42、 呼び出し (前編)
奏多と凛が2人で校長室に行くと、 そこには中野校長、 担任の山本先生、 そして生徒指導の本間先生が揃って待ち構えていた。
「まあ、 そこに座りなさい」
中野校長に言われて応接セットのソファーに並んで座ると、 向かい側の2人掛けのソファーに校長と本間が座り、 その隣に山本が居心地悪そうな顔で立った。
この面子は、 どう考えても糾弾会だ。
ーー だけど、 2人で花火に行ったくらいで呼び出されるっておかしいだろ。
奏多がそう考えていると、 校長が驚くことを口にした。
「実はね、 夏休みに入る前に、 学校に奇妙な電話があったんだよ」
ーー えっ?!
奏多と凛は、 思わず顔を見合わせた。
デジャヴ……。
中野校長の話はこうだった。
1学期の終業式の日、 生徒を全員帰らせた後で、 教師たちは夏休み前の職員会議を開いていた。
そこへ、 午後4時頃に若い女の子の声で電話がかかってきた。
『小桜凛さんは百田奏多の家に入り浸ってますよ。 不謹慎なので退学にした方がいいですよ』
ーーやっぱり灯里……。
奏多と凛はもう一度顔を見合わせて頷いた。
灯里は奏多の母親や凛の父親だけでなく、 学校にまで電話をかけていたのだ。
灯里が尊人に言った、『学校でも噂になってますよ』は本当のことだった。
だって自分が学校に広めた張本人なのだから。
ーー あいつ、 どこまで……。
怒りでカッと全身が熱くなった。
今まで女子に対して手をあげるなんて考えたこと無かったけど……
今もしも目の前に灯里がいたなら、 殴っているかもしれない。
そんな奏多の心中を知るわけもなく、 校長は話を続けている。
「先方はそれだけ言うと名乗らずに切ってしまったんだ。 小桜さんも百田くんも優秀な生徒だし、 真面目で品行方正だ。 そんな子供の匿名電話に大騒ぎするのもどうかという事になって、 ひとまず様子を見ることに決まったんだよ」
「だけどね」……と言って、 温和な顔を曇らせた。
「君たちは8月24日の土曜日に花火大会に行ったかな? 」
「「…… はい」」
話が徐々に核心に迫っていく。
「本間先生が生徒指導で花火大会の見廻りに行ったとき、 君たち2人が仲良く手を繋いで歩いていたところを見たらしくてね。 もしかしたら、 電話の内容が本当だったんじゃないかということになったんだ」
校長の話を引き継いで、 本間が話し出した。
「今日、 学校中で噂になってたぞ。 お前たち、 付き合ってるらしいな。 小桜が百田の家に入り浸ってるっていうのも本当じゃないのか? 」
「入り浸ってるというのは嘘です…… だけど、 百田くんの家に行ったのは本当です」
凛の言葉で、 先生の間に動揺が走った。
「確か百田の家は…… 御両親が不在でお姉さんと2人だけだっただろう? 」
担任の山本がそう言うと、 校長と本間が顔を見合わせて苦い顔をする。
本間がソファーから身を乗り出して言った。
「百田、 親のいない家に女の子を連れ込むというのはどうなんだ? 」
「そんな下品な言い方をしないで下さい。……それに、 家には姉が一緒に住んでいます」
「姉と言ったって、 まだ学生じゃないか。 そんなのは子供と一緒だ。 それに、 小桜! お前のような優秀な生徒がどうしてそんな軽率な真似をするんだ! 第一、 何か問題があれば滝高の名を汚すことになるんだぞ! 」
「俺たちは軽率な行動もしてないし、 滝高の名を汚すようなこともしてません! ただ普通に付き合ってるだけです! 」
自分たちの恋愛に、 成績優秀だとか滝高の名だとかは関係ないじゃないか。
ただ普通に恋をして、 普通に付き合いたいと思っているだけなのに、 自分たちのしていることは、 そんなに悪いことなのか? 責められるようなことなのか?
奏多はそう叫び出したい気持ちをぐっと抑えて、 膝の上で握りこぶしを震わせた。
「そもそも、 これから大学受験に向けて模試もあるのに、 恋愛にうつつを抜かしてる場合じゃ…… 」
本間がそこまで言った時、 突然、 校長室のドアがノックされた。
「誰だね? 」
「失礼します」
ドアを開けて顔を覗かせたのは、 陸斗だった。