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サキュバスの戦慄の能力

 俺から説明を聞いた佐倉は、部屋の隅で膝を抱えて蹲っていた。


「……今の話は本当なの?」

「ああ、本当だ」

「本当の本当に先っちょも挿れないの? 後になってやっぱり気が変わって、嫌がる私を無理矢理犯してモンスターの子を孕ませたりしない?」

「ああ、先っちょだけも挿れないし、孕ませもしないから……っていい加減にしろ! いくら何でも市役所内でそんな警察沙汰になるようなことをやるわけないだろ!」

「うう、確かに……何ですぐその答えにいきつかなかったんだろう」

「全くだな。しかも、聞いてもいないのに処女だとか言い出して……しかも、抱いてくれとか、お前ってとんだ処女ビッチだったんだな」

「ああ、やめて! 言わないでよ! っていうか、処女ビッチ言うな! もうっ! こういうのって空気を読んで聞こえなかったフリとかしてくれないわけ?」

「ハッハッハ、現実にそんなラノベ主人公みたいな都合のいいスキルを持っている奴なんかいないだろう」

「ぐぬぬぬぬ、ムカつく……旭君に処女であることがバレてしまっただけでも首を括りたくなるような案件なのに、全ては勘違いだったなんて……もう、生きる気力もなくなってしまったよ。いっそ私のことを殺してよ!」


 佐倉は項垂れると、某格闘ゲームの社長秘書の女性みたいに天に手を伸ばして「殺してよ!」と喚き散らす。

 俺は心の中で金髪の女性秘書の方が好みなんだけどなぁ、と思いながらも、佐倉の痛々しい様子を見て少し罪悪感が生まれてくる。


 佐倉には触手プレイの協力をしてもらわないとならないし、俺の説明が不十分なせいで彼女を必要以上に追い詰めてしまったのかもしれない。


「やれやれ……仕方ないな」


 俺は佐倉に聞こえないように小さく嘆息した後、小さくなっている背中へと優しく声をかける。


「あ~その、なんだ……悪かったって。まさかこんなくだらない頼みに、そこまで真剣に考えてくれているとは思っていなかったんだって」

「こんな頼み……ですって!」


 俺の言い分が気に入らなかったのか、佐倉は眦を吊り上げて立ち上がると、ツカツカと俺に詰め寄ってくる。


「旭君! 君はモンスターたちがどのような気持ちで、君のところにやって来るか考えたことある?」

「えっ? いや、ないけど……というより、そういうことは考えないようにしているよ」

「なっ……んですって!?」

「まあ、聞けって。これには訳があるんだ」


 みるみる怒りで顔を朱に染めていく佐倉に、俺は手で制しながら持論を展開する。


 そもそも悩み相談に乗る人間は、相手の気持ちになってはいけないと俺は考えている。

 こんなことを言うと薄情だの冷血漢だのと言われるかもしれないが、相手の気持ちになって「辛かったね」「大変だったね」と同情の言葉をかけて悩みが解決するわけではないからだ。

 大切なのは第三者の立場に立ち、無理なくできることを模索してやることだろう。

 そこから先は、解決するかどうかは本人次第で、相談役が関与するべきでなく、あくまでサポートに徹するべきだと俺は思っている。

 そうでなくては、次に同じ壁にぶつかった時、自分で解決せずに誰かに答えを委ねるという行為を繰り返してしまうからだ。

 それでは、真の意味での解決とは言えないだろう。

 無論、それが相談者の命に関わるようなことであれば、即座に身の安全を確保して、しかるべき機関に助けを求めることなどの必要最低限のフォローはするべきである。


「時には「頑張ったね」と優しい言葉をかけてやることが大事なこともあるだろう。だが、ここに来るのは、人間より頑強で強固なモンスターたちだ。明らかに自分に劣る存在に優しい言葉をかけてもらったところで、上から目線と思われて逆に不快にさせると思わないか?」

「うくっ、そうかもだけど……私としては、相談に乗ってくれる時、優しい言葉をかけてくれると嬉しんだけどな」

「じゃあ、佐倉が相談に来た時は、真っ先に優しい言葉をかけてやるようにするから、な?」

「うう……なんか上手く言いくるめられたようでムカつく」


 佐倉は悔しそうに親指の爪をガシガシと噛んでいたが、ふと、何かを思いついたように俺に疑問を投げかけてくる。


「ところで旭君。せっかく童貞を捨てられるチャンスだったのに、それを棒に振っちゃってよかったの?」

「…………あのなぁ、何度も言うようだが、俺は童貞じゃないって」

「そうですよ。先輩は経験人数こそ少ないものの、童貞じゃありまぜんって」

「そうそう、俺は経験人数は少ないけど……って、おい!」


 思わず余計なことを口走りそうになったが、すんでのところで踏みとどまった俺は、俺の背中から佐倉に抗議の声を上げたミリアムの頭を掴んで、怒気を孕んだ声で話しかける。


「庇ってくれてるつもりかもしれないが、お前は俺がどういう経験をしてきたか知らないだろう?」

「え? いやだな。直接は見ていませんが、先輩の女性遍歴ぐらいなら匂いでわかりますよ」


 ミリアムは「フフン」と得意げに鼻を鳴らすと、満面の笑顔を浮かべてとんでもないことを言い始める。


「え~と、先輩は過去に二人の女性と肉体関係を持っていますね。それとは別に、色々と溜まった時に風俗にも行っていますね。ただ、お金が余りないせいか、行くのはいっつもひんっ!?」

「おいっ、ミリアム。それ以上は口を慎もうな?」


 放っておくとまだまだ余計なことを言いそうな雰囲気に、俺は思わず手を伸ばしてミリアムの口を塞ぐように頬を掴むと、顔を寄せて声を押し殺して話す。


「とりあえずお前はもう黙れ、なっ?」

「はひっ、へんひゃい。ひはひぃへぇす」


 かなり強く掴んでいるせいか、ミリアムは目に涙を浮かべて痛みを訴えてくるが、その表情はどこか悦に入っているようにも見える。だが、喋れなくても首をカクカクと壊れた人形のように頷くのを見て、俺はミリアムを解放してやる。

 解放されたミリアムは、掴まれていた頬を痛そうに擦りながらも、時々「ウェヒヒ」と不気味な笑みを浮かべていた……おい、涎が垂れているぞ。


 それにしても……俺は先程のミリアムの言葉に、少なからず戦慄を覚えていた。

 何故なら、ミリアムが語った俺の女性遍歴は、全て事実だったからだ。ついでに風俗の話云々もドンピシャで、それが匂いを嗅いだだけでわかるというのだからミリアムの……サキュバスの特殊能力は侮れない。

 サキュバスにかかれば、男が女性の前で見せる小さな虚勢なんか全部全てまるっとどこまでもお見通しというわけだ。

 もし、俺が本当に童貞で、あそこで佐倉に対して嘘を言っていたら……そんな恐ろしい想像をしていると、


「大丈夫ですよ」


 俺に捕まれていた頬をマッサージしながらミリアムが優しく話しかけてくる。


「もし、男性が嘘を吐いていたとしても、私はそれを皆の前でバラすような真似はしませんから。私、こう見えて人の和を重んじるタイプなんです」

「そうかい……だったらそんな感じで俺たちの仕事がスムーズにいくようにしてくれると助かるんだがな」

「それはダメです。だってそうしたら先輩、私をイジメてくれないじゃないですか」

「……俺はやりたくてやってるんじゃねえよ」


 俺はぶっきらぼうに言いながら、懲りずに擦り寄ってくるミリアムを引き剥がす。

 それにしてもこいつ、俺の女性遍歴だけじゃなくて心まで読めるんじゃねえの? 何て思ったが、これ以上話を聞くのは怖かったので、黙っておいた。

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