俺の同僚がそんなにマジメでもないしょびっちだった件について
その後も、ミリアムのやたらと胸を強調したり、スカートを限界まで上げて中身が見えそうになったりという誘惑に耐えながらスペースを確保し終ええると、
「旭君!」
覚悟が決まったのか、張り詰めた様子の佐倉が話しかけてきた。
これから自分の身を起きることを想像してか、顔を真っ赤にし、胸の前で祈るように手を併せながらふるふると震える様は可愛らしく見えなくもないな。等と今まで見たことのない佐倉の様子を感慨深げに眺めていると、
「あ、あの……旭君。一つ、お願いがあるの…………」
しおらしい雰囲気のまま、佐倉が小さな声で話し始める。
「その……これから私、この本に描かれているようなことをされるんだよね?」
「されるっていうかだな……」
「いいの! 全部言わないでもわかっているから!」
佐倉は俺の言葉を遮ると、スイッチが入ったかのように捲し立てる。
「きっと私が何でもするなんて軽々しく言ったからなんだよね……これも全て私が蒔いた種。何でもやるって言った以上、その責任は取らなきゃいけないと思っているんだ………………ただね?」
「だだ?」
「その私………………ゴニョゴニョ…………」
「えっ、何だって?」
最後の方が聞こえなかったので、佐倉に確認しようとするが、佐倉は赤面した顔を隠すように俺から視線を逸らして黙り込んでしまう。
別におれがラノベ主人公特有の難聴スキルを有しているとかそういうのに関係なく、蚊が飛ぶ音より遥かに小さな声で喋られたので、本気で何を言っているかわからなかった。
直接聞いた方が話が早いのだが、今の佐倉に追求しても話してくれそうにないので、念のためにミリアムに話を振ってみる。
「なあ、ミリアム。今、佐倉は何て言ったかわかるか?」
「これは、あれですね。きっと私は処女ですって告白したかったんだと思いますよ。それで、モンスターに純潔を散らされる前に先輩に純潔をって……あいたっ!?」
予想通りの阿呆な答えに、俺はとりあえずミリアムの後頭部をはたいて黙らせる。
その瞬間、ミリアムの顔が恍惚のそれに変わり「ウェヒヒ」不気味に笑うのを見て、俺は全身に鳥肌が立つのを感じるが、とりあえずそれは見なかったことにして佐倉へと向き直る。
「……全く。冗談を言うならもっとマシな冗談を言ってくれ。いくら何でもこれまでの話の流れで、そんなこと言うはずないだろう。佐倉、悪かったな。いくら何でも今のは下品過ぎた」
「……ううん、いいの。その通りだから」
「………………はひっ?」
思わぬ言葉に俺は間抜けな声を上げてしまうが、佐倉は特に気にした様子もなく続ける。
「ミリアムちゃんの言う通り、私、男性経験がないの。だからいきなり触手プレイをしろって言われて驚いちゃって……」
「そ、そうか……」
「だからその……触手で純潔を散らされる前に、せめて人の……男性のもので女になりたいの」
「ん?」
何だか雲行きの怪しい話になって来たな。そう思った俺に、佐倉がとどめの一言を告げる。
「だから旭君、お願い! この際、君でいいから私のことを抱いて!」
「ええっ!? ちょ、ちょっと待ってくれ!」
俺が慌てて佐倉を止めようとするが、暴走状態に入った佐倉は止まらない。
「何よ! この私じゃ不満だって言うの? これでも私、担当部署の中では二番目に人気で、一部の男性職員の間で夜のおかずにされているらしいからね!」
「な、何だよその情報は……っていうか、同じ職場の人間からそう言う目で見られて気持ち悪くないのか?」
「へ、平気よ。アイコラの一つや二つ……それよりどうなの? どうせ旭君だって童貞なんでしょ?」
「はあっ!? な、何だよいきなり、その……ど、どどど童貞ちゃうし!」
「フフン、その態度で童貞だと認めたようなものよ。いいじゃない。ちょっとした事故に巻き込まれたと思って、私とセックスしなさいよ!」
「い、いや……だから俺は童貞じゃないから……」
「いいの、言わなくてわかっているから」
完全に同じ穴の狢と思っているのか、佐倉は薄く微笑を浮かべて「初めてのあげっこしちゃおうね」と提案してくる。
「でもね私、痛いのは嫌なの。それに、その……舐められたり咥えたりするのも無理。初めては綺麗な形でって決めてるの。だから旭君がどんな変態性癖を持っていても、今日だけはそれを抑えて欲しいの」
「だあぁっ! いい加減にしろ!」
完全にスイッチが入っている佐倉を止める為、俺は佐倉の肩を強く掴む。
「いいか、黙って俺の話を聞け!」
「どうしたの? 別の童貞は恥ずかしいことじゃないんだよ? 私だって、恥ずかしいのを我慢してるんだから旭君だって……」
「だから俺は童貞じゃ……というか、今はそんなことはどうでもいいんだよ!」
今は俺が童貞かどうかは差し置いて、一刻も早く佐倉の誤解を解いておく必要があった。
「いいか佐倉。実はだな……」
俺はどうにか佐倉を宥めると、触手プレイは実際に行うとどういった弊害が出るかを試すためのフリであって、実際に挿入したりはしないことを説明した。