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Blood Red  作者: 井村六郎
Episode14
27/40

前編

 瑠阿とメアリーは最上階に到着し、社長室の前に辿り着く。


「ここだ」


「うん」


 部屋の中から、ドア越しにも強力な魔力が伝わってくる。間違いない。エルクロスとモルドッグは、ここにいる。


「準備はいい?」


 メアリーは瑠阿に、確認を取った。中に入れば、すぐにでも死闘が始まる。相手は不死身の元白服と、強力な元青服だ。きっと、今までで一番激しく、苦しい死闘になる。


「ここまできたら、もう後には引けないわ」


 覚悟なら、日本を発つ前にもう出来ている。どのみち、エルクロスを倒さなければ、ここから生きて帰る事は出来ないのだ。


「行きましょ。真子が待ってるわ」


 父の仇だけではない。ここには、攫われた真子を助ける為にも来たのだ。今頃は、きっと不快感で死にそうになっている事だろう。早いところ助け出して、いつもの日常に戻してやらなければならない。


「よし。じゃあ、行くよ」


 メアリーは呼吸を整え、ドアを開き、二人は社長室に突入する。


「ようこそ。やはり一番最初に到着したのは君達だったか」


 エルクロスは落ち着いた様子で、社長の椅子に座っていた。まるで、いつも自分の会社の社員に対してそうするかのように。二人はエルクロスに注目し、動作一つにも注意を払う。メアリーはエルクロスに訊ねた。


「あんたがエルクロス?」


「その通り。会えて嬉しいよ、メルアーデ」


 エルクロスからすれば、メアリーは会いたくてたまらない存在だったのだろうが、メアリーにとっては全くそうではない。いや、会いたいと言えば会いたかったか。エルクロスが思い描いている気持ちとは全然違う意味でだが。


「僕もだ。あんたを殺したくてたまらなかった」


「私の願いを聞き入れてはもらえないか。悲しいぞ……」


 右手で額を押さえ、悲しむようなポーズをするエルクロス。もっとも顔が笑っているので、悲しそうには全く見えなかったが。


「せっかくお友達にも同席してもらったというのに」


 そのポーズのまま、左手で自分の左側を指し示すエルクロス。二人がそちらを見ると、そこにはモルドッグと、椅子に縛り付けられた真子がいた。


「真子!!」


 しかし、真子は瑠阿の呼び掛けに応えない。代わりに、モルドッグが応えた。


「安心しろ。この娘は今、わしの催眠魔法で眠らせてある。エルクロス様はとても慈悲深いお方でな、心を痛めておいでなのだ。これからこの場所で起こる惨劇を、彼女に見せたくないと思っておられる」


「惨劇、ですって……?」


「そう。玉宮瑠阿よ、貴様はこれからエルクロス様の手で、心臓をえぐり出されるのだ」


「君の心臓は、コッペリオンハートの材料として有効活用させてもらう」


「……そういう事。あんた達、それも見越して真子を攫ったのね!?」


 二人の言葉から、瑠阿は理解した。メアリーを手に入れる事だけでなく、瑠阿の心臓も手に入れる。その為に、真子を攫った。彼女は元々、瑠阿の友人である。その彼女を誘拐すれば、瑠阿は必ずメアリーに同行すると踏んでいたのだ。


「そうだ。というかだね……」


 エルクロスはそれを肯定し、少し間を置いてから、瑠阿に告げる。



「元々私は、君の心臓を使って不老不死になるつもりだったんだよ」



「……え……?」


 言っている事がよくわからなかった。エルクロスは、そもそも瑠阿の心臓を材料に、コッペリオンハートを発動するつもりだった、という事はわかったのだが、なぜ自分だったのかわからなかったのだ。


「ギヌーゾとの戦い、ここからしっかりと見せてもらった。理解出来ただろう? 君は自分でも予想出来ないほどの潜在能力を眠らせている。そしてその潜在能力は、まだまだあんなものじゃない。将来必ず優秀な魔女になる君の心臓を使えば、それだけ私の力も確固たるものとなったのだ」


 コッペリオンハートは、ただ単に使用者に不死身の肉体を授ける魔法ではない。材料になった魔女や魔道士が優秀であるほど、それに応じて恩恵を使用者に与える。能力の強化や、特殊能力の付与など、その恩恵は様々だ。


 そういう点からでも、コッペリオンハートは特級禁呪に認定されたのである。


「それなのに、玉宮劉生に邪魔されてしまった。だが、そう簡単に諦めはせんよ。いつか必ず、君の心臓を手に入れてみせる。それまで君が私の地位を脅かさないよう、君の潜在能力は私の術で封印させてもらった」


 やはり、瑠阿の潜在能力を封じたのはエルクロスだった。必ず手に入れるが、今自分のものにならないなら、せめてしかるべき時まで自分の脅威にならないよう封じておく。この男が考えそうな事だ。


「わかったかね? 君が逃げなければ、君の父親は死なずに済んだのだよ。身勝手な娘のせいで夫に先立たれて、君の母親が可哀想だ」


 あの時の恨みを晴らすかのように、エルクロスは瑠阿を責め立てる。お前さえ自分の要望に応えていれば、イレギュラーな犠牲を出さずに済んだのだと。


「そんな……あたしのせいでお父さんが……!!」


 瑠阿は自責の念に駆られた。自分さえ犠牲になれば、父は死なずに済み、母が悲しむ事はなかったのだと。


「瑠阿。惑わされちゃ駄目だ」


「メアリー……」


「さっき言ったばっかりじゃないか。エルクロスは自分の立場を利用して、必ず君に揺さぶりを掛けてくるから、心を乱されないでって」


 そんな瑠阿の後悔を断ち切ったのは、メアリーだった。エルクロスがこういう卑怯な真似に出る事は、とっくに予想していたのだ。だから、前以て注意していた。今一度、メアリーは注意を促す。


「揺さぶりとは心外だな。私は本当の事を言っただけだ」


「じゃあ訊くけど、瑠阿が犠牲になったとして、あんたは本当にこの家族に手を出さなかったと言えるのか?」


 メアリーが考える限り、とてもそうは思えない。必ず一家に手を出し、残る劉生と青羅の心臓も奪ったはずだ。目の前に禁呪の要となる材料があるのに、無視するようなバカはいないだろう。


 案の定、エルクロスは答えない。沈黙も一つの答え。つまり、図星だったのだ。


「瑠阿。こんなドス黒い悪党の為なんかに、君の綺麗な心臓を差し出す事はないよ」


「あたしの心臓が、綺麗?」


「綺麗さ。いつも君の血を飲んでいる、僕が言うんだもの」


 メアリーが見た瑠阿の血は、とても美しかった。こんな綺麗な血が流れている心臓は、きっと綺麗な心臓に違いない。そう、ずっと思っていたのだ。


「そういうわけだ。あんたが受け取るのは魔女の心臓じゃない」


 メアリーはヘルファイアとナイトメアを召喚し、その銃口をエルクロスに向ける。


「あんた自身の死だ」


 エルクロスに対して贈れるものなど、何もない。あるとすれば、それはただ一つ。死だ。それなら笑顔で贈る事が出来る。


「そうかそうか、どうしても私と戦う道を選ぶのか。ならば、仕方あるまい」


 エルクロスは壁に架けてあった剣を、物体浮遊の魔法で呼び寄せ、片手で掴み取る。


「私の邪魔にならないよう、始末するとしよう」


 交渉は決裂。ならば、あとは戦うしかない。メアリーは瑠阿の仇討ちに協力する為、エルクロスは自分が創り上げる世界を完璧なものにする為に。


「瑠阿。エルクロスは僕がやる。君は真子を助けてから、ゆっくりおいで」


「わかったわ」


 瑠阿はメアリーの指示に、素直に従った。というのも、エルクロスは不死身である為、瑠阿には倒せないからだ。それに、真子は依然として人質に取られており、予断を許さない状況でもある。


 なら、戦力分担は簡単だ。不死身のエルクロスとメアリーが戦い、瑠阿がモルドッグを倒して真子を救出する。


「……っ!!」


 瑠阿は、真子に向かって駆け出した。それに合わせて、メアリーが発砲する。エルクロスは鮮やかな剣技で弾丸を弾き、あっという間にメアリーに接近した。斬り掛かってきたところを、ヘルファイアとナイトメアを交差させて止める。


「頑丈な銃だな。叩き斬るつもりでやったのだが」


「ヘルファイアとナイトメアは、連射の反動に耐える為に頑丈に造ってある。そんな聖兵装でもないただの剣じゃ、傷一つ付けられないよ」


 大口径の弾丸を撃つなら、反動も大きなものになる。だから頑丈な銃を造らなければ、撃ち続ける内に反動で自壊してしまうのだ。メアリーはひたすら銃の強度を追い求め続け、結果、普通の武器による攻撃では破壊不可能なほど頑丈になってしまった。


「ほう、これが聖兵装ではない事に気付いたのか」


「魔道具職人志望だから、魔道具に対する目利きには自信があるよ」


「流石は奇跡の姉妹の妹、といったところだな」


 エルクロスの剣が聖兵装ではない、通常の武器であると一瞬で看破したメアリーの目利きを、彼は素直に評価した。


 メアリーはそれに構わず、剣を弾いて発砲し、エルクロスを攻撃するが、全て避けられる。


「攻撃を避けなければならない戦いなど、本当に久し振りだな」


 メアリーは先程から、攻撃に霊力を込めて繰り出している。その攻撃を受ければ、それはたちどころに致命傷となり、エルクロスは死んでしまうだろう。


「僕の攻撃が恐ろしいなら、さっさと真打ちを出せば? 出し惜しみしていていいの?」


 無論、あんな粗悪品がエルクロスの本来の武器ではない事くらい、とっくにわかっている。


「私の全力がそんなに見たいのかね? なら私を追い詰めて、引き出してみせるといい」


 しかし、まだ本当の武器を使うつもりはないらしい。その態度が何だかムカついたので、メアリーは再び発砲した。


「わしの相手はお前か」


「真子は返してもらうわ!」


 瑠阿と真子の間に、モルドッグが割り込む。


「ギヌーゾとの戦いで多少は力を目覚めさせたようじゃが、その程度でわしに勝てると思ってもらっては困る。奴はあくまでも強い相手の身体を使って戦う事しか出来んからな」


「あんたこそ、封印が解けたあたしの力、舐めないでよね!」


 瑠阿とモルドッグの間には、未だに力の差がある。だが、何も出来ずに真子を奪われた、あの時とは状況が違う。


「はぁっ!!」


 モルドッグに向けて、杖から電撃を放つ瑠阿。


「ぬぅんっ!!」


 モルドッグもまた、瑠阿に向けて片手から電撃を放つ。


「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 さらに電撃を強める瑠阿。


「ぬぅっ!!」


 やがて瑠阿の電撃はモルドッグの電撃を押し切り、モルドッグはバリアを張って防いだ。


「驚いた? あたしはメアリーから、魔力をコントロールする方法を学んだの」


 平常時は魔力の出力を抑え、非常時に瞬間的に魔力を高める事で、普通に魔力を使うより高い出力を出せる。封印を解かれ、自身の高い潜在能力を発揮出来るようになった今の状態と組み合わせれば、結果はご覧の通りだ。


「封印されていたって言っても、何もしてなかったわけじゃないのよ!」


 魔力弾を連射して応戦する瑠阿。彼女の力を完全に見くびっていたモルドッグは、防戦一方だ。メアリーの言った通り、モルドッグはフットワークが弱い。正面からアクティブに戦える瑠阿とは、相性が悪いのだ。


(でも、いくら撃ち込んでも破れる気配がしないわ)


 結界貫通の魔法も使っているのに、モルドッグのバリアは破れない。それはやはり、出力の問題だろう。向こうも向こうで、腐っても元青服なのだ。


「かぁっ!!」


 と、モルドッグがバリアを展開したまま、魔力弾を撃ってきた。飛び退いてかわす瑠阿。即座に電撃で反撃するが、魔力弾が通った後だというのにバリアには穴が空いておらず、そのまま防がれてしまう。


(もっと大きな魔法を使えば破れると思うけど、真子が……!!)


 破る手立てがないわけではない。ただ、モルドッグのそばには真子が眠らされているのだ。仮に起きていたとしても、縛られているので逃げる事は出来ないだろうが。


(まずどうにかして、あいつを真子から引き離さないと!)


 今はとにかく攻撃を続け、これ以上余計な真似をさせない事だ。


「どうした!? 久し振りの戦い方で、カンを取り戻すのに時間が掛かってるのかな!?」


 一方メアリーは、エルクロスを追い詰めていた。というのも、エルクロスの動きがぎこちないからである。


 理由は、メアリーの攻撃を避けなければならないから。今までの戦いは不死の身体のおかげで、どんな攻撃も避ける必要がなく、喰らいながら勝ってきた。


 しかし、メアリー相手の場合は攻撃を受けて即再生、という手が使えない。というわけで、必然的に避ける戦いをしなければならなくなる。エルクロスにとってはとても久しい戦い方で、コッペリオンハートを自身に使う前の状態に戻そうと必死なのだ。


「そぅらっ!!」


「!!」


 メアリーが蹴りを放つ。彼女の血で出来ているブーツが硬化し、打撃力を高め、エルクロスの剣を破壊した。


「じゃあそろそろ終わらせてあげるよ。こっちもようやく、ウォーミングアップが終わったところだ」


 今まで散々ウォーミングアップと言ってきたが、それは身体を動かすという意味ではない。異端狩りに対する殺意を極限まで高めるという、精神のウォーミングアップだ。そしてそれが、ようやく終わった。


「終わりだ、エルクロス!!」


 メアリーはヘルファイアとナイトメアを撃つ。同時に、弾丸に込められていた魔力が分離し、ショットガンのように無数の弾丸となってエルクロスに殺到する。



 それを見て、エルクロスは笑った。



 その次の瞬間に、エルクロスの全身を炎が包み込み、弾幕を燃やし尽くした。



「何!?」


 メアリーは驚愕する。強固な対物対魔弾に魔力だけでなく、霊力まで燃やされ、消え去った。その異常な温度の炎が晴れた時、エルクロスは一本の西洋剣を携えていた。


 刀身は黒く、金の文字で何かが刻まれている。その文字の部分が光り、炎を放出して刀身を包み込んだ。


「君があんまり本気で来るものだから、私も思わず本気になってしまったよ」


 どうやら、あの剣がエルクロスの真打ちらしい。エルクロスは剣を振り、炎の津波を瑠阿目掛けて飛ばした。


「瑠阿!! 危ない!!」


「え? きゃあっ!」


 メアリーの叱責で気付いた瑠阿は、炎をかわしてメアリーの元まで戻ってきた。エルクロスの剣を、再び炎が包む。


「何あれ!? 剣から炎が!? それにすごい魔力……!!」


 瑠阿は剣の魔力に驚いていた。フェリアの至宝に匹敵するか、それ以上かもしれない。


「あれが、エルクロスの聖兵装なの……?」


 しかし、瑠阿は違和感を感じている。異端狩りの聖兵装からは、腹立たしい事に聖なる力を感じるのだが、あの剣からはそれを感じない。魔道具である事は間違いないのだが、非常に禍々しい力を感じるのだ。


「違う。あれは魔剣コルベウスだ」


「コルベウス!? あれが!?」


 メアリーの言葉に、瑠阿は驚く。その名前については、彼女も知識があったのだ。


「……生命力と引き換えに、あらゆるものを燃やす炎の魔剣。でも、なんでそれをあいつが持ってるの?」


 強力な魔道具で、あらゆる魔族がそれを求めた。だが、コルベウスは力と引き換えに命を吸う魔剣だ。性能がピーキーすぎる為、使い手達はコルベウスを持て余した。


 コルベウスは使い手を食い殺しながら、様々な魔族の元を転々とし、いつしか行方知れずとなってしまった。それが、瑠阿の中にあるコルベウスに対する知識だ。


 ところが、メアリーの頭の中には、その先の知識があった。


「最後にあの剣を手に入れたのは、レニデック・シャニウ……そうか! そういう事か!」


「えっ!? 何、どうしたの!?」


 メアリーはコルベウスを最後に手に入れた者を知っていた。そして、あらゆる全てがわかってしまった。


「お前は、レニデック・シャニウの血縁者だな!?」


 エルクロスは答えない。


「何なのよ!? 何の話をしてるの!? レニデックって誰!?」


 瑠阿は困惑するばかりだ。メアリーは、瑠阿に話す。


「レニデックは、コッペリオンハートを編み出した魔道士だよ」


「何ですって!?」


 瑠阿は驚いた。しかし、それならいろいろと説明もつく。エルクロスが、誰も知らないはずのコッペリオンハートの使い方を知っていた理由も、行方知れずになったはずの魔剣を持っている理由も。


「そうだ。私はレニデック・シャニウの一族の末裔だ」


 エルクロスは、ようやく白状した。やはり彼こそ、レニデックからコッペリオンハートの使用方法を受け継いだ、一族の末裔だったのである。


「そもそも、コッペリオンハートはコルベウスをノーリスクで使えるようになる為の魔法なのだよ」


 コルベウスの凶悪な力を引き出す為に必要なものは、持ち主の命。しかし、命などというものは簡単には用意出来ない。


 そこで、かの魔剣を手に入れた魔道士、レニデックは考えた。不老不死となり、無限の生命力を手に入れれば、コルベウスの力をデメリットなしで使えるようになると。


 そして試行錯誤のすえに編み出されたのが、後に特級禁呪に認定される事になる大魔法、コッペリオンハートだった。コッペリオンハートはレニデックが望んだ力を発揮し、コルベウスをノーリスクで使えるようになった。しかしそれだけでは終わらず、レニデックは魔界を、人間界を支配しようと動き出したのだ。


 不老不死の肉体と絶対的な攻撃力を両立させた存在というのは、脅威以外の何者でもない。レニデックを阻める者は誰もおらず、このまま両界はレニデックの手に落ちてしまうかに思われた。


 しかし、事態を重く見たある組織が動き出した。いや、組織と言えるほど大規模な集団ではない。言ってみれば、大学のサークルのような、軽い団体だ。


 その名は、ハーフライフズ。人間や、種族の異なる魔族の間に生まれた混血児達が集い、互いの力を高め合う団体。


 そこには何人かのダンピールが所属しており、レニデックを止められるのは不死殺しの霊力を持つ自分達だけだと思った彼らは、結束してレニデックを打ち倒したのである。


「だがレニデックは自分の子孫達に、コッペリオンハートの使用方法と、コルベウスを受け継がせた。いつか再び不老不死を成し遂げ、世界を我らの手に握る為にな」


 もう千年以上昔の話だが、レニデックの子孫達は先祖の願いを、脈々と受け継いでいた。その最後の一人が、エルクロスだ。そしてその為に、ジャスティスクルセイダーズを隠れ蓑として力を蓄え、実行に移した。


「私の先祖はダンピールの力を見誤り、敗れて死んだ。そして今、ダンピールが私の覇道を阻もうとしている。実に、忌々しい光景だよ」


 彼の家系はダンピールとの因縁深き血筋。ゆえにダンピールを憎んでもいる。先人と同じ轍を踏まぬよう、ダンピールを利用しようとしたが、相容れぬ者同士、やはり上手くいかなかった。


「永遠の命を求めた魔道士と、永遠と引き換えに永遠を終わらせる力を得たダンピール。仲良くなれるはずもない……やはり我々は、殺し合う以外に道を見出せないようだ」


 魔剣コルベウスの炎が、エルクロスの憎しみに呼応するかのように、邪悪に揺らめいた。

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