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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
第4章 2人の試練編
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36、 花火 (1)


玄関を開けたら天女(てんにょ)がいた。

いや、 天女みたいな凛がいた。


彼女の姿を見た途端、 彼女が何故(なぜ)ここにいるのかも、 どうして浴衣姿なのかも頭からスッポリ抜けた。


あるのはただ、 会いたくて会いたくて仕方なかった人が、 目の前に舞い降りてきてくれた喜びだけだった。



夢かと思って手を伸ばしたら、 思いがけず簡単に手が届いた。

白くて細いその手首はまさしく彼女のもので…… そっと口づけたらピクリと動いた。



ーー ホンモノだ……。



(うれ)しくて、 嬉しくて…… あとはもう、 胸がいっぱいで何も考えられなくなった。





「あの…… 」

「…………。 」



「あの〜……奏多? 」

「ん…… もう少し」



「奏多…… ちょっと苦しい…… 」

「あと1分…… ん〜……3分このままで…… 」



「ちょっと奏多、 本当に苦しいから! 」



凛がそう言ってグイッと胸を押すと、 奏多は慌てて体を離した。


「ごめん…… ちょっと力が強すぎた? 痛かった? 」

「痛くはないけど、 浴衣の帯が苦しいの。 着慣れてないから」



そう言われて、 改めて凛の全身をまじまじと見下ろす。


「…… 凛の浴衣っ!」



上から下まで行った目線が今度は下から上に行き…… 最後に凛の顔をじっと見つめて、 放心状態で呟いた。


「何コレ、 最高すぎて夢みたいなんですけど」


「ふふっ、 夢じゃないですよ。 どうかな、 似合う? 」


(たもと)を持ってポーズを取る姿もサマになっている。

これならいつモデルにスカウトされてもナンパされてもおかしくない。

いや、 それは俺が全力で阻止するけれど。



「似合う! とても凛に似合ってて、 お姫様みたいで…… 」


「ええっ、 それだけ?! 恥ずかしいくらい褒めてくれるって言ったのに」


「いやあ〜、 俺の語彙力(ごいりょく)が…… っていうか、 今起こってることに俺の思考力がついていけてないんだけど…… どうしてここに? 何故(なぜ)に浴衣? 」



奏多がそう言うと、 凛が口角をクイッと上げ、 顔に満遍(まんべん)の笑みを浮かべて見上げてきた。


何も言わなくても、 その表情は喜びに(あふ)れていて……。



「もしかして…… 許してもらえたの? 」


凛がコクリと頷く。



「それじゃあ…… 俺たちって、 付き合えるの? また会ってもいいの? 」


凛がまた頷き終わると同時に、 奏多がガバッと抱きついた。



「や…………ったーーーーっ! 」



ギュウウウッと力任せに抱き締めたら、 勢いで凛が後ろに倒れそうになる。


「キャッ! 」


奏多はそんな彼女の後頭部を素早く支えて引き寄せると、 自分の胸にギュッと押し付け、 うわごとのように繰り返した。


「やった…… 良かった……ようやくだ…… 」





「ぜんっぜん良くねえわっ! 」


突然の大声にパッと身体を離して廊下を見ると、 そこには仁王立ちしている無表情の叶恵。



「姉貴っ! 」

「叶恵さん! 」


「お邪魔しちゃ悪いと思って、 さっきからずっと漫画パレスで息を殺してたんだけど…… 一体いつになったらイチャイチャが終わるんだよっ! リア(じゅう)爆発しろっ! 」


「……なんてね。 凛ちゃん、 お帰りなさい。 漫画パレスへようこそ! 」

「叶恵さんっ! 」


凛が下駄を脱いで駆け上がり、 ニカッと笑う叶恵に抱きつく。


熱い抱擁(ほうよう)を交わす2人に苦笑しながらも、 奏多の顔にもようやくホッとした表情が戻ってきた。



ーー 本当に夢みたいだ…… 夏休みの間はもう無理だと(あきら)めていたのに、最後の最後で凛に会えた。 しかも浴衣のオプション付きだ!



「姉貴は知ってたの? 凛が来るって」

「今日の夕方に凛ちゃんのお母さんから電話があったのよ。 凛をよろしくお願いしますって」


「なんだよ〜! だったら教えといてよ。 めちゃくちゃ驚いたじゃん! 」

「いいでしょ、 サプライズで。 お陰で感動の再会になったじゃないの。 それとも嬉しくなかった? 」



……イタズラっぽい笑みでそう言われたら、 素直に認めるしかないじゃないか。


「いや、 確かに感動したけど! 嬉しかったけど! 最高ですけど! ありがとうございます! 」



「馬鹿ね、 最高なのはこれからでしょ、 さあ、 奏多も早く浴衣に着替えるのよ」

「えっ、 どういうこと? 」



「花火大会に決まってるでしょ! 」



奏多の心にドカーンと大きな花火が打ち上がった。



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