真夜中
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日瑠葉は真夜中の工房で、明かりもつけずにただ座っていた。
目の前には、刑事たちが興味津々で検分していったミニチュアがある。
ノートサイズの木箱の中にある、精密に再現された殺人のあった部屋。それを睨みつけるように穴が開くほど見ていた。
何度見たって変わらない、そこにあるのは求めていなかった「出来事」だった。
どこかにとかすかな痕跡を探してみても、それが彼の仕業でないのは一目瞭然だった。
「博士さん――」
目を閉じる。祈るように、暗闇しか見えなくなる。
ふと脳裏をかすめたのは、「犯人の姿はわからないのか」と聞いてきた昼間の女刑事の顔だった。
責める色の大きな黒瞳は、見事なアーモンド形をしていた。
その目にある強い意志と自信、正義感が印象的だった。
眉と口角は見事な黄金比から成りたち、歪みなく定規で引いたような鼻筋は息をのむものがあった。
完璧な線対称である顔のベース、肌は東洋の陶磁器に似た質感に見えたが、触れてみないとわからない。
彼女は人として歪みない完璧な姿をしていた。
その凛々しい瞳を再現できるかと考えていたとき、少しだけ怖くなった。
机の上にあるミニチュアは――やはりこんなもの作るべきじゃなかった。
けれど僕は作らずにいられないのだ。そこに可能性があり、欠片でも彼を見つけられるかもしれないなら、どこまでもこの不毛な作業を続けるだろう。
(もし今後も頻繁に刑事がやって来るようなら)
考えなければならない。
僕は事件の犯人を警察に捕まえさせるため、ミニチュアを作っているわけではなく、むしろその逆なのだから。
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