セカンドプレイ
「……というわけなんですが、理解していただけましたか?」
「…………」
「…………」
「…………」
説明を聞いたローパーたちは何を思っているのか、うねうねと触手をうねらせてはいるものの、何一つ言葉を発しない。
果たして、触手プレイという人間の性のはけ口にされるといっても過言ではない状況に置かれている仲間に対して、彼等が何を思っているのか。
その表情から全く読めないので俺はどうすることもできないでいた。
最悪の場合、全力で謝罪し、二度とこんな依頼をしないように手を打つことも考えなければならない。
だが、可能であればアンディの悩みぐらいは解決してやりたい。純粋に困っているアンディに協力してやりたい……というより、本当に触手プレイが可能かどうかという興味本位が勝っているからというのは秘密だ。
俺は未だに一言も発しないローパーたちに、おそるおそる機嫌を損ねないように話しかける。
「あの……どうでしょうか? アンディさんを助けると思ってご協力願えますか?」
「ん? あ、ああ、すみません」
俺の言葉に、ビンディが反応してゆっくりと顔を上げる。
「いや、まさかアンディの奴がそんな悩みを相談しに来ているとは思わなくて……」
「アンディさんが相談に来たことが意外なことなんですか?」
「意外、というよりそんな方法があったんだって感心しているんです」
「はあ……」
ビンディの言いたいことが理解できず、俺は気のない返事を返す。
すると、ビンディが驚愕の一言を発する。
「実は、僕も触手プレイをして欲しいって言われたことがあって、どうしたらいいかわからず、困ったことがあったんです」
「………………はへっ?」
まさかの一言に、思わず間抜けな声が出る。
だが、驚愕の事実はそれだけじゃなかった。
「お~、奇遇だね。俺っちも前に世話になった姉ちゃんの家でそんなこと言われたわ。意味わかんなかったからロックに断ったけど」
「………………僕も」
CDローパーズの二人もビンディの後に続くように触手を上げる。
「なん……だと!?」
立て続けの告白に、俺は目を見開いて目の前でうねうねと触手をうねらせているローパーたちを見やる。
俺の知らない間に世の女子の間では、既に触手プレイが流行っていたのか? 今のモテる男の条件は、触手を持つ触手系男子だったりするのだろうか。
「……いや、流石にそれはないか」
「そうよ。何、馬鹿なことを言ってるのよ。」
俺の呟きに、佐倉の呆れかえった返答が帰ってくる。
……どうやら知らない間に、考えていた内容が声に出ていたらしい。
ローパーたちを配置につかせ、その中心で寝ていた佐倉は、俺からの指示が中々出ないのでご立腹のようだった。
「そんなバカなことを言ってないで、こうして必要な人数が揃ったのだから、とっととやることやっちゃいましょ。こっちはもう、準備万端なんだからね」
「あ、ああ……そうだな」
確かに客人を放っておいて、自分一人の世界に浸るのは失礼だった。
「皆さん、失礼しました。時間もないことですし、改めてアンディさんの相談について実践しましょう」
「まったくもってね。これでもし残業になったら旭君、今度ご飯奢りだからね」
「はいはい、悪かったって……ククッ」
ぶちぶちと文句を言う佐倉に、俺思わず苦笑してしまう。
「…………何よ」
当然ながら、突然笑い出す俺に佐倉が抗議の声を上げる。
「いや、なんだかんだ言って、佐倉も触手プレイに興味津々なんだなって思ってさ。準備万端って、どんだけ待ち望んでいたんだよ」
「なっ!? ちがっ、これは……」
「皆まで言うなって。悪かったな。佐倉がそんな気持ちでいたとは知らず、待たせるようなことをしてしまって。さあ、さっさと気持ちよくなろうな」
「だから、そう言うんじゃないって!」
まるで火が付いたかのように顔を赤く染める佐倉を無視しながら、俺はビンディたち新たにきたローパーたちに細かい指示を与えていく。
どうやら触手系男子、その需要は思ったより多いのかもしれない。
彼女が欲しいと思っている男は、今のうちに触手を生やすことを考えておいた方がいいかもしれない。
……ところで触手って、何処に行ったら手に入れられるんだろうな?
ビンディ、CDローパーズたちに触手プレイについて説明し終え、それぞれ定位置についてもらう。
佐倉を中心に四方向をうねるローパーたちが囲む様は、正にこれから触手に陵辱される女性を描いた作品(主にエロ漫画)が醸し出す雰囲気そのものだった。
この現場を、事情を知らない人が見たら迷わず警察に通報されそうなので、俺はとっとと終わらせるべくローパーたちに指示を出す。
「さて、それじゃあ改めてお願いいたします」
「はい、今度こそ力を合わせて」
「触手プレイを披露してみせましょう」
「ロックにな」
「…………あい」
俺の言葉に、ローパーたちはそれぞれの言葉で返事をし、佐倉へと触手を伸ばす。
「――っ!?」
四方から伸びてくる触手に、佐倉は一瞬硬い表情を浮かべて身を強張らせる。
先程の跡が付いたほどの痛みを思い出したのだろう。
だが、それでも決して逃げたり喚いたりすることはなく、佐倉は怖がらせないように微笑を浮かべてローパーたちに身を委ねている。
そんな佐倉を気遣いように、ローパーたちはゆっくりと佐倉の手足に触手を巻き付け、その身を静かに天へと向かって掲げる。
決して広くはない相談室内に突如として現れた青色のジャージに身を包んだ佐倉を持ち上げる黄色の触手たち。いっそ神々しくも見えるその様は、色取りも相まって青き衣の者の伝承を思い出すが、残念ながらここは風の谷ではなく柏市役所だ。
俺の目線ぐらいの高さまで持ち上げられた佐倉は、無理矢理手足を広げられて、同人誌の女の子のように……、
「って、あれ?」
いよいよというところまで来たのだが、佐倉は何やら思っていたのと違う格好になっていた。
具体的に言うと、手足は完璧に近い位置になっているのだが、腰だけがだらんと下がっていて、最初に失敗した時と似た感じ……ハッキリ言うと、前以上に捕らえられた獲物感が強くなっていた。
「……佐倉、悪いがもう少し腰を上げてくれないか?」
「う、うん……わかった」
俺の指示に、佐倉はどうにかして腰を持ち上げようとするのだが、プルプルと震えるだけで一考に持ちあがる気配はない。
それでも佐倉は懸命に身をよじりながら「う……あぅ……くぅ」と苦しそうに喘ぐ。
その姿はまるで……
「…………佐倉さん、何だかとってもえっちぃですね」
「やめろ、バカ!」
「あふん」
ミリアムと全く同じことを考えていた俺だったが、とりあえずこれ以上は余計なことを言わないようにミリアムの頭を叩いて黙らせる。
その後も佐倉は、同人誌と同じシチュエーションになるように必死に身をよじっていたが、
「うっ……うくっ…………ご、ごめん。ちょっとお腹が痛い。お、降ろして」
限界が来たのか、ギブアップ宣言をする。
「わかった。すみません、皆さん。一度降ろして下さい」
その言葉に従い、ローパーたちがやや早めのスピードで佐倉を横たわらせる。
床に降ろされた佐倉は、お腹を押さえて苦しそうに喘ぐ。
俺は佐倉のすぐ横に膝をつくと、いまだに来るそうに喘ぐ佐倉に声をかける。
「佐倉、大丈夫か?」
「う、うん。ごめんね。その私、頑張ったんだけど……」
「もういい、喋るな。俺も見ていてある欠陥に気付いたから」
俺がそう言うと、全てを理解した佐倉は微笑を浮かべ「少し休むね」と言ってゆっくりと目を閉じた。




