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Blood Red  作者: 井村六郎
Episode13
26/40

後編

 さて、勢い良く啖呵を切ったはいいものの、具体的にはどうすればいいのか、皆目見当も付かない。


(転生魔法なんて初めて聞いたわ)


 それどころか、禁呪という魔法の詳細自体、昨日知ったばかりだ。知識が足りない。知識がない以上、対策の立てようがない。


「来ないの? じゃあ、こっちから先に仕掛けさせてもらうわ」


「!!」


 ギヌーゾはヘルファイアで銃撃してきた。慌ててかわす瑠阿。


(とりあえず、あいつの攻撃を捌けるようにならないと!!)


 自分の身を守れなければ、メアリーを助ける以前の問題だ。ギヌーゾはヘルファイアに加えて、ナイトメアでも銃撃してくる。それをかわしていく瑠阿。


(よけてばかりじゃ駄目!)


 瑠阿はギヌーゾの攻撃を捌く為に、下準備を始める。


 まず、物体浮遊の魔法を杖に掛けた。ただ掛けるのではなく、杖の先端に圧縮する。これで、まず第一段階が完了。


 次に、力眼の魔法を使う。これで、下準備は完了だ。


 ギヌーゾが発砲し、ヘルファイアとナイトメアから、一発ずつ時間差で弾丸が飛んできた。二つとも、瑠阿の身体を狙っている。


 瑠阿は、力眼の魔法によって、弾道を見切った。


(見切ったら、反らす!!)


 飛んできた弾丸に合わせて、杖を振る瑠阿。先端に圧縮された物体浮遊の魔法に弾丸が接触し、あらぬ方向へと飛んでいく。


(反らす!!)


 もう一発の弾丸も、同じように反らす。


「「!!」」


 ギヌーゾも、瑠阿も驚いた。こんな命懸けの鍛錬はした事がなかったので、瑠阿自身もぶっつけ本番で成功するとは思っていなかったのだ。しかし、成功した。


「…………」


 ギヌーゾは冷静さを取り戻し、再度ヘルファイアとナイトメアを連射する。それに合わせて杖を振るい、瑠阿は弾丸を捌いた。


「やった……!」


 思わず小さな歓声を漏らした瑠阿。まぐれではなく、自分の実力でメアリーの攻撃を捌いた。それは、今まで教わる身でしかなかった瑠阿にとって、確かな自信となる。


「どうやら遠距離攻撃の防ぎ方は心得ているようね。それじゃあ少し攻め方を変えてみましょうか」


 このまま銃撃を続けても無駄だと判断したギヌーゾは、攻撃方法を変える事にする。


 転生魔法は、ただ肉体を乗り換えて終わりという単純な魔法ではない。肉体に刻まれた記憶を読み取る事で、肉体の元の持ち主の戦い方を、そっくりそのまま自分のものとして取り込む事が出来るのだ。


「よし、じゃあこれ!」


 メアリーの記憶を読み取ったギヌーゾは、ヘルファイアとナイトメアを放り投げて召喚した。


 それは、魔剣ディルザード。幾度となくメアリーを、そして瑠阿を救ってきた、吸血鬼アグレオンと魔女フェリアの、メアリーの両親の形見。


 その何よりも大切な剣を、二人を殺した異端狩りの仲間が、メアリーの身体を操って使っている。その事実に、瑠阿は腸が煮えくりかえるような思いを抱いた。


 しかし、だからといって冷静さを欠いたりはしない。メアリーの記憶を読み取ったのなら、あれがどういうものなのかも知っているはず。これは、挑発だ。自分の中から冷静さを奪い、怒りに任せた特攻をさせる事が狙いなのだ。ここで挑発に乗れば、それこそギヌーゾの思う壺だ。そんな事をすれば、本当にメアリーを助けられなくなる。だから、落ち着け。自分にそう言い聞かせて、瑠阿は落ち着きを取り戻す。


「あら。怒って攻撃してくるかと思ったけど、案外冷静なのね。ただの雑魚魔女という認識は、改めた方がいいかしら?」


 やはりギヌーゾは、瑠阿を挑発していた。もう少しで乗ってしまうところだったと、瑠阿は安堵する。


「もっとも、これを凌げればの話だけどね!」


 ギヌーゾはディルザードを振りかぶり、瑠阿目掛けて振り下ろした。それをかわす瑠阿。ギヌーゾは逃げた瑠阿を追い掛けて、ディルザードを振り回す。


「くっ!」


 メアリーの吸血鬼としての怪力は、どんなに大きく重い物でも軽々と振り回す。並の使い手ならデッドウェイトにしかならない大剣も、メアリーが使えば回避・防御共に困難な、殺戮兵器に早変わりだ。


 先程と同じように、物体浮遊の魔法を駆使して反らそうとするが、威力も質量も桁外れなディルザードによる攻撃は、瑠阿の力では反らし切れない。せめてもっと魔力があれば、それも可能になるのだが。


(どうして!? 何であたしにはこんなに力がないの!?)


 彼女に掛けられた封印は、メアリーからプレゼントされたリングの力によって既に解けているはずだ。それなのに、彼女の中にあるという潜在能力は、目覚める気配がない。


「もらった!!」


「!!」


 自分の力を目覚めさせる事に気を取られて、反応が遅れた。ディルザードを振りかぶったギヌーゾが、必殺の一撃を振り下ろす。瑠阿は避けられない。


(ごめんなさいメアリー!!)


 瑠阿は目を閉じた。


 だが、ズガンッ!! という大きな音が響いただけで、真っ二つにされた感覚も、粉々に吹き飛ばされた感覚もない。


 恐る恐る目を開けてみると、ディルザードの刀身は、瑠阿のすぐ隣に突き刺さっていた。


(外した……?)


 なぜ外したのか。目測を誤ったのかと、瑠阿はギヌーゾを見る。


 ギヌーゾは片手で頭を押さえて、苦しんでいた。


「しぶとい奴め……よくも邪魔を……」


(邪魔?)


 瑠阿はギヌーゾの言葉の意味を、よく考える。この場にはギヌーゾと瑠阿しかおらず、邪魔出来る者など誰もいない。


 そこで気付いた。邪魔したのは、メアリーだ。メアリーの意思はまだ残っていて、ギヌーゾを邪魔したのだ。


(今!!)


 瑠阿は駆け出した。転生魔法を破る方法はまだわからないが、動きを止める事は出来る。今はまず、この絶好の機会を利用してギヌーゾを拘束しよう。そう考えたのだ。



 だが、瑠阿が思い付いた苦肉の策は、



「動くな」



 ギヌーゾが発した一つの言葉によって止められた。



「な、なんで……」


 身体が動かない。どんなに力を込めても、指一本動かせず、一歩も前に進む事が出来ない。魔法も使えない。動いたのは、口だけだった。


「あー、ちょっと落ち着いてきた……便利よねぇ。この隷従の指輪」


 ギヌーゾが次に発した言葉を聞いて、瑠阿は血の気が引いていくのを感じた。鏡を使って自分の顔を見れば、きっと真っ青になっている。


 メアリーの記憶を読み取ったギヌーゾは、隷従の指輪の存在に、メアリーと瑠阿が絶対の主従関係にある事に気付いたのだ。そしてそれを、利用した。


 メアリーの身体を乗っ取った今なら、隷従の指輪に命令して、瑠阿を無力化するなど造作もない。始めから、この戦いの勝敗は決まっていたのだ。


「こんな事しなくても私の勝ちは決まっていたけど、うろちょろされるのも面倒だったから、使わせてもらったわ」


 ディルザードを構え直すギヌーゾ。瑠阿は必死に身体を動かそうとするが、全く動けない。


「何してるのよ隷従の指輪!! あなたはメアリーを満足させる為に造られたんでしょ!? そいつはメアリーじゃないわ!! メアリーの身体を使ってるだけの、偽物なのよ!!」


 隷従の指輪に呼び掛ける瑠阿。だが、どんなに呼び掛けてみても、瑠阿の身体に自由は戻らない。


「偽物なんかじゃないわ。この身体の主導権を握っている以上、今は私がメルアーデ。隷従の指輪は、立派に自分に与えられた役目を果たしているわ」


 ディルザードを振り上げるギヌーゾ。身体が動かない。避けられない。


(あたしの身体も、何であんな奴の命令に従ってるのよ!? あれはメアリーじゃない!! あいつの命令に従ったら、本物のメアリーが不幸になるのよ!? だから動いて!! 動いてよあたしの身体!!)


 メアリーの為にも、この命令にだけは絶対に従うわけにはいかない。抵抗を続ける瑠阿。


「隷従の指輪はフェリアの至宝の一つよ? あなた程度の魔力で、逆らえるわけないでしょうが!!」


 そんな瑠阿に今度こそ留めをさすべく、ディルザードを振り下ろすギヌーゾ。


 だがその時、


「うううあああああああっ!!」


 瑠阿は右に倒れるようにして転がった。ディルザードはまたしても床に突き刺さり、瑠阿の抹殺に失敗する。


「!?」


 ギヌーゾは目を見開いて驚いていた。


 よけた。絶対であるはずの隷従の指輪の支配に逆らい、瑠阿が拘束を破ってギヌーゾの攻撃をよけた。


 瑠阿自身も、自分がやった事が信じられなかった。今まで何をしようと絶対に逆らえなかった隷従の指輪による支配に、初めて逆らえたのだ。


「止まれ!! 動くな!!」


 再度命令を下すギヌーゾ。これにより、再び瑠阿の動きが止まる。


「……ぅんっ!」


 だが、瑠阿は命令に逆らって動き、一歩踏み出した。


「馬鹿な……どうして……!!」


 隷従の指輪の支配が通じない。そして、ギヌーゾは瑠阿の魔力の変化を感じ取る。


 十倍、二十倍、いや、三十倍もの魔力が、瑠阿の中から溢れ出している。瑠阿もまた、自分の力の変化に気付いていた。


「これが……あたしの力……?」


 敵の命令に逆らい、絶対にメアリーを救い出す。その気持ちが瑠阿の深層心理に強く働きかけ、遂に瑠阿の潜在能力が目覚めたのだ。


「いける!」


 瑠阿はギヌーゾに攻撃を仕掛けた。


「ちぃっ!」


 魔力で杖の強度と、身体能力を強化した瑠阿の攻撃を、ギヌーゾはディルザードで受け止める。


「まさかあなたにこれほどまでの力があったとはね」


「メアリーはあたしが助ける!!」


「そんなにこの子が大切なの?」


「当たり前でしょ!?」


 激しく打ち合う二人。


「なるほど。でもね、私にとってもエルクロス様は大切な人なの。これはエルクロス様から与えられた重大な役目……必ず果たす!!」


「何でエルクロスなんかの為にこんな事するのよ!?」


 瑠阿からすれば、なぜギヌーゾがエルクロスの為に協力するのか、理解出来なかった。己の欲望の為に魔女の家族を襲って父親の心臓を抜き取り、自分が所属していた組織すら裏切る畜生ではないかと、瑠阿は訴える。


「私はあの方に、命を救われたのよ!!」





 ギヌーゾは転生魔法を駆使して、数百年もの時を生きている。つまり、オルベイソルが建国される前から生きている、ジャスティスクルセイダーズ最古参のメンバーの一人なのだ。


 強い力を持つ肉体を見つける度に、彼女は転生魔法でその肉体を奪ってきた。ある時、エルクロスに遭遇したギヌーゾは、その強大な力に魅せられ、彼の肉体を奪おうとしたのだ。


 首に二度触れる事には成功した。しかしエルクロスとの戦闘で、転生魔法発動に必要な魔力が足りなくなっていた。エルクロスに殺してもらったはいいが、魔力が足りないせいで転生出来ず、そのまま死ぬところだったのだ。


 その時、エルクロスは破壊されたギヌーゾの肉体を綺麗に修復し、ギヌーゾの魂を肉体に移植して蘇生させたのだ。


「面白い魔法の使い手だ。私の部下になれば、もっと強力な肉体を手に入れる機会を与えよう」


 自分の肉体を奪おうとした相手だというのに、命を救い、生きる機会を与える。そのエルクロスの器の大きさに完敗したギヌーゾは、彼の部下になる道を選んだのだ。




「そんなの、都合のいい手駒を増やす為の口実じゃない!!」


「あなたにあの方の何がわかるというの!?」


「わかんないわよ!! あたしにはお父さんの仇にしか見えないわ!!」


 どのような目的があれ、エルクロスはギヌーゾを救った。しかし、だからといって劉生が殺されていい事にはならない。エルクロスを許す事は、やはり出来なかった。


「魔女なんかにわかってもらおうなんて、最初から思ってないわ。私はエルクロス様から与えられた命令を、忠実に実行するのみ」


 ギヌーゾはディルザードを構え、瑠阿も杖を構える。


「いくら力が目覚めたといっても、私にはメルアーデの肉体というアドバンテージがある。あなたにこのアドバンテージを覆す事は出来ない!!」


「く……」


 瑠阿の潜在能力は確かに目覚めた。だがそれでもメアリーの肉体は強く、まだそれを越えられてはいない。


(瑠阿! 瑠阿!)


(メアリー!?)


 未だに打開出来ていない苦境。そこに光明を差し入れるかのように、メアリーが思念通話で瑠阿に話し掛けてきた。やはり、メアリーの意思はまだ塗りつぶされていなかった。この瞬間も、メアリーの意思はギヌーゾの意思と戦い続けていたのである。


(でも、僕の力じゃ肉体の主導権は奪い返せないみたいだ。やっぱり、君に託すしかない)


(託すって……どうやって!? あたし転生魔法どころか、禁呪についてもよく知らないのに……)


(よく聞いて。転生魔法と言われたらものすごく強力な、恐ろしい魔法に聞こえるけど、実際にやっている事は、憑依魔法と何も変わらない。そして、憑依魔法は超高等技術と呼ばれている。なぜ憑依魔法が超高等技術と呼ばれているのか、よく思い出すんだ。そこに攻略の糸口はある!)


 瑠阿がそれを見つけるまでの時間は、自分が稼ぐと言って、メアリーの声は聞こえなくなった。


「まだ邪魔をする気!? なんて自我の強い奴なの!?」


 代わりに、ギヌーゾが苦しみ出す。メアリーの意思が干渉し、邪魔しているのだ。メアリーの想いを無駄にしない為にも、瑠阿は思案に入った。


 憑依魔法が超高等技術と呼ばれている理由。それは単純に、失敗しやすい魔法だからだ。


 無機物への憑依は簡単だが、人間や魔族に憑依しようとすると、難易度が途端に跳ね上がる。それは、それらの存在が魂を、自我を持つからだ。異物である他の魂が割り込もうとすると、よほど強い魂でなければ追い出されてしまう。


 そんな難しい魔法を、確実に成功するほどまでに高めている転生魔法。なぜそこまで成功率を上げる事が出来たのか、そこに攻略の鍵はあるはずだ。


 瑠阿は転生魔法に課されている制約に着目した。転生する相手の首に、素手で二回触らなければならない。成功すれば、その証として喉に刻印が刻まれる。


(刻印……もしかして!)


 あの刻印は、術が成功した以上の意味を持つのではないか。そう思った瑠阿は、ギヌーゾに向かって駆け出す。


「こ、のっ!」


 ギヌーゾはディルザードを振り回すが、メアリーの意思が干渉して頭痛が走り、思うように振る事が出来ない。

 その隙を突いて、瑠阿は杖に魔力を込めると、刻印に叩き付けた。


「ぎゃああああああっ!!!」


 刻印と杖の間にスパークが発生し、杖が弾かれる。ギヌーゾも、けたたましい声を上げた。


「やっぱり、その刻印が転生魔法の核なのね!?」


 思った通りだった。刻印は、ギヌーゾの魔力の塊なのだ。そして、その中にはギヌーゾの魂もある。転生魔法を発動した際、ギヌーゾが魔力をほぼ使い切ってしまうのは、魔力が魂を保護して転生先に移るからだ。


 ギヌーゾの魂がまだメアリーの魂を塗り潰していない今、あの刻印に瑠阿の魔力を叩き付ければ、追い出す事が出来るかもしれない。


 瑠阿はメアリーの魂に、強く呼び掛ける。


(メアリー! 今からあたしが、ギヌーゾの魂を追い出すわ! 全力でギヌーゾを押さえ込んで!)


(わかった!)


 メアリーからの、力強い返答。すぐにギヌーゾの動きが止まる。


「まだ何かするつもり!? 何をしたところで、わたしの転生魔法は」


「やあああああああああああああああっ!!!」


 ギヌーゾの言葉を遮り、瑠阿が咆哮を上げながら、杖にありったけの魔力を込めて、刻印に叩き付けた。


「うぐっ!?」


「はあああああああああああああっ!!!」


 さらに魔力を込めていく瑠阿。魔力が高まっていくに従って、刻印が薄くなっていく。


「ば、馬鹿な……私の、転生魔法が……!!」


 刻印は完全に消え去り、メアリーの背後に半透明なギヌーゾが現れた。ギヌーゾの魂だ。瑠阿は転生魔法を破り、ギヌーゾの魂をメアリーから追い出したのだ。


「まだよ!! まだ、私は!!」


 再び転生しようとするギヌーゾ。瑠阿は魔力を使い切ってしまい、また転生されたら助けられない。


 だが、その心配は必要なかった。


 意識を取り戻したメアリーが、ギヌーゾに片手を向けたのだ。


 その手には、不死殺しの霊力を圧縮して作った光球がある。


「いいや、もう終わりだよ。寄生虫のクズ野郎」


 メアリーは霊力を叩き込む。霊力はギヌーゾの魂に浸透し、ギヌーゾは爆発、消滅した。


「メアリー……」


「瑠阿。ありがとう」


 魔力が尽き、立っているのもやっとだった瑠阿を抱き締め、優しく寝かせたメアリー。回復の効果のある魔法薬を飲ませ、少し休ませる事にする。ギヌーゾを倒した事で結界が解かれ、ビルの中に戻った。しばらくは安全だろう。その間にメアリーはディルザードをしまい、ヘルファイアとナイトメアを回収する。


「やったわよ。隷従の指輪の力を、跳ね返してやったわ」


 得意げに笑う瑠阿。これでもう、メアリーに隷従の指輪で辱められる事はないと、喜んでいる。


「ああ、あれね。あれは君の力じゃなくて、隷従の指輪のカウンターが働いたんだよ」


「えっ?」


 メアリーは話した。


 隷従の指輪は、状況によっては非常に危険な魔道具になる。では、隷従の指輪の持ち主に起こり得る最悪の事態とは何か。それはマスターリングの装着者が、第三者に操られた時である。


 だから隷従の指輪にはフェリアによって、命令に従う事が主を不幸にする場合、サーヴァントリングの装着者は命令に逆らう事が出来るというカウンタープログラムを仕込まれていたのだ。


 ギヌーゾがもっとちゃんとメアリーの記憶を読んでいれば、隷従の指輪で瑠阿を無力化する事が悪手であると気付けたのだが、隷従の指輪で操れるという事しか見ていなかった為、気付けなかったのだ。気付いた時には、もう手遅れだった。


「なーんだ……隷従の指輪より強くなったと思ったのに……」


「あはは。でもね、これは君が僕と確かな信頼関係を築いていないと、出来ない事なんだよ」


 相手の事を心から想わなければ、気付く事は出来ない。メアリーは瑠阿が、自分の事を想って行動してくれた事が、とても嬉しかった。


「……もう回復したわ。さっさと行きましょ!」


 瑠阿はそれが照れくさくて、先に歩いて行ってしまう。メアリーはそれを、苦笑しながら追い掛けた。



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