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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
第4章 2人の試練編
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25、 総力戦 (後編)



その場の全員が固唾(かたず)を飲んで見守るなか、 最初に話し始めたのは凛だった。



両親が再婚してからずっと気を遣っていたこと、 遠慮していたこと、 そして祖母の言葉……。


「 凛、 あなた、 本当のお父さんの事を聞いてたの?…… 」


そこまで聞いて驚いたのは母親の愛で、 手で口元を覆って目を見開いている。



「うん、 お祖母(ばあ)ちゃんから聞いて、 自分の父親がどんな人だったのか知った」

「どうして黙ってたの?! そんなこと、 一言も…… 」


「私たちには言い出せないような親子関係だった…… ということなんだろうな…… 」

「あなた! 」


「凛…… 叶恵さんも、 どうぞ続けてください」


それを聞いて、 凛が話を続ける。



安奈ちゃんのこと、 漫画デビューのこと、持ち物検査のこと、 百田家でのこと…… 凛が言葉に詰まると叶恵と奏多が(おぎな)って、 ゆっくり、 またゆっくりと語っていった。



凛の話を聞きながら、 一緒に語りながら、 9月からの出来事が次々と奏多の脳裏に浮かんでくる。


夕方の図書館、 姿勢良く座っていた君、 長い睫毛…… 背中に滲む涙、 水たまりに落ちた傘、 背中合わせの告白……。



ーー 凛のお義父さん、 お母さん、 どうか彼女の言葉を受け止めてあげてください。

彼女が振り絞った勇気を無駄にしないであげてください。


今、 彼女が打ち明けているのは、 幼い頃からずっとずっと心に閉じ込めてきた本当の彼女の姿です。

幼いあの日に置き去りにしてきた本当の凛を、 どうか抱きしめてあげてください……。



気付いたら涙が頬を伝って、 視界がじんわり(にじ)んでいた。

「ヤバイ、 恥ずかしい」 と思って凛を見たら、 彼女も泣きながら、 言葉を詰まらせながら、 それでも自分の気持ちを伝えようと話すことをやめなかった。


そして、 期末考査で1位を取ったところまで話した頃には、凛の顔は涙でグチャグチャで、 (こす)れた目が真っ赤に腫れていた。



その姿を、 泣き顔を見た途端、 それまで考えていた言葉が全て吹っ飛んで、 代わりに胸いっぱいの凛への想いだけが(あふ)れ出て……。



「小桜さん! 」



突然の奏多の大声に一同が静まり返り、 全ての視線が一身に集まる。



奏多はゴクリを生唾を飲み込むと、 覚悟を決めて最初の一言を発した。



「小桜さんは…… お二人は、 今この時以外で凛さんが泣いたところを見たことがありますか? 」


「それは、 当然…… 」

「小さい頃じゃないですよ。 中学校、 高校…… 最近のことです」

「……。 」



「僕は、 凛さんと親しくなってからまだ10ヶ月ほどで、 付き合い始めてからで言えば、まだたった3ヶ月です。 だけど、 そのほんの1年弱の間で、 彼女の涙を沢山見てきました」


「彼女は、 親の期待に(こた)えたい、 二度と母親を泣かせたくない、 そのためなら何でもすると、 僕に言いました。 そして実際に、 そのためにいろんな事を我慢して、 涙も隠して頑張ってきました」



「彼女は笑い上戸(じょうご)なんですよ。 一旦笑ったら止まらなくて大笑いしちゃって、 こっちまで釣られて笑っちゃうんです。 僕は彼女の笑顔を見てると幸せな気持ちになれて…… 彼女の可愛い笑顔を見たくて、 彼女が笑える場所を作ってあげたくて…… ただそのためだけに、 去年の9月から必死に秘密を守ってきました」


「だけど…… 本当は彼女は、 家でも本当の姿を見せたかったんじゃないかと思います。 そのままでいいんだよって言って欲しかったんだと思います。 僕はご両親にも、 彼女が思いっきり笑ってるところを…… それだけじゃなくて、 怒ったり()ねたりする、 普通の高校生らしい素顔を全部見て欲しいです」


「本当に、 彼女の笑顔は素敵で可愛くて…… 」



「ちょっと待ってくれ…… 分かった」

「えっ? 」


突然ストップをかけた尊人に戸惑いながら、 奏多は口を半分開けたまま言葉を切った。



「君の言っていることは良く分かった。 凛が素顔を見せられる場所を作るのは、 本来なら親である私たちの役目なのに、 そういう場所を与えてあげることが出来なかった。 代わりに君とお姉さんが凛の逃げ場所になってくれてたんだね」


「それと…… 君が凛のことを心から好いていてくれるのは…… 嫌っていうほど分かったよ」


「えっ?! 好いてっ?! いや、 好いてますけどっ…… 」


「ハハハッ、 親の前であれだけ可愛いを連呼されると、 こちらの方が照れるんで勘弁(かんべん)して欲しいけどね」


「あっ、 その笑い方…… 」

「んっ、 何かな? 」


「お義父さんの笑い方…… 笑う時の仕草とか、 凛さんととても似てます。 やっぱり親子なんですね」


奏多にそう言われ、 尊人と凛が驚いたようにお互いの顔を見合わせる。


血の繋がりは無くとも、 10年近く一緒に暮らしてきた親子なのだ。

お互い遠慮しつつも、 ちゃんと親と子の絆は深いところで繋がっているのだろう……。



ーー 言いたかったことは…… 伝えたかったことは、 全部言えた……と思う。


あとは尊人と愛の審判を待つだけだ……。



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