触手を持つ者
年の瀬の忙しいところ、皆様いかがお過ごしでしょうか。中々企画が通らず、新刊が出せないですが、それでも作家を名乗りたい柏木サトシです。
新企画を通すのにこれほど苦労するとは思っていませんでしたが、次の作品は、私にとって今後の作家人生を左右するとても大切な一冊になると思いますので、焦らずに確実に面白い作品を目指したいと思います。
さて、今回の作品ですが、以前に通らなかった企画からお気に入りの作品云々言ったかと思いますが、そうではなく企画案としてわざと提出しなかった作品です。
その理由は、この作品が下ネタ成分を過分に含んでいるので書籍化して世に出す勇気がなかったからです……というのは建前で、本当はこういった作品を書いた経験がなく、またプロットの文章だけで作品の魅力を伝え切る自信がなかったからです。
ですが、私自身はこういった話は大好きなので、どうにか形としてこうしてなろう様の方で発表させていただくことにしました。
そこで、この作品が柏木サトシの作品としてアリなのか、今後もこういった作品を書いていくべきかの判断をしたいので、大変不躾なお願いで恐縮なのですが、今作がアリ、もしくは続きを読みたいと思った方は、点数は何点でも構いませんので、評価していただけるとありがたいです。
本当は、読者の皆様にこういったお願いをするのは大変憚られるのですが、今回は新しい試みに挑戦したということで、幅広い方に意見を聞いてみようと思った次第です。
ですので、点数は何点でも構わないと言いましたが、素直に思った点数をつけていただけると大変参考になりますので、もしよろしかったらお願い致します。
もちろん、そういったことには興味ない。めんどくさいという方は、完全に無視していただいて結構ですので、この数行のことは忘れて下さい。
長々と書いてしまいましたが、今作は既に九割ほど完成していますので、なるべく毎日投稿で完結まで持って行きたいと思いますので、よかったら最後までお付き合いくださいませ。
最後に、今作で登場する人物、地名、組織名などの全てはフィクションです。実際のものとは一切関係ありませんので、恐れ入りますが何卒ご理解のほどよろしくお願い致します。
この世界にモンスターと呼ばれる異形の種が現れて、一体どれくらいの月日が流れただろうか?
当初、突如として現れた異形の魔物に人間たちは怯え、混乱し、何も危害を加えられていないにも拘らず、彼等に害を成す者もいた。
一旦は全面戦争もやむなしとまで言われた人間と魔物の関係だが、上の人間たちがなんやかんやと話し合って共存していくことが決定して早五年、モンスターたちは今やどこでも見かけるようになった。
しかし、互いに良き隣人となるべく歩み寄る努力をしても、これまで全く異なる世界で生きてきた両者によるすれ違いは多い。
そこで国は、それぞれの種族の価値観の違いから生まれる軋轢に対応するために――
めんどう事を全て市に、正確には市役所職員に丸投げした。
正確には、異種族間の様々な悩みに対応するためには、普段から彼等に接している身近な人間、つまり市役所の人間が対応する方が良い。そうした方がより良いデータが取れるとか云々とか何やらおためごかしをのたまっていたが、現場の人間からしたら丸投げと同意でしかない。
「旭さ~ん、相談室にお客様がいらっしゃいました」
そんな取り留めのないことを考えていたら、どうやら今日の依頼人がやって来たようだ。
ここは千葉県柏市。かつて追い詰められた三人組が最後の挑戦と位置付け、命を賭けて唱歌させた熱い魂によって人々を魅了したり、世界中を渡り歩き、太陽の祭りの異名で時代を席巻しているソウルメイトがいたり、果ては駅前にあった伝説勇者の剣を引き抜いた勇者の末裔と、魔王との壮絶なバトルが繰り広げられていたとかいなかったりとか何かと話題に事欠かない伏魔殿。そんな柏市の行政を司っている市役所、地域課、異種族間相談所室長。それが俺、旭英雄が与えられた役職で、異種族の悩みを聞いて最善の解決策を一緒に考えるのが俺の仕事だ。
「はいよ、今、行きますよ」
俺は椅子の背もたれにかけてあったネクタイを手に取って素早く身につけると、市役所内の一室に設けられた相談室へと足を向けた。
「もう、先輩遅いですよ」
休憩所から一歩外へ出ると、透き通るようなソプラノボイスが話しかけてくる。
「何度も言っていますが、就業時間の間は余り出歩かないでくださいよ」
「はいはい、わかっていますよ」
もう何度交わしたかわからないやり取りに、俺は嘆息しながら声の主を見やる。
整った目鼻立ちに、男なら誰もが目を奪われてしまうような豊満なボディの持ち主の彼女の名前はミリアム。日本人らしからぬ名前からある程度察している人もいるかもしれないが、彼女は人間ではない。サキュバスという種族の上級モンスターだ。その証拠に、背中にはコウモリを思わせる小さな羽と、形の良いお尻からハート型のとんがった尻尾が生えている。
「もう、先輩。どうしたんですか?」
俺の視線に気付いたからか、ミリアムは魅力的なボディをより強調させるようなデザインのタイトスーツを両手で挟み込むようにしてさらに強調してくる。
「もう、こんな時間から盛っちゃってるんですか? ダメですよ。職場での情事なんて…………最高ですね」
ミリアムはジュルッ、と音を立てて溢れてきた涎を啜ると、俺の腕に手を絡めてくる。
「もう……特別なんですからね? それじゃあ、せ~んぱい、セックスしよ?」
「いや、そんな東京のラブストーリーであったような台詞で迫られてもやらねぇよ……っていうか、何で二十五年以上前のドラマの台詞をお前が知ってるんだよ」
今時の若い連中が聞いたらただの痴女の発言としか受け取られないだろうな。などと俺が考えていると、
「えっ? なんのことですか? 先輩が何を指してそう仰ってるのかわかりませんが、少なくとも二十五年前には、まだ人間とモンスターとの交流はありませんでしたから、私がそのドラマを見る機会はありませんでしたよ?」
……訂正。どうやらだたの痴女だったようだ。
俺は余りの馬鹿馬鹿しさに痛くなった頭を押さえながら、ミリアムに忠告する。
「あのな……俺の名誉のために言うけど、くれぐれも他所で余計なことを言うなよ。俺はお前と一度もそんな関係なったことないんだからな」
「もう、わかってますよ。冗談ですよ、冗談」
ミリアムは赤い唇をちろりと舌で舐めると、自分の胸を押し付けるように俺の腕に体を預けてくる。
「だからそういうのをやめろって言ってるんだ。ほら、馬鹿やってないでさっさと行くぞ!」
俺はそう言ってミリアムの腕を振り払うと、鼻を「フン」と鳴らして歩く。
「ああん、先輩待って下さいってば。先輩のいけずぅ」
後ろからミリアムの非難するような声が聞こえてくるが、俺は構わず足を動かし続ける。
ミリアムはサキュバスという種族だからなのか、今のように事あるごとに俺を誘惑してくる。だが、その全てを鉄の意志で払いのけて来た。
…………ちなみに言っておくが、俺は女性に興味がないのか、男が好きだとかそういうことはない。性癖に関して言えば、至ってノーマルだ。
ミリアムは女性としての魅力は申し分ないし、彼女の熱烈なアタックに心が揺れ動かされたことは数え切れないほどある。
じゃあ、どうして俺がミリアムに対して冷たい態度を取るのかというと答えは至極簡単だ。
ミリアムは超弩級と言っても過言ではない真正のMなのだ。
エロい体をしていてさらにMっけのある女なんて最高じゃないか。そう思う奴は大勢いるだろうが、その考えは恐ろしく甘い。
それはあくまで軽く罵倒される程度で興奮するソフトMと呼ばれるところまでで、ミリアムのような超弩級のMを相手にすると、百年の恋も冷めるほどのドン引きしかしない。
それともう一つ、彼女に手を出さない理由があるのだが、それは後の話にする。
まあ、俺がここでいくら言っても無駄だろうから、実際にその目で彼女の性癖を見てほしい。
彼女が平常運転してくれるならば、その片鱗を垣間見ることは容易いだろうから。
さて、話を本題に戻そう。
果たして市役所なんて何の楽しみもない、退屈極まりない場所にわざわざ足を運んでまで相談に来る変わり者とは、どのようなモンスターだろうか。
純真無垢なヴァンパイアの少女?
自分が相手を不幸にしてしまうのではと怯えている雪女?
他人との上手な距離の取り方に悩むデュラハン?
そんな花も恥じらう乙女な亜人と書いてデミと呼ぶ可愛い子ちゃんたちとのキャッハウフフな語らいを予想しながら相談室の扉を開ける。
八畳ほどの広さの相談室は、書類などの業務に必要な書類を保管しておくキャビネットと、訪問者を迎える為の応接セットがあるだけの簡素な部屋で、応接セットのソファーには、既に相談者の姿があった。
「あっ、今日はよろしくお願いします」
それは、ふしゅるふしゅると不可思議な音を立てる大型犬ほどの大きさの相談者だった。
くねくねと柔らかそうな黄色い円錐形の胴体に、うねうねとうねる緑色をした複数の触手を持つ人とは似ても似つかないモンスター、ローパーがそこにいた。