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ローパー

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

今年の目標は、新作を出す、続刊する、重版する、です。

無名の作家の身では、どれも中々に難しい目標ですが、夢はでっかく大口を叩くぐらいが調度良いと思いますので、ついでにアニメ化を目指すも入れたいと思います。

そんなわけで、今作も併せまして今後ともよろしくお願いいたします。

今年も皆様がたくさんの良い作品に出会え、再びラノベ界が賑わいますように……

 ローパー:ローパーが初めて世に登場したのは、1974年発表のロールプレイングゲーム「ダンジョンズ&ドラゴンズ」である。そのデザインは、おおむね円錐形をした岩に一つ目と巨大な口、そして複数の触手がついたものであった。(ウィキペディアより一部抜粋)


 だが、目の前にいるローパーは、もう少しマイルドな見た目をしており、体は岩ではなくスポンジのように柔らかそうな質感をしており、複数の触手を持ってはいるが、凶悪な口はおろか、目が何処についているかもわからない何処か愛らしい見た目をしていた。

 だが、目や口が何処にあるかわからなくても俺のことがはっきりと見えているようだし、先程挨拶してきたことから意思疎通も特に問題ないようだった。


 もう言うまでもないかもしれないが、残念ながらここを訪れる殆どのモンスターは、こんな感じの見た目がグロテスクなリアルガチのモンスターばかりでした。

 ローパーはうねうねとうねる体を器用に九十度折り曲げてお辞儀をすると、丁寧な口調で自己紹介をはじめる。


「はじめまして、僕はアンディ・ローパーっていいます。今日は僕のために貴重な時間を用意していただいてありがとうございます」

「あっ、はい。どうも、旭英雄です。はじめまして」


 俺はローパーが差し出して来た一本の触手を挨拶しながら掴む。

 妙に生暖かい、まるでゴムホースを掴んだような何とも言えない感触に、思わず感情が表情に出そうになるが、それを表に出すことなくにこやかな表情を浮かべてローパーを観察する。

 このアンディと名乗ったローパー、人間社会に溶け込もうという努力なのか、西部劇のガンマンが被っているようなテンガロンハットに、綺麗な刺繍が入ったポンチョを身につけていた。

 アンディの体格からしたら精一杯のおしゃれなんだろうが、身につけている衣服が人間サイズに合わせて作ってあるせいで全体的に大きく、不気味な音と蠢く触手がなければ、ちょっとカラフルな衣文掛けに見えなくもない。

 すると、俺の視線に気付いたローパーが触手を器用に動かしてテンガロンハットを取りながら得意げに話しだす。


「あっ、これ気になります? いいでしょう、実はこの服はサバゲー仲間から紹介してもらった服なんですよ」

「あ、ああ……そうなんですか。良い趣味をお持ちですね」


 とりあえず今後の話をスムーズに進めるためにも、俺は適当に話を合わせたのだがこれがいけなかった。


「そうでしょう!」


 アンディはずいっと前のめりになると、目をキラキラさせながら(テンションからそう推察される)興奮したように捲し立てる。


「森に隠れて敵をスナイプする時のあの緊張感が堪らないんですよね。森に伏せて息を殺して敵が来るのを待っていると、こうなんていうんですか? 狩猟者としての本能が目覚めるというかですね……」


 どうやらこのローパー。オタク独特の自分の好きな趣味の話なら饒舌になるタイプのようで、こっちが聞いてもいないのに次々とサバゲー、つまりサバイバルゲームがいかに素晴らしいかを滔々と語り続ける。

 そんなことよりその体でサバゲーなんかやるのかよ。っていうか、狩猟者の本能がどうとか言っているが、そもそもローパーは狩りなんかしないだろ! と心の中でツッコミをいれながら、俺はローパーの生態について学んだことを思い返す。


 俺の中でのローパーのイメージは、大体六十階ほどある塔の中でもぞもぞと蠢きながら<<といった形の飛び道具を飛ばしてくるザコ敵である。

 まあ、現実のローパーは残念ながら謎の飛び道具は飛ばしてはこないが、ローパーは基本的にヒトデとよく似た生態系を持った魔物である。ヒトデ同様肉食であるのは間違いないが、それは死んだ魚や獣をゆっくりと時間をかけて食べるのであって、生きた獲物を相手にすることはまずないと言われている。何故なら、基本的に動きが遅く、獲物を仕留める為の牙や爪もなく、数ある触手だけでは生きた獲物を捕らえるのは難しいからだ。

 といっても、これはあくまで一般的に流通している本に記載されている内容なので、実際のローパーは物凄く俊敏で、次々と獲物を捕食しているのかもしれないが、おそらく今回の相談内容とは関係なさそうなので、ひとまずこの問題は置いておくことにする。


「つまりですね。自然と一体になって大自然に帰れるのが……」


 興が乗ってきたのか、全身をくねらせながらノリノリで話すアンディに、俺はどうにか話を本題に戻そうとする。


「あ、あの…………その…………」


 だが、その言葉はなかなか上手く紡がれない。

 これは別に俺がコミュ障だからとかそういった理由ではない。悦に入っているモンスター相手に普通の人間が制止をかけるのは、決して容易ではないのだ。

 何故なら彼等モンスターは、最低ランクのスライムだとしても、一般男性を遥かに凌ぐ力を持っている。

 先程、ローパーは狩りをしないと言ったが、決してローパーの戦闘能力が低いわけではない。その柔軟性の高い胴体は、素人がいくら殴り、斬りかかっても碌なダメージは与えられないし、体に生えた無数の触手は、鞭のようにしならせれば、俺の体ぐらいだったら簡単に吹き飛ばすほどの威力はあるだろう。

 死ぬことはないだろうが、ただでは済まない。

 そんな事態になれば、俺の公務員としての地位も、人間社会に溶け込もうとしているアンディもどうなるかわかったものじゃない。

 そんな諸々の理由から、俺が未だに話し続けているローパーに手出しできないでいると、後ろから誰かに肩を叩かれる。

 振り向くと、呆れた様子のミリアムが打開策を提案してくる。


「先輩、よかったら私がどうにかしましょうか?」

「あ、ああ……すまない。頼めるか?」

「はい、お任せください」


 ミリアムは自分の胸を強く叩いて「あふん」と色っぽい声を出すと、すっかり周りが見えなくなっているアンディへと近づく。

 色々と難があるミリアムだが、彼女がここで俺の部下としている最大の理由は、相談しにやって来るモンスターたちが問題を起こさないように対応するためだった。

 サキュバスはモンスターの中でも中位から上位に属する高位のモンスターで、完全な上下社会が確立しているモンスター社会において彼女に反抗できるモンスターはそう多くない。

 故に、ただの人間の俺の言葉に全く耳を貸さないアンディも、ミリアムから言われたら逆らうことは出来ないということだ。

 幸いにもこれまで訪れたモンスターたちは、ミリアムの手を煩わせることはなかったが、ここに来て初めて彼女の活躍を目にすることができそうだった。

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