後編
メアリーが魔女喰いを全滅させた事で、結界は消えた。消える直前でヘルファイアとナイトメアを収納し、メアリーは瑠阿に片手を差し出す。
「大丈夫?」
「……うん」
瑠阿はメアリーの手を取って立ち上がった。
「魔女喰いの気配がしたから、すぐに追いかけてきたんだ。真子も大丈夫?」
「は、はい。瑠阿とメアリーさんのおかげで……」
メアリーは真子も気遣い、真子は自分の無事を伝える。
破壊された町は元通りになり、先程の光景が嘘だったかのように、人の姿が溢れていた。
だが、瑠阿も真子もメアリーも、こことよく似た、しかし全く違う場所で起きた事を覚えている。嘘でも、冗談でも、夢でもない。
ひとまず三人は、落ち着く為に人気のない場所に移った。
「……あたしのせいで、真子まで巻き込まれた」
「君のせいじゃない」
「メアリーだってわかってるでしょ!? 魔女喰いの習性の事!」
メアリーは瑠阿を慰めようとしたが、瑠阿からそう言われて言葉に詰まった。
「……魔女喰いは、一人前の魔女なら、倒す事はそんなに難しくない。でもその代わりに、魔女喰いは頭がいいの」
魔女喰い一体はそこまで強くない。一対一で戦えば、瑠阿にも勝機はある。
「必ず群れで行動し、そして自分達でも仕留められるくらい、力の弱い魔女だけを狙う。あたしみたいな、未熟な魔女を……」
そこでようやく、真子は瑠阿が言おうとしている事を理解した。
魔女喰いが狙う魔女は、弱い魔女だけである。強い魔女は、絶対に狙わない。
つまり魔女喰いに狙われるという事は、お前は弱いと言われているのと同じ事なのだ。
「あたしが弱くて未熟なせいで、真子まで危険に巻き込んだ。父さんが殺された時もそう。あたしが強かったら、あんな事には――!!」
「瑠阿!!」
メアリーは瑠阿を抱き締めた。
「君が気に病む事はない。君は生きてるし、真子だって怪我一つないんだ。だから今日のところは、それでいいじゃないか」
「よくないわ! メアリーは自分が強いから、そんな事が言えるのよ!」
「落ち着いて!」
取り乱す瑠阿を落ち着かせる為、メアリーは隷従の指輪を使って命じる。すると、今にも泣き出しそうだった瑠阿が、何事もなかったかのように落ち着いた。
「隷従の指輪は、ただ相手を服従させるだけじゃなくて、こういう使い方も出来るんだ」
「……隷従の指輪?」
真子はいぶかしむ。なぜなら、メアリーも瑠阿も、指輪をしているようには見えないからである。
この隷従の指輪は、一般人に服従関係を悟らせない為に、魔力を持たない者には見えないよう作られているのだ。だから、真子には二人が着けている隷従の指輪が見えない。
「指輪を着けた理由については、長くなるから今は言わない。もっと大事な話があるから」
メアリーは真面目な顔をして、瑠阿に語りかける。
「瑠阿、よく聞いて。僕も両親を、異端狩りに殺されたんだ」
「「!?」」
これには瑠阿も、真子も驚いた。メアリーもまた、瑠阿と同じ経験をしていたのだ。いや、母も殺されている分、瑠阿より悲惨である。
「その時も今の君みたいに、自分の弱さを嘆いた。でも、だからといって焦っても意味はない」
メアリーは両親を殺されてから、異端狩りに復讐する為、世界を旅しながら、長い時間を掛けて腕を上げてきた。
「君の人生はまだまだこれからなんだ。だから、焦らなくていいんだよ。少しずつ、魔女になっていけばいい」
瑠阿を諭すメアリー。
「……強くなりたい」
そんな瑠阿は一言、ぽつりと呟いた。それでもやはり、力への渇望は捨てられない。二度と大切な人を失わない為に。そして、父を殺した異端狩りに復讐する為に。
すると、メアリーは言った。
「じゃあ、僕が手伝ってあげるよ」
「えっ?」
メアリーからの思わぬ申し出に、瑠阿は目を丸くする。
「僕はまだまだ、魔女として修行中の身だ。とはいえ、学んできた事は君やお母さんより多いつもりだよ。だから、僕が知ってる魔法を教えてあげる。そうすれば、君はもっと強くなれる」
メアリーはダンピール。年齢を聞いてはいないが、きっと生きてきた時間は青羅よりも長い。だから、彼女から魔法を学べば、間違いなく強くなれる。
「どうかな?」
「……お願い。あたしを強くして!」
瑠阿は力強く頼み、メアリーは頷いた。
「……なんか、羨ましいな……私も魔女だったらよかったのに」
二人のやり取りを見て、真子は疎外感を感じている。
「魔女にならなくても、真子はあたしの一番の友達よ」
「君は人間だからいいんじゃないか」
しかし、二人ともそんな事はない全然思っていなくて、むしろ真子が人間でよかったと思っていた。
「少なくとも、異端狩りから優先的に狙われなくて済むだろ?」
その言葉には、真子は心から同意した。