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遅刻の理由


「…………遅い」


 翌日、午前八時半のチャイムが鳴って市役所が機能し始めるが、異種族間相談所の隣にある執務室にミリアムの姿がなかった。


 ミリアムの遅刻は度々あり、その度に社会人のあり方も含めて説教を繰り出すのだが、誠に遺憾ながら彼女にとって、俺からの説教はご褒美のようで一向に遅刻癖が治る様子はなかった。


「……はぁ、やれやれ」


 こうやって不満を口にしてみたものの、実を言うと異種族間相談所は、依頼者が来ないとこれといった活動はなく、ひたすら書類整理などの雑務を押し付けられてしまう。そのため、普段は何かと理由をつけて外出したり、ミリアムと二人きりだと誘惑に負けそうになったりするので、誰かが呼びに来るまで休憩室に隠れていたりと税金で暮らしている身でありながら、無駄に時間を潰してばかりいるので、遅刻してくるミリアムにとやかく言える立場ではなかったりする。

 だが、今日は昨日の報告書を書くという立派な仕事があるので、定時に来て異種族間相談所もキチンと仕事をしているアピールをしたかっただけに、なんとも歯がゆかった。

 仕方がないので、せめて俺だけでも真面目に仕事をすることにする。


 こうして一人で黙々と作業に没頭すること一時間ほどして、


「すみません。遅くなりました~」


 全く悪びれた様子の無い、底抜けに明るい声と共にミリアムが現れた。


「いや~、ちょっと道で倒れているモンスターがいたので介抱しようとしたんですが、運ぶのに手こずって遅れちゃいました」

「……あのなぁ、言い訳するならもう少しまともな言い訳をだな……」

「いえいえ、本当ですよ? 私、先輩の仕事を少しでも減らそうと一生懸命奔走したんです。だからご褒美下さいよ」

「ふざけるな! 遅刻したんだから、言い訳云々を言う前に、先ずはすみませんでしたと謝罪の言葉を口にすることだろうが!」


 甘えるように袖を引っ張り続けるミリアムの態度に業を煮やした俺は、腕を伸ばしてミリアムの両頬をぐい~っと左右に引っ張る。


「ひ、ひひゃい、ひひゃひへふほへんはい……」


 ミリアムが涙目になりながら辞めるように訴えてくるが、それを無視して手に吸い付くほどのモチモチの頬を引っ張り続けていると、


「………………ウェイヒヒ……フヒッ」

「うわっ、汚っ!?」


 突然、不気味な笑い声を上げながら口の端から涎をダラダラと垂らし始めるミリアムに、俺は慌てて頬から手を放して距離を取る。


「ヒヒ……ウヒヒ……ジュル。ご、ご褒美ありがとうございます。とってもよかったです」


 ミリアムは垂れていた涎を啜ると、恍惚の表情で礼を言ってくる。

 その言葉で、俺は結果としてミリアムにご褒美を与えてしまったことに気付き、臍を嚙む。

 ミリアムのドM体質のことをすっかり失念していた。


「さて、ご褒美もいただいたことですし、今日もお仕事頑張りましょう」


 だが、俺からご褒美という名の折檻を貰えて嬉しかったのか、ミリアムは「フンフフ~ン」と調子のずれた鼻歌を歌いながら仕事をはじめる。


「…………やれやれ」


 大変不本意だが、これでよかったのかもしれない。

 俺はミリアムの対面へと腰を下ろすと、スリープ状態にしていたPCを立ち上げて報告書の作成へと移る。


 そうして仕事を始めて五分ほどした時、


「先輩、報告書できました」


 ミリアムが俺にできあがったという報告書を渡してくる。

 いくら雛形があるとはいえ、あまりにも早い完成に俺は眉をひそめる。


「…………早くないか?」

「はい、実は報告書に書きたいことがあったので、家で仕上げてきたんです」

「そうか、そいつはご苦労さん」


 ミリアムにしては殊勝なことだ。とは口には出さず、俺は書類を受け取ると、中身を確認してみる。


「…………ん?」


 ミリアムの報告書には、でかでかとこう書かれていた。


 ごんぶと


 ………………………………………………カップうどんかな?

 って、そうじゃなくて、


「おい、ミリアム。なんだこの報告書は」

「何って、触手プレイについての報告書ですよ」


 そう言ってミリアムは自分の唇をちろ、と舐める。

 それはもう、その笑顔を向けられただけで、世の男の心を鷲掴みにして放さないだろうサキュバスの妖艶さを前面に押し出したような蠱惑的な笑みを浮かべていた。


「…………クッ」


 一瞬、その笑顔に心を奪われかけたが、すんでのところで踏みとどまった俺は、ミリアムの様子が少しおかしいことに気付いた。

 俺が頬を引っ張りまくったから赤くなっていると思われた顔は、腫れているというより、興奮して上気しているように見えるし、それ以上に何故だか肌がツヤツヤになっているような気がする。

 それによく見れば、首元まで止められたブラウスのボタンで隠れているが、ミリアムの首元にはまるで何かががっちり巻き付いたような痕がくっきりとついていた。

 ミリアムの遅刻してきたという理由……、


「――っ、まさか!?」


 そこである可能性に気付いた俺は、PCを素早く捜査してインターネットへと繋ぐ。

 調べる項目は地域のニュース。その中でできるだけ最新のニュースを漁っていると、


「あった!」


 そこには予想していた通の記事があった。

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