表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Blood Red  作者: 井村六郎
Episode14
28/40

後編

「殺し合うしかない、か」


 メアリーはエルクロスを見据えて呟いた。そして、はっきりとした口調で、自分の言葉をぶつける。


「こっちはね、最初からそのつもりで来てるんだ。仲良くするつもりなんてないんだよ、異端狩り!」


 そう言いながら、ヘルファイアとナイトメアを連射する。しかし、先程と同じように、コルベウスから炎が伸びてきて弾丸を焼き尽くし、エルクロスまで届かない。


「ならば死ね。ああ、心配する事はない。コルベウスの炎は、狙った相手だけを焼く事が出来る。心臓以外を灰に変えて、残った心臓はコッペリオンハートの材料に使わせてもらおう!」


 炎で身を守りながら、突撃してくるエルクロス。そのままの勢いでコルベウスを振り上げ、メアリー目掛けて振り下ろした。


「メアリー!」


 思わず叫ぶ瑠阿。炎は、吸血鬼の弱点の一つなのだ。エルクロスが操っているのは、あらゆる全てを焼き尽くす魔剣の炎。いくら弱点を分散しているダンピールとはいえ、そんなものを喰らえば確実に死んでしまう。


 しかし、メアリーは炎を喰らわなかった。


 銃撃が効かないと判断したメアリーはヘルファイアとナイトメアを送還し、代わりにディルザードを召喚して受け止めたのだ。


「アグレオンの守り刀、魔剣ディルザード。フェリアの至宝は、コルベウスの炎に耐えられるのか」


「母さんが父さんを守る為に造った魔道具だ。古代の魔道具が相手だろうと、力負けなんて絶対にしない」


 その光景を見たエルクロスは、一度飛び退いて距離を取る。


「やはり惜しい逸材だったな。彼女の死体を放置したのは失敗だった」


「……どういう意味だ?」


 エルクロスは意味のわからない事を言った。その口ぶりだと、まるでアグレオンとフェリアが殺されたあの場所にいたかのようだ。


「まだ私が青服だった頃の話だ。吸血鬼の元大貴族アグレオンと、魔道具の名工フェリアを討伐するよう命を受けた白服に、私は同行したのだよ」


「うそだな。あれは七十年も前の話だ」


 メアリーはあの場に隠れ潜んで様子を見ていたのだが、エルクロスの姿はなかった。第一、そんな昔にエルクロスが生きているはずがない。


「君は聞き及んでいるはずだ。白服にのみ施される、バイオパラディンの手術を。それによって若返る事が出来るという事を」


 確かに聞いた。その話と照らし合わせてみれば、エルクロスの話にも矛盾はない。当時のエルクロスは今と比べて老けていただろうし、顔が違っていてわからなかったかもしれないからだ。単純に見えない角度にいた可能性もあった。


「可能ならフェリアの心臓も手に入れたかったが、流石に他の団員の目を盗んで奪う事は不可能だった。心臓が完全に潰されていたから、戻ってきて回収する事も不可能だったしな」


 その頃は、まだジャスティスクルセイダーズに反乱しようとは考えていなかった。まだまだ、力不足だったからだ。ただ、自分がコッペリオンハートを使う為の、保険は手に入れておいていいだろう程度には考えていた。


「お前、いたのか……」


「ん?」


「お前なのか!! 父さんと母さんを殺した連中の仲間だったんだな!?」


 予期せぬところにいたものだ。自分の目の前に、両親の仇の一人がいる。その事実に、メアリーは肩を震わせて怒っていた。


「結果的にはそうなる」


 エルクロスはその事に対し、特に否定する事もなく頷いた。


「瑠阿、君に謝らなきゃいけない」


「えっ?」


 メアリーはエルクロスを見たまま、瑠阿に謝った。


「僕はこいつとは無関係だと思っていた。両親の仇の仲間で、大切な人の父親の仇だとしか思っていなかった」


 だが、そうではなかった。この男は、自分の両親の仇の、その内の一人だったのだ。


「一緒にこいつを倒そう!」


「……何よそれ。そんな事、ここに来る前から決めてた事だったじゃない!」


 瑠阿は笑顔になり、杖を握る力を強める。


「どうやら士気は高まったようだな。だが、忘れてもらっては困る。私もまた、君達ダンピールを憎んで――」


 エルクロスが、ダンピールという種族への恨み節を吐こうとした時、その下顎を真横からの銃撃が吹き飛ばした。


 メアリーが、瑠阿が、モルドッグが、そしてエルクロスが、その方向を見る。


「てめぇを憎んでんのはそいつらだけじゃねぇ。ここにもいる」


 そこには、ジンとティルアがいた。


「ジン! ティルア!」


「待たせましたね、瑠阿」


 ティルアが応える。


「ほう、ジンか」


 エルクロスは顎を再生させ、感慨深げに呟く。


「てめぇを殺すのは俺だ!!」


 ジンはエルクロスに飛び掛かり、銃撃を仕掛けた。ティルアは、メアリーと合流する。


「てめぇがこの俺にした事、忘れたとは言わせねぇぞ!!」


「さて、何だったかな? 思い当たる事がありすぎて、忘れてしまったよ」


 ジンは顔や胸を狙って銃撃し、それは間違いなく命中するのだが、エルクロスは破壊された箇所を再生させながらジンを煽る。


「君の獲物を横取りした事か、腹立ち紛れに君を蹴り飛ばした事か、わざと私の魔法に君を巻き込んだ事か……」


 自分がやった事を並べ立てていくエルクロス。どれも確かに、ジンの神経を逆撫でしそうな事だ。


「それとも、君が私の後釜として白服になった事かな?」


「!!」


 エルクロスの言葉で、ジンの攻撃が止まる。


「どういう事?」


 瑠阿はティルアに訊いた。


「白服は必ず十人でなければならないのです。多すぎても、少なすぎてもいけません」


 従って、どんなに腕のいい青服がいようと、白服が既に十人決まっているのなら、白服に昇格する事は出来ないのだ。


 青服が白服に昇格する時は、何らかの原因で白服の人数に欠番が出た時だけである。欠けてしまった人数分、青服が白服に昇格するのだ。


「エルクロスがジャスティスクルセイダーズから離反し、白服に欠番が出てしまった為、次の白服として選ばれたのがジンでした」


 ジンはエルクロスから屈辱の数々を受け続けており、それが長く続く内に決めた。こいつの後釜として白服になるのだけは、絶対に嫌だ。こいつが座っていた椅子にだけは、絶対に座らないと。


 だから最初、推薦を受けた時には断った。だが他の白服全員から受けた推薦とあっては、流石のジンも断りきれず、仕方なく白服となったのだ。


 言ってみれば、ジンはエルクロスの後任である。自分が一番嫌っていた相手の、後任。最後の最後まで、屈辱を与えられた。彼が黒服を着ているのは、エルクロスに対する当てつけの意味もある。


「てめぇ知ってやがったな!? てめぇが抜けた後、俺が白服に推薦されるって!!」


「もちろんだとも。順当だろう? もっとも私は、君の為にジャスティスクルセイダーズを抜けたわけではないのだが」


「何で俺が、てめぇが捨てた役割を担わなきゃならねーんだ!! これじゃあまるで、俺がてめぇのおこぼれにあやかったみたいじゃねぇか!!」


「実際にそうなのだから仕方ないだろう」


 エルクロスの言い草に再び怒ったジンは、銃撃で右目を潰した。


「私がコッペリオンハートで不死身になっていなかったとしても、君は私を超えられないよ。君は所詮、魔族相手にいきがっているだけのチンピラだ。そんな君に、世界の安寧を願っている相手を超えられるものか」


「黙りやがれ!!」


 再生する右目を、再生しきる前に再び銃撃で潰すジン。それだけでなく、左目も同じように潰した。今なら視界が塞がれている、攻撃のチャンスだと思って突撃するジン。


 だが、エルクロスはそれに合わせてコルベウスの刺突を、ジンの顔面を狙って繰り出した。


 ジンはそれをかわして、素早く後退する。


「そういうところだ」


 目玉が再生する。しかし、目が見えなくても、エルクロスはジンの攻撃を察知して、反撃した。お前の行動パターンを、完全に把握しているぞと、そう言っている。彼にとってジンの存在は、それだけ取るに足らないのだ。


「参ったな。これじゃあ滅茶苦茶だ」


「メアリー。ジンを助けてあげて」


「えっ?」


「このままじゃあの人、死んじゃうわ」


 瑠阿は、ジンを助けるようメアリーに頼んだ。


「……仕方ないなぁ」


 フィアンセの頼みとあれば、断れない。メアリーはジンを助けに行った。


「恩に着ます」


 ティルアは、瑠阿が頼んでくれた事に感謝する。あのままでは勝敗は明らかであったので、助かった。


「別に、あなたの為にお願いしたわけじゃないわ。これは、ただの貸しよ」


「では、あなたを助ける事で、その借りを返す事にしましょう」


 エルクロスの相手は、メアリーとジンがしてくれる。ならこちらは、モルドッグの相手をしなければならない。


「これはまた、厄介な相手が出てきたな」


「モルドッグ。もう無駄な説得などしません」


「当たり前だ。わしとエルクロス様の関係を知っておるなら、何をしても無駄じゃからな」


「……幼馴染み、でしたね」


 モルドッグとエルクロスは、幼馴染みなのだ。ともに、世界を平和にすると誓い合った仲である。


 エルクロスはバイオパラディンとなり若返ったが、当時はまだバイオパラディンの手術が安定しておらず、白服の推薦であってもモルドッグはバイオパラディンになれなかった。だから魔法で延命しているのだが、それよりもっと若々しい肉体を、永遠に保つべきだ。だからエルクロスは、彼の為にメアリーや瑠阿の心臓を手に入れたいのである。


「邪魔はさせんぞ。貴様らは二人とも、わしの手に掛かって死ぬのじゃ!!」


「そうはいきません」


 ティルアはセレモニーキャノンでモルドッグを撃つ。しかし、結果は瑠阿が戦った時と同じだった。


「貴様専用の聖兵装セレモニーキャノンか。だが無駄な事じゃ!!」


「あの大口径でも破れないなんて……!!」


 瑠阿は戦慄している。彼女はかつて、セレモニーキャノンの威力を体験した。あれはもう、防げるとかそういう次元の武器じゃないと認識したのだが、それなのにモルドッグは軽く防いでいた。


「そして、詰みじゃ」


 モルドッグが呟くと、二人の足元に魔法陣が出現する。


「!?」


「えっ!?」


 驚いて攻撃をやめてしまうティルア。そして次の瞬間、二人は動けなくなった。


「これ、あの時と同じ!?」


「くっ! しまった……!」


 瑠阿は保健室でモルドッグと相対し、金縛りの魔法で動きを封じられている。今回も同じく金縛りの魔法だが、あの時は魔法陣などなかったし、今回はティルアにも解けないらしい。


「不動縛陣ジェイルゾーン。わしが使える中でも最強の捕縛魔法じゃ。動けまい」


「こ、このっ! 離しなさいよ!」


 瑠阿とティルアは全身に魔力を込めて抵抗を試みるが、このジェイルゾーンというらしい魔法から脱出出来ない。


「では、死ぬがよい」


 モルドッグの両脇に、魔力で出来た二本の刃が出現し、回転しながら飛んできた。二人の首を狙って。動けない二人は、よける事が出来ない。



 だがその時、二人の後ろから何枚ものトランプが飛んできて、折り重なって結界を張り、魔力刃を防いだ。



「一つ一つの結界は脆くても、数を合わせればこの通りよ」



 それから、二本の剣が飛んでくる。


(そんなものでわしの結界が)


 破られるはずがない。モルドッグはそう思っていた。


 しかし、剣は結界をすり抜け、モルドッグの両肩に突き刺さった。


「ぐわあああああああああああ!! ば、馬鹿な……!!」


 モルドッグが絶叫を上げる。術者がダメージを受けた事で、結界が解け、二人の金縛りも解ける。


「その嘘吐きの剣(トリックソード)は、あらゆる防御をすり抜け、私が斬りたいものだけを斬り付ける。例え強固な結界に守られていようと、関係はないわ」


「お母さん!」


「大丈夫?」


 二人の窮地を救ったのは、瑠阿の母、青羅だった。


「感謝します、お母様」


「さぁ、今のうちに!」


「うん!」


 ティルアは青羅に感謝し、瑠阿は杖から電撃を放って、椅子の拘束具を破壊。物体浮遊の魔法を使って、真子をこちらに引き寄せて抱き止めた。


「モルドッグ。かつての同僚として、私があなたを終わらせます」


 ティルアが言うと、セレモニーキャノンが、ガトリングから大砲へと変形する。これからティルアが何をするつもりか察した青羅は、物体浮遊の魔法で嘘吐きの剣を回収した。


「……さようなら」


 そして、ティルアはセレモニーキャノンの引き金を引いた。


「……エルクロス、様……」


 モルドッグは自分の主の名を呟き、光線に飲まれた。


 ビルの壁に大穴を空ける、セレモニーキャノンの魔力砲。


 その大穴の前には、誰も立っていなかった。


「モルドッグ!?」


 モルドッグが倒された事に気付いたエルクロスは、そこを見る。だが、モルドッグは完全に消滅していた。遺体が残っていないのなら、コッペリオンハートを使った蘇生も出来ない。


「……おのれ……!!」


 エルクロスは憎悪を込めた瞳で、メアリーとジンを睨み付けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ