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お悩み相談

 一体どのようにアンディを止めるのだろうか、そう思いながらミリアムを注視していると、彼女はスカートにも拘わらず大きく足を振り上げ、


「おい、黙れよ。クソザコ!」


 そう言ってアンディの側頭部と思われる部分を、綺麗な曲線のハイキックで思いっきり蹴り飛ばした。


 えええっ!? 予想の斜め上を行くミリアムの暴挙に、俺は思わず一歩後退る。


 そんな風に俺がドン引きしているのを無視して、ぐちゃっ、と嫌な音を立てて吹き飛んだアンディの後頭部を、ミリアムはハイヒールの踵の部分で踏むと、グリグリとねじ込むように捻りながら罵倒の言葉を浴びせはじめる。


「さっきから先輩が話をしようとしているに、何いつまでもぺちゃくちゃ好き勝手に喋ってんだよ。お前はここに何しに来たんだ? くだらないごっこ遊びの自慢をしに来たのか? ああん?」

「あっ、その……すみませんでした。自分、クソザコナメクジなのに調子乗ってました」

「へぇ……じゃあ、そのクソザコナメクジは、どうやってこの場を治めるつもりなの? 聞いてあげるから言ってごらんなさい?」

「そ、その……姐さんの美しいおみ足に踏まれることで、反省の態度を示したいと思います」

「ホホホ、よく言えたわね。それじゃあご褒美をあげるわ!」


 ミリアムが容赦なく振り上げた足を振り下ろすと、アンディが「あふん!」という矯正をあげる。


「あらあら、誰が声を出していいなんて言ったのかしらね?」


 アンディの声を聞いたミリアムは、嗜虐的な笑みを浮かべると、さらにぐりぐりと強くねじり込むようにアンディの頭と思われる場所を踏み続ける。


「…………」


 突如として始まったSMプレイに、俺は二の句が継げないでいた。

 普段の知っているミリアムの姿とは全く違う……凛とした女王様然とした姿に、俺は思わず心ときめく……はずもなく、恍惚とした表情を浮かべながら来客を踏み続けるミリアムを止めるべく後方へと回ると、先程と同じ要領で彼女の脳天にチョップを振り下ろすため、手を振り上げる。


「ホホホ、どうしたの? すっかりおとなしくなって先程の勢いはどこへぶらっ!?」

「いい加減にしろ。俺は話を聞いてもらえるようにしろとは言ったが、誰がSMプレイをしろと言った」

「えぐっ……す、すみませんでした。その、ちょっと昔のスイッチが入ってしまいまして……」

「昔って……お前、昔はそんな他人を踏みつけて喜ぶような性格だったのか?」

「えっ? そ、その、モンスターって上下関係が厳しいので、上に立つ者は威厳とか大事なんです。それで、自分なりに威厳を保とうとした結果が……」

「あのSMの女王様みたいな性格ってことか……」

「……はい、信じられないかもしれませんが、あれは役目に沿ってやらされている本当の私じゃないんです。私の本当の姿を知っているのは、先輩だけなんです。先輩だからこそ、私はありのままの姿を見せられるんです」


 今にも泣き出しそうな表情で真実を語ったミリアムは、不安そうに口元に手を当てて上目遣いで俺を見てくる。


「…………」


 なんだろう……言葉だけ聞くと、全幅の信頼を寄せられていて、さらに想いを寄せられているという男にとってはこれ以上ない嬉しいシチュエーションのはずなのに、肝心の内容が、自分の性癖の誤解を解きたいという内容なので全くときめかない。

 だが、ここで何も言わないと今後の関係に支障が出るかもしれないので、一応フォローの言葉だけでもかけておくことにする。


「まあ、そのなんだ、モンスターも色々大変なんだな」

「ええ、それはもう本当に肩身が狭くって……見て下さい。お蔭でこんなにも肩だけでなく胸までもが凝ってしまっているんです」

「だーっ!? だからって何でいきなり脱ぎ出してるんだよ! わかった、わかったからもうおとなしくしてくれ!」


 俺は目を閉じてミリアムのジャケットを閉じて勢いよく背を向けると、床で打ち上げられた魚のようにピクピクと震えているアンディに声をかける。

 尚、両手に何か柔らかいものを掴んだ感触が残っているが、これについて深く考えると色々とマズイことになりそうなので、全力で意識の外へと持って行く。


「……オホン、そ、そのアンディさん。大丈夫ですか?」

「はぁ……はぁ……も、もっとお願いします。今度はそう、脳汁をぶちまけるほどの勢いでこのクソザコナメクジを踏み抜いて下さい!」

「…………」


 ミリアムも大概だが、こいつもこいつだな。そう思ったが、とりあえずこれ以上弄るとさらにややこしいことになりそうなので、放っておくことにした。


 アンディも落ち着き、ようやく話を聞ける状況になったところで改めて椅子に座り直した俺は、ミリアムが淹れてくれたお茶を一口飲んでから本題を切り出す。


「……それでは、アンディさんの抱える悩みを聞かせてもらえますか?」

「はい、実はですね……」


 アンディは神妙な顔つき(といっても表情に変化は見られないが)もったいぶったように間を溜めてから話を切り出す。


「実は、この前合コンで酔った女性を介抱して家に送り届けたのですが、そこで彼女からあるお願いをされたのです」

「なるほど……ちなみにそれは人間の女性ですか?」

「はい、僕の職場は女性の比率が高いものですから」

「もし差支えなければ、アンディさんの職業を教えていただけますか?」

「もちろんです。僕はアパレル関係の仕事をしています。主な仕事は接客ですね」

「………………なるほど」


 アパレル関係の仕事に就き、合コンに行って酔った女性を介抱して家まで送り届けるローパー。そのグロテスクな見た目からは想像もつかないようなリア充……それもチャラ男そのものの生活ぶりを聞いて、俺は自分が嫌な表情を浮かべていることを自覚しながらアンディに話の続きを促す。


「それで、女性から何をお願いされたのですか?」

「はい……」


 アンディは俯いて暫しの逡巡を見せた後、意を決したかのように話し出す。


「実は、女性から触手プレイをして欲しいとお願いされたのです」

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