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我に秘策アリ

 緊急事態発生に、俺も慌てて佐倉へと駆け寄って容体を確認する。


「……佐倉、腕を見せてみろ」


 佐倉の腕を取ってみると、アンディの触手が巻かれていた部分が、痣のように青くなっていた。

 どうやらアンディの力が思った以上に強く、佐倉の剥き立ての卵のような柔肌には耐えられなかったようだ。だが、幸いにも強く握り過ぎたせいで内出血を起こしたが、骨には特に異常はなく、病院に行く必要もなさそうだった。


「よかったな。痣になってはいるが、大事には至っていないようだぞ」


 俺がそう言うが、しかし佐倉は不満そうに口を尖らせる。


「いやいやいや、痣になっちゃってる時点で大問題だから。乙女の柔肌に傷痕が残っちゃったらどうしてくれんのよ。旭君、責任取ってくれるの?」

「ああ、任せろ」

「……えっ?」


 即答されると思っていなかったのか、佐倉は目を点にして俺を見やる。


「――っ!?」


 次の瞬間、瞬間湯沸かし器のように顔を一瞬にして真っ赤にさせた佐倉は、視線を右往左往させながら「あの……別にそういうつもりじゃ」とか「私と旭君が……」とか何やら勝手に想像を膨らませているようなので、俺が先程言いかけた言葉の続きを言ってやる。


「心配しなくても、体に束縛痕があるような女が好きな、SMプレイが好きな男を一緒に探してやるからよ」

「あっ、そういうこと…………」


 俺の真意を悟った佐倉は、死んだ魚のような目になって頷く。


「冗談だ。とりあえず冷やしておいてくれ。おい、ミリアム」

「はいはい、お任せください」


 俺が声をかけると、ミリアムがこの部屋の備品である救急箱を手に佐倉へと駆け寄る。ちなみに、ここに救急箱があるのは、過去にモンスターが暴れて職員に怪我人が出たことがあるからだ。


 だが、その事故が公になることはなかった。


 そうなれば、何の問題も起こしていないモンスターへの風当たりが強くなることは必然で、せっかく始まった異種間との交流が途絶えてしまう要因にもなりかねない。

 それ故、例えモンスターから何かしらの被害を受けても、内々で処理することが暗黙の了解となっているのだ。


 ミリアムから手際よく治療を受けている佐倉を見て俺は、今度、飯を奢るからそれで勘弁してくれ。と、佐倉に心の中で謝りながら、今さっき起きた問題についてアンディに尋ねる。


「アンディさん、最初は問題なく持ち上げられたのに、一体何があったのですか?」

「それが、その……触手がつい、暴走してしまって」

「暴走?」

「はい、実は……」


 アンディ曰く、ローパーの触手は、人間のいうところの手足と同じ役割を果たすのだが、思っているより器用に動かすことができないらしい。

 物を上に持ち上げる。手元にある物を別の場所に動かす。などの簡単な命令ならば特に問題ないようだが、複数の触手を用い、それぞれを違う命令で動かすとなると、頭の処理が追いつかず、つい余計な力が入ってしまうことが多々あるという。


「体を持ち上げるだけならば力加減も上手くできるのですが、四本もの触手を同時に別の方向に動かして力を籠めるとなると、僕の技量ではどうも……それに、もう一つ気付いたことがあるんです」

「もう一つ……何か問題が?」

「はい、実はですね……」


 そう言うと、アンディは自分の触手を精一杯伸ばしてみせる。

 アンディの触手は、一メートル二十センチほどの身長に対して、ほぼ同じ長さを有している。小柄な体躯からしたら十分な長さかもしれないが、小柄とはいえ百五十センチ以上はある佐倉の四肢を拘束して、大の字にするとなると圧倒的に長さが足りないように見える。


「なるほど……この長さでは、手と足の両方を拘束するのは難しいですかね」

「はい、せめて僕より大きいローパーであれば、できるのかもしれませんが、僕より大きなローパーとなると、その数は世界でもごく少数かと……」

「ということは、もしかして触手プレイそのものが?」

「はい、残念ながら不可能だったみたいです」

「そう……ですか」


 敗北宣言と共に項垂れるアンディを見て、俺も小さく嘆息して顔を伏せる。

 別にアンディの相談に乗っただけなので俺自身が落胆する必要はないのだが、挑戦した結果が敗北に終わるとなると、何故だか無性に悔しい気持ちになる。

 関係のない俺ですらこんな気持ちになるのだから、勇気を振り絞ってこの場を訪れたアンディの悔しさは、俺の比ではないのだろう。


「はぁ……」


 その証拠に、アンディは目に見えて落ち込んでいた。体をふにゃふにゃと力無く項垂れる様は、いざ本番に挑んだものの、気合だけが空回りして全く役に勃たない……いや、何でもない。


 とにかく、俺としてもこのまま終わるのは不本意なので、どうにかして打開策を練ることにするが、アンディの能力に限界がある以上、そう簡単にはいかないかもしれない。


 項垂れるアンディをどうにか元気づける策はないかとあれこれ考えていると、


「ねえ、これってアンディ一人でやらないといけないんですか?」


 ミリアムから思わぬ意見が飛び出す。


「同人誌を見てもわかる通り、女の子を襲う触手って四方八方あらゆるところから現れるけど、その触手を出しているモンスターが一匹だとは何処にも描かれていないんですよね。ですからここは頭を柔らかくして、複数で挑戦してみるというのはどうでしょう?」

「……確かにわるくないかもしれないな」


 ミリアムの意見は中々に建設的で、一見するとかなり成功する可能性が高いと言える。だが、ミリアムの案を実行するのはある問題があった。


「けど、そんなに都合よく他のローパーなんて集められるのか?」

「それは、簡単ですよ。ねえ、アンディ?」

「は、はい、それはもう」


 俺の疑問に、ミリアムとアンディが揃って力強く頷く。

 どうやら仲間を呼ぶことはそんなに難しいことではないらしい。


「というわけです。ねえ、先輩。アンディの仲間を呼んでもいいですよね?」

「あ、ああ。呼ぶ分には全く問題ないぞ」

「よかった。それじゃあ、アンディ、命令よ。仲間を呼びなさい!」

「はい、それでは……」


 アンディは触手で器用に敬礼をすると、喜びを表しているのか、体をうねうねとくねらせはじめた。

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