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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
第5章 本当の恋人編
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3、君がヒロインだ (後編)


「えっ、 コーディリア? 私が?! 」


凛が脚本(きゃくほん)をパサリとテーブルに置いて、 首をブンブン横に振った。



「そんなの無理に決まってるじゃないですか! 第一、 私は演劇部の部員じゃないですし」


「その演劇部の部員じゃダメだから言ってるの。 それにね、 この作品は、 元々葉山くんが小桜さんをイメージして書いたものなのよ。 だから、 ヒロインのセリフも行動も、 あなたそのものなの。 ねっ、 考えてみてくれない? 」



「ダメだよ、 根本」



机に置かれた脚本をパシッと閉じ、 その上に右手をついて樹が言った。



無理強(むりじ)いはするなって言ったよね」


「無理強いはしてない。 お願いしてるだけ」



根本を見下ろす樹の目は厳しいものだったが、 それを(にら)み返す根本の目も、 真剣そのものだった。



「葉山くんは小桜さんに気をつかって何も言えないんでしょ。 だったら私が言うしかないじゃない」



根本は再び顔を凛に向け、 胸の前で祈りを捧げるように懇願(こんがん)する。



「私たちは、 半年以上前から準備してたの。 葉山くんが書いて、 それを私が推敲(すいこう)校正(こうせい)して、 それをまた葉山くんが直して……。何度もセリフを書き直して、 構成を練り直して、 やっと出来上がった脚本なの! これを無駄にしたくないのよ! 」




滝高の3年生は、 受験に備えるため、 3年生になってすぐか、 もしくは遅くとも夏休み前には部活を引退するのが通例(つうれい)になっている。



演劇部も例に漏れず3年生が引退したのだが、 残った2年生の部員はほとんどが裏方志望で、 1年生は樹目当てで入ったミーハーが大半だった。


真面目に演劇をしたいと仮入部した生徒は、 ミーハー軍団の勢いに圧倒されて去っていき、 そのミーハー部員も、 樹が今年は生徒会で忙しくて脚本専門であると知ると、 潮が引くように去っていった。



「そういうわけで、 今の我が部は圧倒的に部員不足、 実力不足なのよ。 そして唯一(はな)がある葉山くんは絶対に裏方しかやりたくないって言うし…… だったらどこかから華を持ってくるしかないじゃない! ねえ、 小桜さんも、 そう思わない? 」


「ええ、 まあ…… 」



演劇部の窮状(きゅうじょう)は理解出来ても、 それとこれとは話が別だ。


「だけど、 私では…… 」


「小桜さんじゃなきゃダメなのよ! あなたは私たちがイメージしてるコーディリア(ぞう)そのもので、 しかも華がある! 」


「買いかぶりすぎですよ」



「あのね、 あなたも知ってる通り、 今年の学園祭は初めての一般公開で、 先生方も注目しているの。 この結果によって、 来年からの流れも変わっちゃうの。 葉山くんの生徒会長としての手腕も、 脚本家としての才能も問われちゃうのよ! 」



黙り込んだ凛を見かねて、 樹がテーブルの前にしゃがみこみ、 凛の顔を覗きこんだ。


ふんわりと優しい王子さまスマイルで見上げると、



「小桜さん、 君は何も気にしなくていいんだよ。 君をイメージして書いたのは、 その方が僕の(ふで)が進むから勝手にやっただけのことだ。 学園祭の舞台に立ってもらうという案も、 僕の勝手な希望だ。 君を知って、 君が注目されるのを(きら)うというのが分かった時点で、 僕の中ではその案もとっくに消えたんだ。 だからもう、 大丈夫。 忘れて」



それだけ言って立ち上がると、 パイプ椅子を折り(たた)んで撤収(てっしゅう)の準備に入った。




「私で…… 大丈夫なんでしょうか」


「「えっ? 」」


樹が椅子を畳む手を止め、 根本が凛の横顔を凝視(ぎょうし)した。



「演技のシロウトでも、 舞台に上がっていいんでしょうか? 」


「だから、 君は何も気にしないで…… 」


「私も生徒会役員の1人です。 先輩方の努力を見てきたし、 絶対に学園祭を成功させたいという想いは私も同じです。 だから…… 」



「いいの? いいのねっ! コーディリアをやってくれるのね?! 」


凛の両手をギュッと握って根本が念押しする。



凛がこっくり頷くと、 根本が歓喜(かんき)の声をあげ、 樹が手にした椅子を置き、 凛の前に歩み寄った。



「本当に、 いいの? 」

「はい、 よろしくお願いします」


「…… 分かった」



樹が目を細め、 ニコッと口角(こうかく)を上げた。



「小桜さん、 君がヒロインだ」



樹が差し出した右手を凛が握り返し、 しっかりと握手を交わした。



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