのもいいかもしれない……。



束の間の宇宙空間で、 奏多と凛は身体を寄せ合い見つめ合い、 そっと口づけを交わした。




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