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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
第5章 本当の恋人編
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4、 放課後の教室 (前編)


午後5時過ぎの教室は、 日没前の淡いオレンジ色が窓から射し込んで、 ふんわりと柔らかい空気を(まと)っている。



窓の外から聞こえる部活の掛け声をBGMに、 机に()せてウトウトしていたら、 頭に触れる暖かい感触で目が覚めた。


ゆっくりゆっくり髪を()でるその温もりは、 幼い子供の頃に母親にされたそれと似ていて……。



あまりにも心地よくて、 目を閉じたまま身を任せていたら、 今度は細い指が顔の輪郭(りんかく)をなぞり、 唇を撫で、 最後に……



「こらっ! タヌキ寝入り! 」



ほっぺをギュッとつままれて、 奏多は「イテっ!」と短く声を発して起き上がった。



顔を上げると目の前には、 前の席に座ってこちらの机に両肘(りょうひじ)をついている凛の顔があった。



「お帰り……。 どうしてバレたの? すぐに気付いた? 」


「ただいま……。 ふふっ、 髪を撫でてたら肩がピクッてしたと思ったら、 次に顔がニヤけたから」



「うわっ、 ニヤけてた? 俺」

「うん。 唇の(はし)が上がってた」


「ハハッ、 凛の手の感触が気持ちよくて、 起きるのが勿体(もったい)なくてさ…… 」



開いたままの窓から、 秋の気配を含んだ涼しい風が入り込み、 カーテンを(かす)かに揺らしている。



「凛の言うとおりだったよ。 この席、 風通しが良くて気持ちよかった」

「そうでしょ、 窓際って快適よ。開放的で(なが)めもいいし」



奏多が窓の外に目を向けると、 校庭でボールを追っているサッカー部員の姿が見えた。


「俺も去年の今頃は窓際の特等席だったんだけどな…… 隣が凛で…… 楽しかったな」

「うん…… 楽しかった」



視線を凛に戻すと、 彼女はまだ窓の外を眺めていた。



ーー ああ、 あの日もこんな感じだったな。



去年、 初めて図書館で待ち合わせたあの日も、 今みたいに西日が差し込んで、 凛の顔半分をオレンジ色に染めていた。


(おぼろ)げな光の中に見えた(つや)やかな睫毛(まつげ)も、 キリッと引き締まった唇も、 あの頃はまだ、 見惚(みと)れているのが精一杯で、 手に触れることも出来なくて……。



ーー あの時はまだ、『俺の』じゃなかった。



ゆっくり右手を伸ばして、 凛の髪を優しくかきあげた。

そのまま頬に触れると、 彼女は次に起こることを予想して、


「ダメっ! ここは教室だから! 」


先手(せんて)を打って、 肩をグイッと押された。



「ちぇっ、 誰も見てないのに」

「見てなくてもダメなの! ここは神聖(しんせい)なる学び()なんだからね」


「待ってたご褒美(ほうび)(もら)えると思ったのに」

「だから頭を撫でてあげたでしょ」


「はいはい、 それじゃ帰ろうか」



奏多が苦笑(くしょう)しながら立ち上がろうとすると、 凛がその手を引いて、 座るよう(うなが)した。



「えっ、 何? どうしたの? 」

「ちょっと話があるの」

「なに、 改まって話って。 なんか怖いんだけど」



凛が目を()せて言い(よど)んでいるのを見ると、 悪い予感しかしない。



「奏多…… 怒らない? 」

「いや、 話を聞く前に怒るかどうかを決めろと言われても」


「う〜ん…… 」


「いいから、 とりあえず言ってみなよ。 凛が突拍子(とっぴょうし)もない事を言い出すのは慣れてるし、 別れ話以外なら大抵受け入れられると思うよ、 俺」



凛は上目遣(うわめづか)いにチロッと奏多を見てから、 背筋を伸ばし、 両手を膝の上に置いて覚悟を決めたように口を開いた。



「来月の文化祭で、 演劇部の舞台に出ます」

「はあ? 」


「主役のコーディリアになります」



「えっ、 ええええっ?! 」



勢いよく立ち上がったら、 椅子がガタンと後ろの机にぶつかった。



「どういうこと?!! 」



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