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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
第4章 2人の試練編
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40、 祭りのあと


チリチリというか(ぼそ)い音と共に最後の花火が空に溶けていくと、 後には白い煙と火薬の匂いだけが残った。


それを合図に観客はゾロゾロと移動を始め、 祭りの時間はとうとう終わりを告げようとしている。



奏多と凛は終わった花火を名残惜(なごりお)しむように、 手を繋いだま一緒にボ〜ッと空を見上げていた。



「終わっちゃったね」

「うん…… 終わったな」


「綺麗だった」

「うん…… 最高だったな」



ーー うん、 最高だった…… 凛も、 凛と過ごせた今日一日も。



花火は確かに綺麗(きれい)だったけれど、 今日の奏多の記憶にある花火は、 凛が指差(ゆびさ)した先にあり、 凛の肩越(かたご)しに見えて、 凛の瞳に映っていたもので……。


要は、 凛の表情ばかり追いかけていたから、 花火を思い出そうとすると、 そこには必ず凛の姿が映し出されるのである。



夜店ではしゃぎ、 ナンパに戸惑(とまど)い、 花火に興奮し…… 不意打(ふいう)ちのキスに、 ()ねて照れて頬を紅潮(こうちょう)させた、 いつもと違う君。



ーー 夏休み最後の思い出が、 凛と共にある……

うん、 最高じゃないか。



「それじゃ、 帰ろうか」

「うん……」


夏の終わりの生暖(なまあたた)かい潮風(しおかぜ)に送られて、 駅まで続く渋滞の列に加わった。




帰りの電車も混雑していたが、 幸いにも目の前のクロスシートが空いたので、 凛を窓際(まどぎわ)にして2人で座った。


車内は行きと違って乗客の口数が少なく、 ガタンガタンと電車が揺れる音と、 小さなボソボソ声が聞こえるだけだ。


それは、 ただ単に遊びの疲れが出ているだけではなく、 祭りの余韻(よいん)気怠(けだる)さと、 夏の終わりの(さみ)しさがそうさせているのだろうと、 奏多は思った。



「前の時と同じだね」

「えっ? 」


「ほら、 初デートで海に行った帰りも、 今と同じようにこうやってずっと手を繋いでたでしょ」


握った手を見つめて、 周囲を気にしながら、 凛が小さな声でボソッと言った。


「前も帰るときは寂しかったけど、 今日もやっぱり帰りの電車は寂しいな…… 」



行きのワクワクした高揚感(こうようかん)が消えて、 あとは別々の場所に帰るカウントダウン……。



「前の時と同じだけど……でも、 全然違うよ」

「えっ? 」


「前は途中から席を離れなきゃいけなかったし、 凛の家の手前で別れなきゃいけなかった。 だけど今日は家に着くまでずっと凛の隣にいるから…… 」


「そうか…… ずっとこうして手を握っていられるんだ。 嬉しいね」


「うん」



ーー徐々に徐々にゆっくり心を通わせて、 秘密の恋人同士になって…… ようやくここまで来れたんだ。



「今日このまま凛のご両親に挨拶(あいさつ)に行ってもいい? 交際を許してくれた御礼(おれい)をちゃんと言いたいんだ」


「ありがとう。 お義父さんも安心すると思う。 メールしておくね」



奏多の宣言通り、 ずっと隣同士のまま、 2人は凛の家の最寄り駅で電車を降りた。




「ごめん、 ちょっとだけ」


凛のマンションの手前でそう言うと、 奏多は凛の手を引いて街灯のない横道に入り、 くるりと凛を振り返って見つめた。



「抱きしめたいんだけど…… いい? 」

「えっ? うん……」


何を今さら…… という表情で凛が頷くと、 奏多は背中に手を回してギュッと強く抱きしめた。



「キスは? キスもしていい? 」

「どうしてわざわざ聞くの? なんか変だよ」


「……ダメ? 」

「いいけど…… 」


「5週間分のキスだよ」

「えっ? 」


「5週間も会えなかったんだ。 あんな花火の合間のキスじゃ全然足りないんだよ。…… だから、 俺、 余裕が無いから、 ガッつくと思うよ。 いい? 嫌だったらそう言って」


凛はしばらく黙って考え、 奏多もその間は一言も喋らず、 凛を抱きしめたまま返事を待った。



「…… いいよ、 奏多が好きなようにしていいよ」



その言葉を待って、 奏多は背中に回していた手を凛の肩に置き、 ゆっくり顔を近づけた。


「目を閉じて、 口は閉じないで…… 」



5週間分の長い長い口づけを交わし、 そっと顔を離すと、 凛の伏せた長い睫毛と紅潮した色っぽい目元が目の前にあった。



ガバッと抱き寄せ大きなため息。


「はあ〜っ、 俺、 今日の今日でいきなりガッつきすぎだよな。 やっぱ駄目だ、 全然余裕ないわ。 カッコわる…… 」


そんな奏多の背中をポンポンと優しく叩きながら、 凛がふふっと笑う。



「私だって余裕がないよ。 花火の途中でキスした時ね、 私ももっとキスしたいと思ってた。…… だから、 嬉しいよ」


「もお〜〜っ! だから、 そういうことを簡単に言わないでよ! ホント困るから、 歯止めきかなくなるから! (あお)るの禁止ね! 」


「ふふっ…… 煽るの禁止って…… 」


「ホント、 冗談じゃないからね…… 俺、 凛のことは真剣に考えてるから」


「ん…… 分かった」



ふと左手の腕時計を見て、 凛がガバッと顔を上げた。


「あっ! お母さんに『今から奏多が挨拶に行きます』ってメールを送ってから時間経っちゃったよ! 」


「ええっ?! いきなり心証(しんしょう)悪いじゃん! 行くよ! 」



手を取って、 カランコロンと下駄(げた)の音を響かせ走り出す。




そのあと小桜家の玄関で奏多が無事に挨拶を済ませたわけなのだが……。


凛の『奏多が挨拶に行きます』メールで、 まさか結婚の申し込みじゃないよね…… と尊人と愛がドキドキして待ってたところに 、


『このたびは交際を許していただきありがとうございました。 僕の全力で一生凛さんを大切に守ります! 大事にします! 』


と奏多がぶちかましたものだから、 尊人が『結婚の挨拶はまだ早過ぎる! 』と焦ったというのは、 後々まで両家の語りぐさになったのだった。


だけどそれはまだ、 先のお話。



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