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Blood Red  作者: 井村六郎
Episode17
33/40

前編

 マリアージュ・ブラッドレッド。抹殺指令が停止されるまで、様々な戦力がジャスティスクルセイダーズから派遣され、彼女と対決した。


 黒服、赤服、青服。時には白服までが派遣される事があったが、全員返り討ちにされた。流石に白服は倒される前に撤退したが、ジャスティスクルセイダーズにとって最も危険視するべき相手として見られていたのは間違いない。


 そんな彼女が、この場にいる。だが、相手が自分の妹にジャスティスクルセイダーズの幹部が二人という強敵揃い。いくらマリアージュでも慎重にならざるを得ないのか、見合ったまま仕掛けてこない。


(瑠阿)


 突き刺すような緊張の中、メアリーが瑠阿に思念通話で話し掛けてきた。


(こんな事本当は言いたくないけど、はっきり言って君は戦力外だ)


 瑠阿は確かに強くなった。そして、これからもどんどん強くなっていく。彼女をさらに成長させる為に、今後様々な強敵との戦いに連れて歩くつもりでいた。


 しかし、マリアージュだけは規格外である。彼女との戦いに瑠阿を参加させれば、あっという間に物言わぬ肉塊に変えられてしまうだろう。今回だけは、残念ながら戦力外と言わざるを得ない。


(……そうでしょうね。わかってたわ)


 瑠阿は、特に心を痛めてはいない。始まれば戦いになどならないし、置いて行かれる事くらいわかっていた。


(でも、君を邪険に扱うつもりはない。代わりにやってもらう事がある)


(えっ?)


 と、メアリーの話にはまだ続きがあるらしい。


(僕達が姉さんと戦っている間に、真子を助け出して欲しいんだ)


(真子を!? どうやって!?)


 瑠阿は驚いた。真子を助けて欲しいというのは、わかる。だが、メアリーはマリアージュと付きっきりで戦う事になる。メアリーなしでは真子を助けられないと思ったからこそ、あの時は退いたのだ。一体、どうしろというのか。


(隷従の指輪を使うんだ。僕は出来る限りあの絵から、姉さんを引き離す。充分だと思ったら魔力を込めながら隷従の指輪を絵に向けて、中に自分を入れるよう命令するんだ)


 もちろん、瑠阿の発想に任せるなどという、無責任な真似はしない。とはいえ、これはメアリーにとっても確証のない方法である。


 アニマの筆はメアリーとマリアージュの母、フェリアが造った魔道具である。フェリアの至宝は、ブラッドレッドの血族を傷付けず、命令されればそれに従う。それは、アニマの筆によって命を得た絵画にも当てはまる。もちろん瑠阿はブラッドレッドの血族ではないので、命令したところで従いはしない。


 そこで登場するのが、隷従の指輪である。メアリーの下僕である事を示す証、隷従の指輪。これを絵画に対して見せつければ、彼女をブラッドレッドの血族の関係者であると認めて、命令に従うのではないかとメアリーは考えたのだ。


(魅惑の宝靴の時、この発想が思い浮かばなくてごめん。でも、きっと上手くいくはずだ!)


 今までこの指輪を付けた事も、付けさせた事もないので、初めて試す方法だ。成功するかどうかは、全然わからない。しかし、現状これしか方法が思い付かない。


(わかったわ。やってみる!)


 メアリーが思い付いた作戦なら、絶対に成功する。そんな確信があった瑠阿は、マリアージュに悟られないように、心の中だけで返事をした。


「どうした? 来ないのか? 来ないのなら、こちらから行くぞ」


 とうとう痺れを切らせたマリアージュが向かってきた。突撃しながら、ファントムタスクを交差させて斬り掛かってくる。いち早く察知したメアリーはナイトメアとヘルファイアを交差しながら突撃し、真正面からマリアージュを押さえた。


「てめぇの相手は俺だ!!」


 ジンがマリアージュの真横に回り込み、デストロイカスタムを発砲する。それをバックステップで後退してかわすマリアージュ。先程彼女がいた場所にティルアが割り込み、セレモニーキャノンを乱射する。マリアージュはファントムタスクを素早く振るって、自分に当たる弾丸だけを全て叩き落とした。


「やはりこの程度の弾幕では、かすりもしませんか」


「私が数を揃えただけで勝てるような弱小魔族なら、とうの昔に死んでいる」


 マリアージュの言う通り、頭数や武器を揃えた程度で勝てるような相手なら、ジャスティスクルセイダーズ内でも危険視されたりはしない。


「で、それだけか?」


「あんまり僕を馬鹿にしないでくれるかな? これでも僕なりに、頑張ってるんだからさ!」


 メアリーはマリアージュの足元を狙って発砲する。それを、またしても軽くバックステップしながらかわす。その様は、まるでタップダンスでも踊っているかのようだった。そこへ、ジンとティルアも攻撃を仕掛ける。


(すごい……)


 瑠阿は四人の戦いに見とれていた。メアリーだけでなく、ジンとティルアもすごく強い。そして、その三人を赤子同然にあしらっているマリアージュは、本当に恐ろしく強かった。


「……っ!」


 そこで瑠阿は我に返る。見とれている場合ではない。メアリーが、何の為に自分に作戦を伝えたのか。見てみると、メアリーは扉の絵からマリアージュを引き離すように戦っている。ジンはかつて舐めさせられた辛酸の味を晴らす為に、ティルアはジンをフォローする為に戦っている。


 ジンとティルアはこんな作戦を知りはしないが、結果としてかなりマリアージュを絵から引き離せていた。それに、マリアージュの思考は、完全に瑠阿の存在を忘れ去っているらしい。作戦を実行するなら、今が最大の好機だ。


 瑠阿は絵に向かって駆け出した。そして、仁王立ちするように絵の前に立ちはだかる、片手を握って隷従の指輪を見せつけ、魔力を込めながら言った。


「開きなさい! あたしの命令は、あんたのご主人様の命令と同じ重みがあるわよ!!」


 すると、変化はすぐに起きた。動くはずのない絵の中の扉が、音を立てて開いたのだ。


(やった!)


 作戦は成功だ。瑠阿はダイブするように絵の中に飛び込み、扉は閉じた。


 背中を向けたまま、瑠阿が絵の中に入ったのを感じ取り、メアリーはにやりと笑う。


 対するマリアージュは、その表情を変えずに言い放った。


「隷従の指輪にあんな使い方があったとは予想外だったが、足手纏いが消えて、これで全力が出せるか?」


 その言葉に、メアリーは驚く。


「知ってたの? 僕が真子の救出を瑠阿に任せるって」


「逆に訊くが気付かれないと思っていたのか? あの雑魚に出来る事などそれぐらいのものだろう」


 どうやら、二人の作戦はマリアージュにとってお見通しだったらしい。


「瑠阿は真子を助けに行きましたか。彼女なら何の問題も無いでしょう」


「知るかよ。俺はあのダンピールを殺すだけだ」


 ジンとティルアは今作戦を知ったが、やる事は変わらない。マリアージュは危険因子だ。ここで倒さなければならない。


「知ってて邪魔しなかったんだ?」


「餌がいなくなったところで、私がお前を殺すのには何の支障もない。それに、奴には何も出来ん」


「あの子を甘く見ない方がいい。だって、他ならない僕が見初めたフィアンセだからね」


 瑠阿がメアリーを信じているように、メアリーも瑠阿を信じている。彼女なら、確実にやり遂げると。


「ところで、まだアニマの筆は使わないつもり?」


 メアリーは訊ねた。マリアージュが母の魔道具、アニマの筆を手に入れた事は既に知っている。この期に及んでそれを使わないのかと。


「使う使わないは私の自由だ。第一、あれは今ここにはない」


「何だって?」


 何と、マリアージュはアニマの筆を持っていないらしい。


「その絵の中だ」


 マリアージュは顎で、アニマの筆の在処を教えた。メアリーは一発で、それが何を意味しているか理解する。


「ボブとジーナか!」


「私には絵心がないのでな、ここの絵画には一切手を出していない。代わりにその絵を持ち込んだ」


 メアリーは苦虫をかみつぶしたような顔をする。ティルアはメアリーに訊ねた。


「メアリー。ボブとジーナというのは?」


「ゴブリンのボブと、ピクシーのジーナだ。一年くらい前に姉さんに会った時、姉さんが引き連れていたんだよ」


 マリアージュはよく単独行動をするので、二人は置いてけぼりを喰らって慌てて追い掛けるという行動を繰り返していた。だから、ジャスティスクルセイダーズの手配にも引っ掛からなかったのだ。


 その二人にアニマの筆を持たせ、絵の中に潜ませている。最善策を考案したつもりが、メアリーが思い付いたのは最悪の手段だった。


「雑魚同然の連中だが、母上の魔道具を持たせてある。見習い魔女と無力な小娘の二匹くらい、わけなく始末出来るだろう」


 これは大変な事になった。急いで瑠阿を助けにいかなければならないが、それにはマリアージュを倒さなければならない。


「では、続きを始めよう。気にくわない顔をいつまでも眺めているというのも、なかなかの苦痛でな!!」


 マリアージュは三人向かってきた。



 ☆



 瑠阿は一人、七色に明滅する空間を走っていた。これが、絵の中に広がっていた世界である。


(近いわ)


 道などあってないようなものだが、真子にはあらかじめ自作の魔道具を持たせてある。その反応を辿れば、こんなわけのわからない空間でも、真子を捜す事は出来る。


「真子!!」


 目の前に扉が出現し、それを開けると神殿のような景色が広がっており、その一番奥に、十字架に縛り付けられた真子がいた。


「……瑠阿?」


 気絶していた真子は、目を覚ます。


「待ってて! 今助けるわ!」


 真子を救出する為、走る瑠阿。


「げげげげげ。残念じゃが、そうはいかん」


 しかし、真子の手前にある大理石の柱の陰から、ボブが現れた。


「とりあえず謝っとくわ。ごめんね」


 その反対の柱の陰から、ジーナが出てくる。瑠阿は驚いて立ち止まった。


「誰!?」


「わしはボブ・チャールストン。マリアージュ様一の臣下じゃ」


「自称だけどね。ああ、私はジーナ・リーナ。恩があってマリーさんにくっついてる、しがないピクシーだよ」


 二人は自己紹介しながら、瑠阿の前に立ちはだかる。


「そこをどいて!」


「言ったはずじゃぞ? そうはいかんとな」


 ボブは持っていた杖を両手で持ち、瑠阿に向ける。すると、ドクロの口が開き、稲妻が放たれた。瑠阿は杖を取り出し、障壁を張って防ぐ。


「ほう。我が魔道杖の一撃を防ぐか」


「魔力はなかなか高いんじゃない? 見習い魔女にしては」


「見習い魔女って言われるのは、あんまりいい気がしないの。あたしには玉宮瑠阿って名前があるから、そっちで呼んでくれない?」


 瑠阿は今の攻撃を、余裕を持って防ぐ事が出来た。ボブの魔力は、ゴブリンとは思えないほど高いが、それでも覚醒した瑠阿にとっては、それほど強敵ではない。


「では玉宮瑠阿よ。お前はメアリー様の使いの者じゃな? マリアージュ様から聞いておるぞ」


「メアリーの事を知ってるの?」


「ああ。しかし、だからといってお前を通すわけにはいかん。わしが仕える相手はメアリー様ではなく、マリアージュ様なのでな」


「ボブじいさん曰く、マリーさんには支配者の器があるんだってさ。私にはそこら辺のとこよくわかんないんだけど、少なくともメアリーさんは、支配者ってガラじゃないよね~」


 自身の忠誠心を示すボブと、メアリーに味方するつもりがない事を教えるジーナ。二人とも譲る気はなさそうなので、やはり戦うしかない。


「あなた達がどんな気持ちでマリアージュ様のお供をしてるのか、それをこの際知るつもりはないわ。ただ、いくら見習いだって言っても、ゴブリンやピクシー相手に負けるほど、あたしは弱くないって事を知って欲しいだけよ」


 ゴブリンもピクシーも、魔族としては低級だ。目の前にいる二人は多少やるようだが、超上級といえる魔族のそばで力を磨いてきた瑠阿にとっては、やはり相手にならない。


「ふん、もう勝ったつもりになっておるのか。わしらがここにいる理由が、お前にはわからんらしい」


 そう言ったボブはアニマの筆を、懐から取り出す。


「それは……!」


「マリアージュ様からお借りした、アニマの筆じゃ。これがそこらの筆と違う事くらい、お前さんでもわかるじゃろ?」


 瑠阿は一目で、その筆がアニマの筆であると見抜いた。ボブが言うように、並の魔道具とは込められている力が違う。


「お前がどうやってここに入ってきたのかは定かではないが、ここではこの筆を持つわしこそがルールであり、絶対の理じゃ」


 ボブが筆を真上に掲げると、空が曇る。そして、燃え盛る隕石が大量に落ちてきた。


「!!」


 あんなもの、防げるはずがない。しかし、瑠阿は思い出した。隷従の指輪を付けているおかげで、彼女はここに来れた。つまり、ブラッドレッドの血族の関係者と、この絵の世界に認められた証なのである。


 素早く隕石雨に隷従の指輪を向ける。すると、隕石が全て瑠阿から遠く離れた場所に落ちた。


「え? もしかして防いだの?」


「なるほど、あの指輪のおかげというわけじゃな」


「どういう事? 意味わかんないんだけど」


 ボブにはわかったようだが、ジーナには何が起きたのかわからなかったらしい。説明を求めるジーナに、ボブが簡単な説明をしてやる。


「何の効果を持っているかは知らんが、あの小娘が付けて折る指輪はフェリアの至宝じゃ。フェリアの至宝は、ディルザードを除いてフェリアの至宝を持つ者を傷付けられん。あの指輪を使って、この絵の世界を操ったのじゃよ」


「ああ、だからこの世界に来れたってわけか」


 ジーナは納得した。これで少なくとも、瑠阿にとってフェリアの至宝は武器にならない。


「しかしじゃな、フェリアの至宝を持つからといって、それでわしらに勝てるというわけではないぞ!」


 ボブが筆を動かし、周囲に剣を出現させて飛ばす。それをすかさず指輪で防ぐ瑠阿だったが、直後、ボブの魔道杖から電撃が飛んできて、慌てて障壁を張って防ぐ。


「あらあら。どうやらアニマの筆を使った攻撃は、いちいちその指輪を向けないと防げないみたいだね」


 電撃と筆、二種類の攻撃を使い分ける事で、瑠阿にプレッシャーを与える。どんな攻撃が来るかわからずに瑠阿は神経をすり減らされ、最後には倒れるというボブの計画だ。


「さてと、それじゃあそろそろ、私も参加させてもらおっかな」


 ジーナが両手を前に向けると、その先に風が集まる。


「あんたに恨みはないけどさ、マリーさんにくっついてく以上は、やるべき事やんなきゃなんないだ。だからさ、死んでよ」


 そこから、無数の風の槍が飛んできた。風の魔法、ウインドスピアである。


「くっ!」


 瑠阿は障壁で防ぐ。


「トルネードクラッシュ!!」


 ジーナはさらに、瑠阿を竜巻で包んだ。その外から、ボブが電撃を撃つ。


(この二人の攻撃、そこまで強くない)


 全方位に障壁を展開する。やはり低級魔族の攻撃では、瑠阿の障壁は破れない。


(でも……!)


 背後から強い殺気を感じて、振り向いて指輪を向ける。こちらに飛んできていた巨大な石の柱が、右にそれていった。


(アニマの筆を使った攻撃は、あたしには防げない!!)


 メアリーは自分の中にとても強い潜在能力を眠らせていると言っていたが、フェリアの至宝をどうにか出来るほどには、まだ強くない。というか、それは不可能に近い。何せあの強魔六婦人ですら、フェリアの至宝の力には抗えなかったのだ。だから、同じフェリアの至宝を使って防ぐしかない。


(こうなったら、勝負に出る!!)


 長期戦になればこちらが不利だ。戦況がこれ以上悪化する前に二人を倒し、真子を救出しなければならない。


「ううううああああああああああああああああっ!!!」


 咆哮と共に、魔力を解放する瑠阿。彼女の魔力の波動は、ボブとジーナの攻撃を吹き飛ばした。


「真子を……」


 そして、瞬時に身体能力を向上させ、


「返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 疾走する。その動きは、ゴブリンの目には捉えられなかった。


「ボブじいさん!!」


「っ!?」


 ジーナはかろうじて気付き、声を上げたが、もう遅い。


「はっ!」


 瑠阿はアニマの筆だけを狙って杖を突きつけ、衝撃波を放った。


「ぬおっ!」


 衝撃波は見事にアニマの筆に命中し、ボブの手から弾き飛ばす。すかさず物体浮遊の魔法で筆を捕らえて引き寄せ、左手で掴み取った。


「真子!」


 それから、筆を真子に向け、解放するよう命じる。すると、真子を縛り付けていた十字架が、まるで最初から存在しなかったかのように消失し、真子は着地する。両手を見て自分が自由になれたのを確認すると、すぐ瑠阿の後ろに隠れた。


「これで形勢逆転ね」


 フェリアの至宝を奪い、人質も取り返した。これで、瑠阿の勝利は揺るぎないものになった。


「ぐぬぬぬ……!!」


 瑠阿が相手なら勝てると思っていたボブだったが、思わぬ失態を演じてしまった。こうなってしまった以上逃げるしかないが、このままおめおめと逃げ帰ったら、マリアージュ一の臣下の名が廃る。


「こうなれば、差し違えてでも貴様らを亡き者にしてくれる!!」


 それしかない。破れかぶれの特攻を仕掛けようとするボブ。


「!」


 と、ジーナの目付きが変わった。


「ボブじいさん。盛り上がってるとこ悪いけどさ、ここは引き上げるよ」


「な、何を言うておるのじゃお前は!? このままではマリアージュ様に申し訳が立たんというに!!」


「そのマリーさんがヤバい事になってるからだよ。今大ピンチなの」


「何じゃと!?」


「えっ!?」


 この発言には瑠阿も驚く。よくわからないが、ジーナは外の世界にいるマリアージュの状態を把握しており、しかも今彼女はかなりの危機的状況に陥っているらしい。


「……では仕方あるまい。まずはマリアージュ様をお救いせねば」


「そういう事。じゃあね、瑠阿ちゃん」


 ようやく納得したボブと、瑠阿に別れを告げるジーナ。次の瞬間、一迅の風が吹き、二人の姿が消えた。


「逃げたわね……」


 ひとまず危機は去ったと安堵する瑠阿。


「大丈夫?」


「瑠阿……」


 目の前に瑠阿がおり、助かったという実感を掴んだ真子は、瑠阿に抱き付いた。


「怖かった……怖かったよ……」


「よしよし。もう大丈夫……と言いたいところだけど、まだ言えないわね」


 外ではまだ、メアリー達がマリアージュと戦っている。瑠阿もすぐに加勢しなければならない。


「マリアージュって、メアリーさんのお姉さんよね? あのすごく強くて怖い人……」


「あたしにどれだけの事が出来るかわからないけど、メアリーが待ってるわ。こんなところ、さっさと出ましょ」


「でもどうやって出るの?」


「それは心配いらないわ。これがあるから」


 瑠阿はアニマの筆に魔力を込めて、空中にかざす。すると、空中に絵が出現した。ここに来る時に通った、あの扉の絵画である。扉の絵画は、ゆっくりと音を立てて開いていく。


「さあ、行くわよ!」


 瑠阿は真子に肩を貸して、一緒に扉をくぐる。


(もしかしたら、あたしにも出来る事があるかもしれないわ)


 先程ジーナは、マリアージュが危機的状況にあると言っていた。きっとメアリー達が、どうにかしてマリアージュを追い詰めているのだ。


 弱っているマリアージュが相手なら、勝てるかもしれない。そんな淡い期待を胸に、瑠阿は真子を連れて現実世界に帰還した。


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