増えるローパー
そこには、鋼鉄も切り裂くサキュバスの爪によって薪を割ったかのように真っ二つにされたローパーが二体……いや、二匹倒れていた。
「……うっ!?」
断面図を直視してしまい、思わず込み上げてきた吐き気に口元を押さえるが、今はそれどころじゃない。
最悪の事態に顔面蒼白状態となった俺は、震える手で倒れている二匹のローパーの様子を確かめる。
「ア、アンディさん……それとこっちは、ビンディさんか?」
アンディはテンガロンハットにポンチョという特徴的な格好をしているのでわかるが、残りの三匹のローパーはこれといった服を身につけていないので、先程までいたおおまかな位置で推察するしかない。
おそるおそる手を伸ばしてローパーの様子を確認するが、アンディたちは当然ながら何も反応も示さない。ただ、俺が触れてしまったせいで半分となったアンディの無残な体がごろりと転がり、紫色の血だまりが広がるだけだった。
それを見て俺は確信する。
へんじがない、ただのしかばねのようだ。
「ミリアム……お前、なんてことを」
市役所内でモンスター殺しが発生してしまった。
これ、一体誰が責任を取るんだ? 何もしていなくてもやっぱり責任者の俺が取るのか? モンスター殺しってやっぱり殺人罪が適用されるのだろうか? いや、それより今は、上に報告して謝罪会見の準備でもしてもらう方がいいのか?
「……い…………ぱいってば!」
今後の事についてああだこうだと思考を巡らせていると、誰かに強く引っ張られる感覚がして、俺の意識は現実に引き戻される。
顔を上げると、諦観したような様子のミリアムが俺を見ていた。
「もう、先輩。キチンと私が説明しなかったのが悪いんですけど、そんなこの世の終わりのような顔をしないでください」
「えっ、あ……俺、そんな酷い顔をしていたのか?」
「そりゃあもう。心配しなくても先輩の責任問題にはなりませんし、謝罪会見を開かなければならないような事態にはなりませんから安心してください」
「そ、そうか……」
というか、また声に出ていたのか。最近はよくスポーツ観戦とかで声が出るようになったという自覚はあったが、無意識のうちに思っていることが声に出ているとなると問題かもしれないな。
「それにしてもあの時の先輩の顔ったら、あそこで誰かに一生を捧げてくれたら見逃してやると言われたら、コロッと騙されるくらいには……ハッ、しまった。あそこで先輩の子種を要求していれば、今頃は……あだっ!?」
「全く……お前ってやつは」
また勝手な妄想をするミリアムを軽く小突いて咎めた俺は、先程のミリアムの行動の真意を問う。
「それで、どうしていきなりアンディさんたちを真っ二つにしたんだ。それに俺の責任問題にならないと言ったが本当だろうな…………本当に本当だろうな?」
大切なことなので二度言っておいた。
ずずいっ、と強めに詰め寄る俺に、普段は俺にべったりのミリアムが珍しく動揺しながらアンディたちを指差す。
「だ、大丈夫ですって、ほら、見て下さい」
ミリアムの指示に従って無残な姿となっているアンディたちを見やると、死んだと思ったアンディの体が何やら小刻みに震えていた。
そして次の瞬間、俺は驚愕に目を見開くことになる。
真っ二つにされた半身の切り口が沸騰したように泡立ったかと思うと、そこから肉片がボコボコと沸き立つように現れ、あっという間に一匹のローパーの姿になる。
それが分裂された四つの半身全てで同時に行われ、二匹だったローパーが四匹に増えたことになる。
「これは……」
驚いて口をあんぐりと開けている俺に、ミリアムが得意顔で説明する。
「ほら、さっき言ってたじゃないですか。ローパーってこうやって適当にちぎってやると後は勝手に増えるって話ですよ。まあ、頻繁に使えるわけはないんですけど、一日一回ぐらいなら何の問題もないです」
「そ、そうだったな。しかし、なんていうか……グロいな」
君は真っ二つに割ると、二匹に増えるフレンズなんだね。という冗談すら思い浮かばず、俺は再び込み上げてきた吐き気を我慢するように口元を押さえる。
ローパーを増やす為とはいえ、真っ二つにされた断面図をモロに見てしまったのだ。目を閉じれば、内臓と思われる器官や、何だかわからない謎の粘液や体液が脳内にフラッシュバックされる。暫くは焼肉を食べに行っても、ホルモン系だけは食べられそうになさそうだ。
余談だが、増えた二匹のローパーの名前は、とある考古学者っぽい名前だったり、高級な財布を売ってそうなブランドっぽい名前だったりするので割愛する。
さらに余談だが、同じような名前のローパーたちだが、ローパーMだけは、メンディー・ローパーという名前だそうだ…………………………………………………………三代目かな?




